97. 新しいスラム
この町での草食系魔人の扱いを知ったアスタロートは、町の近くの森で巣を作り生活することにした。
幸いにも、勇者たちはこの町にいて、しかもうち二人は町の外で、修行をしているという。
とりあえず今日は、町の外で修行をしている二人を見つけて、その近くに巣を作ろう。
その後は、何かいいイベントがあれば近づけるんだろうけど・・・。
まぁ、あと二人が復帰するまではまだ時間がかかりそうな話ぶりだったからゆっくり考えればいいだろう。
町の正門から外に出ようとすると、先ほどの門兵が近づいてきた。
「おぉ。あんたか。もう出るのか。いや、正しい判断だ。用事がないときは町の外にいた方がいい。ようがある時だけ、町に来たらいいさ。町外周の柵をたどって、向こうの方向に歩いていくと、外で暮らし始めた亜人向けの出店をしている人がいる。食べ物で困ったときは、町に入るより先にそこで買った方がいい。」
騎士は、町を出て左側の方を指さす。
「はい。ありがとうございます。」
アスタロートは、特に勇者たちの場所を知っているわけでもないので屋台に寄ってから勇者たちを探すことにした。
騎士が言っていた屋台は、町の東側にあり、アスタロートが町に入った位置は南側である。
東側は最も森に近い町の入口で、そこには堀の外側に真新しいスラム街が広がっていた。
広さは、大きくないが草食系の亜人たちが暮らしているようだ。
話を聞くと、人間生活に慣れすぎた草食系亜人たちが、町での生活は危険だから町を出たのだが、森の中での生活や巣作りが分からないため、町の隣にスラムを作ったのだという。
スラムを散策すると、騎士のいっていたように出店も広がっており賑わっている。
「安いよ。安いよ。」
「どうだい、この野草新鮮だよ。藁や干し草なんかもあるよ。」
「この武器、切れ味いいよ。」
「雑貨屋だよ。今なら少し安くするよ。」
露店主たちが口々に客を集めている。
そんな露店でアスタロートの目を引く店があった。
筋肉モリモリのマッチョマンの人間店主が客引きをしている。
「どうだい、この筋肉。強くなるには筋肉を育てよう!」
見たところ、筋トレグッズを売っているようだ。
強くなるために筋トレは必須だと思っていたアスタロートにとっては丁度よい。
店の前まで行くと店主が話しかけてくる。
「おっ。おねぇさん。強くなりたいかい?そうであるならば、筋肉を育てよう。今回の騒動で町の人間たちに裏切られたと思うかもしれないが、心配ご無用。鍛え上げた己の筋肉は決して裏切らない。見よ。この鍛え上げられた筋肉を!あまりの筋肉の発達具合から、私を亜人間違う人が現れてな、今回このスラムに移動してきたのさ。」
男がポーズを取り左右の大胸筋が交互に動いている。
男の動きは気持ち悪いが、すごい筋肉だ。
「少し商品を見ても?」
「あぁ。存分に見ていくといい。筋トレ石達は、左から右に行くにつれて重くなっている。自分に合った石をよく選ぶと言い。」
地面に布を敷き並べられている石はどれも野球ボールサイズだ。
真ん中のものを一つ持ってみる。
「えっ、重!」
野球ボールくらいの石ころだ。
せいぜいあっても1kgくらいだろう。
この石20kgくらいあるぞ。
「ハハハ。手に持ってみるのは初めてかい?」
「あぁ。結構重いんだな。」
「そうだろう。他のも持ってみな。」
一番軽いと言っていた石をもつ。
「軽っ!」
ほとんど、何も詰まっていないんじゃないだろうか・・・。
ほとんど、重みを感じない。
これで、何を鍛えるというのだ。
気になるのは、一番右の重いとされている石だ。
「ハハハ。お客さんやめておきな。モコモッコ羊の亜人に持ちあげれるようなものではないよ。」
店主は笑いながら止めてくるが、それも理解できる。
アスタロートが少し触れても動く気配がない。
アスタロートは石の正面に立ち、力を入れ30cmほど持ち上げる。
クソ、めちゃくちゃ重い。
100kgぐらいあるんじゃないだろうか。
前世の自分ではまず持ち上げることはできなかっただろう。
「うぉぉぉ。すげぇぇぇ!」
ここで、店主が騒ぎ出す。
「お客さんもしかしてプロの人かい?」
アスタロートは、石をゆっくり地面に置く。
店主がプロの人かと聞いてくるが、なんのプロかは知らないが、自分がそのプロでないことだけは確かだ。
「いや、プロじゃないけど・・・。」
「こりゃ驚いた。じゃぁ、日ごろから筋肉を育てているのかい?」
「まぁ、それは、そうだけど・・・。」
しまった、この石はそう簡単に持ち上げられるものではなかったらしい。
店主が騒ぎ始め周囲に亜人の人だかりができる。
「なになに、どうしたの。」
「あの、モコモッコ羊の亜人がスーパーヘビィ級のおもおっも石を持ち上げたんだよ。」
「えっ、うそ。モコモッコ羊の亜人なのに。」
「選手なのかな?」
「いや、選手じゃないみたいだぜ。」
「へぇ。普段は、何級を使ってトレーニングしているんだ?」
何級ってなんだよ。
「いや、この石は使ったことないよ。」
「ひょっほーーーー。この出会いは、筋肉のお導きだ。君は、一緒にスーパー金玉ベルトを目指さないか!いや、目指そう!見よ。私の大胸筋がこの出会いを祝して踊っているぞ。」
何その下ネタベルト。
「いや、結構です。」
「だめだ!私が許さない。」
やだ、この店主怖い。
もう行こう。
アスタロートが、店の前を立ち去ろうとすると、店主が足にしがみついてきた。
「いやぁぁぁ。いかないでぇぇぇぇ。このスーパーヘビー級のおもおっも石は、ただの力自慢では持ち上げられないのだよ。腕・指・腰・足の力を鍛え上げ、さらに体感が求められる。君は、選ばれた才能の持ち主なのだぁぁ。奇跡の人材なのだよ。」




