98. 拠点作り
先ほどの人だかりも、店主の奇行を見て蜘蛛の子を散らしたようにどこかへ行った。
店主を引きずりながら町の外へ行こうと動くが、この店主尋常じゃなく重い。
これだけの、ゴリマッチョなのだ。
重いのは分かるのだが、300kgぐらいあるのではないかと思えるほどだ。
「お、重い。」
「トレーニング用の重しをつけた私をこうも軽々引きずるとは!その体、やはりトレーニングを積んでいるな!諦められない。」
店主が、アスタロートの足や腰を手でまさぐり始める。
「素晴らしい筋肉だ!」
「やめろぉぉぉ!」
アスタロートはたまらず振り払う。
変に抱きつかれて、変装していることがバレたら大変だ。
「お前、これ以上突っかかるなら、騎士団に突き出すぞ。」
「おぉ。それは、困る。失敬。失礼した。つい、良き筋肉に出会えて興奮してしまったようだ。」
店主は、我に戻ったのかすくりと立ち上がる。
「おい。俺は、そのプロとやらにならないからな。」
変装をしてから口調を変えていたアスタロートだったが、少し素の自分が出てしまう。
「これ以上言っても逆効果だな。分かった。だが、あなたには素質がある。そんなあなたにこちらの、私が独自に開発した寝ても覚めても筋トレセットを受け取ってもらいたい。なに、遠慮はいらん。この店に来たということは、筋トレグッズを探していたのだろう。これを受け取って、鍛錬に励むと良い。そして、もし気が変わり選手になりたいと思ったら、私のところに来てほしい。」
そう言うと、男は店の奥から、タオル状の布にポッケが複数付いているものを取り出す。
「これが、特性の寝ても覚めても筋トレセットだ。このポッケにおもおっも石を砕いた砂を入れて、腰や、脚、腕に付けて体に負荷をかけるんだ。脚や腕に重りを付けていることがバレたくない女性に重りを隠すバンドもある。これを巻けば、ファッショナブルに人目を気にせず筋トレをすることが出来る。さぁ、受け取って!」
「あぁ。ありがとう。」
男が両腕に抱えた布を受け取る。
おも。
「ははは。かなり。重いだろうが、君ならこのくらいから初めてもいいだろう。その重りになれれば君は1段階も2段階も次のステップに進むことが出来るだろう。重量を増やしたくなったら俺のところにまた来いよ。」
店主は、アスタロートが見えなくなるまで店の前で手を振っていた。
アスタロートは、周囲の人に知り合いだと思われたくないため、知らない振りをしてそのままスラム街を出て森の方へ歩いて行く。
人気のないところで早速、筋トレグッズを装備するためだ。
森に近づいていくと森に近い草原で魔法を撃っている二人を見つける。
遠目だが、ピンク髪の女性と黒髪の男だから、勇者パーティーの二人で間違いないだろう。
ここに来て急に順調にやりたいことが進んでいることが怖い。
最初に勇者パーティーに味方して、フルーレティーを倒していれば、もっと楽に仲間になれたのだろうが・・・。
まぁ、今となってはフルーレティーを助けたことに後悔はないが・・・。
今後、勇者パーティーに入ればフルーレティーと戦わなければいけない時が来るのか。
そう思うとかなり複雑な心境になる。
どうにかして戦わなくてすむようにしたいものだ。
そのまま、森の中に入る。
人に見えない茂みの中でアスタロートは翼を広げる。
「くぅぅぅ~~~。」
精一杯翼を広げて、こりをほぐす。
ずっと同じように体に巻いていると翼も凝るものなんだな。
店主からもらった筋トレグッズを身に付ける。
腰にはコルセットのように付け、腕と足にもバンドを着けていく。
どこかの民族衣装のようなバンドで重りを隠すように上から巻く。
「よし。装着完了。」
体を動かしてみるとかなり動きにくい。
フルーレティーの強化魔法がなくなって体が重く感じていたが、更に動きにくくなった。
まぁ、これを付けて生活すれば間違いなく肉体的にトレーニングになるだろう。
それに、自分の実力を隠すにはちょうど良い負荷になりそうだ。
勇者達の仲間になるのに、今の勇者達よりも圧倒的に強い奴を仲間にするよりも、実力が近いものの方が仲間に入れやすいだろうし、勇者達にももっと強くなってもらう必要がある。
勇者達が強くなっていくのに合わせて重りの負荷を外してパーティー内のパワーバランスが崩れないようにしよう。
まぁ、まだ勇者の仲間になった分けではないんだがな。
体の動きを確認して、重りにより鈍くなった動きに満足する。
勇者パーティーの前では、本気は出さないように自分の動きを制限するために、この重りはちょうど良い。
よし、後は、この辺りに巣を作ろう。
勇者達はあと2人が復帰するまではしばらくこの町に留まるだろう。
この辺りに巣を作れば、勇者達の修行も近くで見ることが出来るし、声をかけるチャンスが訪れる可能性が高い。
そうと決まれば、少し背の高い木の上にジャンプで飛び上がるアスタロート。
翼はすでに体に巻き付けてモコモッコ羊モードに入っている。
バキ。
ズドン。
アスタロートが飛び乗った枝は、その衝撃に耐えられず、真っ逆さまに落ちる。
「あうち。」
咄嗟のことに受け身を上手く取れずお尻から地面に落ちる。
それもそうだ。
アスタロートの体重は、もとの数倍になっている。
そんなアスタロートが枝に飛び乗って耐えられる枝は少ない。
アスタロート自身も、更に動きにくくなったことで、お尻から落ち痛みに耐えている。
頑丈な木を探さなければ・・・。
勇者達がいる方向へ向かいながら頑丈な木がないか探し歩くアスタロート。
バキ。
ドン。
これで何度目か分からないほど、枝と一緒に落ちるているアスタロート。
おかげで、巣作りに必要な枝はもう十分集まっているだろう。
たった今一緒に落ちてきたで巣作りに使えそうな部分と今まで集めた枝やツタをまとめて持ち引きずりながら太い木を探し彷徨う。
夕方になり日もかなり傾いてきて、アスタロートがそろそろ木の上に巣を作ることを諦めようかと思った時、この世界で見たことのある珍しい木を見つけた。
ゴクゴックツリーだ。
この木の実は中に大量の水を貯える変わった木なのだ。
木に巻き付いているチューブ状のツタを切ればそこから実の中の水を飲むことが出来るのだ。
この木は大量の水を貯える性質上、枝は丈夫なはずだ。
アスタロートが、飛び乗ってみても、枝は多少しなるものの折れなかった。
よし。ここに巣を作ろう。




