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こころ(作:四方田 萌)

(二階堂の悪趣味なメタミステリーによって、部室の空気は完全に凍り付いていた。一ノ瀬は、青ざめた顔で、わなわなと震えている)


一ノ瀬「文学は……人を殺すための道具ではないのよ……!」


二階堂「あら、これはあくまで、論理的思考の訓練ですよ。感傷を持ち込む方が、どうかしています」


(一触即発の空気の中、四方田は「まあまあ」と二人をなだめるように、ぱっと手を挙げた)


四方田「お待たせしました! 暗い話はもうおしまいです! 私の『こころ』で、このドヨンとした空気を、一気にブチ上げてみせますから! ていうか、私、気づいちゃったんですよ。『こころ』って、マジでヤバい話なのに、言葉がムズすぎて、今の私たちには、イマイチ、ピンとこないんじゃないかって!」


一ノ瀬「……なんですって?」


四方田「だから私、超訳してみました! 先生の、あの、ガチでしんどい気持ちを、今の私たちの言葉で! これなら、絶対、刺さるはず! 題して、『こころ・令和ギャル語訳』です!」


(四方田は、スマホの画面をキラキラしたデコレーションシールが貼られた指でタップすると、明るく、しかし、どこか切ない声で朗読を始めた)


***


こころ

作:四方田 萌


ちょりーす。いきなりこんな手紙とか、ウケるよね。でも、君にだけは、マジな話、しとかなきゃって。これは、俺の、マジで黒歴史な、罪の話。


ぶっちゃけ、俺の人生って、ずーっと、誰も信じらんないモードだったわけ。親戚のオッサンに金パクられてさ、マジ人間不信。世の中みんな、自分のことしか考えてないクズだって、本気で思ってた。


そんな時に、Kっていうダチができたんよ。Kは、俺とマジ真逆。クソ真面目で、夢に向かって、一直線みたいな。俺ら、よくレスバしたけどさ、あいつの、あの、ピュアな感じ? なんか、ちょっとだけ、いいなって思ってた。Kといる時だけは、俺の、この、ひねくれた感じが、ちょっとマシになる気がしたんだよね。


で、そこに、奥さん、登場。今の俺の嫁ね。彼女、マジで天使。キラキラしてて、一緒にいると、俺の、この、ドス黒い心が、なんか、浄化される感じ? この子となら、俺も、ワンチャン、リア充になれるんじゃね? みたいな。マジで、希望の光だった。


でもさ、その光が、俺を、また、最悪の道に引きずり込んだわけ。


ある日、Kが、クソしんどそうな顔で、言ってきたんよ。「ごめん、俺、お嬢さん(奥さん)のこと、好きになっちゃったかも」って。


その瞬間、俺の中で、何かがブチ切れた。は? 俺の光、横取りすんの? みたいな。マジで、嫉妬の炎が、メラメラって。


で、俺、マジでクズなことした。Kが、一人でグルグル悩んでる隙に、奥さんの親に、「娘さんください!」って、フライングゲットしたんよ。奥さんの親が、Kじゃなくて、俺を選んだって知った時の、あの、ゲスい優越感。マジで、一生、忘れらんねぇ。


そしたら、K、死んじゃった。


部屋で、血まみれになって。


枕元に、短い遺書があってさ。『もっと早く死ぬべきだったのに、なんで今まで生きてたんだろ』って。


それ見た瞬間、全部、わかった。あいつ、フラれたから死んだんじゃねぇ。俺に、この世でたった一人、信じてたダチに、裏切られた、その絶望で、死んだんだって。


あいつを殺したのは、俺の、この、キモい承認欲求と、嫉妬心なんだよ。俺は、Kの死体見て、ガチで、震えることしかできなかった。


それから、俺の人生、マジで抜け殻。奥さんとは結婚したけど、心は、ずっと、死んだまま。彼女を幸せにしたいって思うのに、結局、俺の、この闇に、彼女を付き合わせるだけ。マジで、地獄。


そんな時に、君と会ったんだよ。


君、マジで、昔のKに、そっくりなの。あの、真っ直ぐな目とか。君に「先生」とか呼ばれて、懐かれて、マジで、嬉しかったけど、同時に、クソしんどかった。君といると、俺が、どれだけクズか、思い知らされるから。マジごめん。君は、俺と出会わなきゃ、もっと、ハッピーな人生だったはずなのに。


もう、マジ無理。


この、罪悪感を背負って、生き続けるの、マジで、限界。奥さんには、金は、ちゃんと残した。俺が死ねば、彼女も、いつか、俺のこと忘れて、幸せになれるっしょ。


君は、まだ若いんだからさ、俺みたいになんなよ。人を信じろ。たとえ、裏切られても、その方が、マシだから。


これは、俺の、心の、全部。君に、託すわ。


この手紙が、君の目に触れる頃には、俺は、もう、この世にいない感じ。てか、ガチで、死んでるから(笑)。


***


(四方田、読み終え、少し潤んだ目で、しかし、やりきったという笑顔で、三人の顔を見た)


四方田「どうです!? 言葉は軽いけど、先生のしんどさは、ガチで伝わってきません!? これなら、古典アレルギーの人でも、一気読み間違いなしですよ!」


(自信満々の四方田に、部室は、何と言っていいか分からない、複雑な沈黙に包まれた。最初に口を開いたのは、二階堂だった。彼女は、こめかみを指で押さえ、心底、頭が痛い、という顔をしていた)


二階ード「……頭が痛いわ……。あまりにも、情報量が……少ない。全ての語彙が、感情の解像度を著しく低下させている。これでは、被疑者の精神鑑定書としては、全く役に立たない。……でも、ある意味、一番、狂気を感じたわ」


三田村「……言語体系の、強制的なダウングレード。古いプロトコルで記述された高密度の感情データを、極端に語彙の少ない、最新のOSで無理やり実行した結果、深刻なデータ破損ロストが発生している。……しかし、その破損したデータから、コアとなる『罪悪感』のパラメータだけは、異常な高数値として、ノイズの中から浮かび上がっている。興味深い現象です」


一ノ瀬「…………」


(今まで、どんな解釈にも、必ず何かしらの反応を返してきた一ノ瀬が、ただ、虚空を見つめて、黙り込んでいる。やがて、その瞳から、一筋、涙がこぼれ落ちた)


一ノ瀬「……漱石先生……。申し訳、ありま、せん……。私の、愛した文学が……こんな……。もう、私、部長、辞める……」


四方田「えええええっ!? なんでですか!?」


---

議事録担当・書記(四方田)追記:

というわけで、『こころ』チャレンジ、これにて閉幕! なんか、部長はガチ泣きして辞めるって言い出しちゃうし、副部長と宙ちゃんは頭抱えてるし、カオスすぎたけど、私は私の解釈が一番イケてたと思うな! 先生の心、みんなに届いたよね? 次の活動も、楽しみー!


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