54. 目的の地まで
ドン。
リザリンは、辺りに生えていた草を無造作に引き抜き、ドンと荷台の上に置いた。
「ほらよ。」
「・・・。」
ほらよって、言われても・・・。
これ食べろってこと?
いや、無理なんですけど・・・。
リザリンは荷台の上に草や苔、花などを置くとみんなのほうへと歩いて行った。
ノーズルンも自分の食べ物を探しに行ったのか近くにいない。
他のみんなは、自分が獲得した生き物に嬉々としてかぶりついている。
地獄絵図だ。
何も調理せずにくらいついている姿を見て魔人たちと一緒にご飯を食べようという気になれないし、魔人たちの食事風景に食欲も失せていく。
というか、今は食べれるものがないのだが・・・。
アスタロートは、リザリンが置いていった草をつまんで匂いを嗅いでみる。
スンスン。
青臭い匂いがする。
はぁ。もしかしたら、異世界の草は美味かと思ったらそうではないらしい。
草だ。雑草だ。
それも、花とかが咲くタイプじゃないただの雑草だ。
カタツムリが美味なのに草は普通に草なのかよ。
美味にするならキノコとピーマンにして欲しいものだ。
食べられないと判断すると、草を森のほうへすべて投げつけアスタロートは横になる。
今日は朝食を食べてから飲まず食わずのため空腹だったが、魔人たちの方から血の匂いが漂って来てアスタロートの食欲は無くなった。
腹は減っても大丈夫だが、のどは乾いた。
喉を潤すために、アスタロートは魔法で氷を生み出して口の中に放り込む。
今日はここで野営にすると言っていたからもう寝てしまってもいいだろう。
アスタロートは口の中の氷をころころ転がしながら横になっていると、氷が解け切ると同時に眠りについた。
ぐぅぅぅ~
辺りがまだ暗闇で包まれているころ。
アスタロートは空腹で目が覚めた。
すでに何度か空腹で目が覚めたが、明日の朝何か食べ物を食べようと思いうずくまって寝ていたが、先ほど目が覚めてから星の位置がほとんど変わっていない。
時間が分からないアスタロートに夜がどれだけ続くのか分からない。
辺りは静かになっており魔人たちも眠りについているようだ。
血なまぐさい匂いは消えており、アスタロートの胃袋が食べ物をよこせと主張してきた。
いい加減自分の空腹に嘘をつくことができなくなったアスタロートは体を起こすが、頭もとに丸いものが置かれていることに気づく。
ん??
今気づいたが、木の実がいくつか置かれている。
誰かがとってきてくれたのだろうか?
自分と親しい間柄といえば、リザリンと今日知り合ったノーズルンくらいだ。
リザリンはこんな事をするタイプに見えない。
だって、雑草を取ってくるくらいだから・・・。
おそらく自分が寝る前にどこかに行っていたノーズルンだろう。
ノーズルンは、アスタロート同じ荷台の上で寝ている。
栗のような木の実が数個おいてある。
空腹をみたすにはちょうど良いだろう。
皮を割り中の身を取り出す。
見た目は普通の木の実が中から出てくる。
中身を見て少し安心するアスタロート。
異世界では何が起こってもおかしくない。
木の実が想像を絶する何かである可能性は十分あるからだ。
指でつまむようにして取り出し、慎重に匂いを嗅いでみる。
まずは、手で扇ぐようにして匂いを嗅ぐが、匂いが薄いせいか何もにおわない。
鼻に近づけて匂いを嗅いでみると木の匂いのほかに微かに香ばしい匂いががする。
これなら食べられそうだ。
少しかじってみると、アーモンドやナッツのような味がする。
薄味だが、結構いける。
かじった木の実は昨日の朝食から何も食べていないアスタロートの食欲を刺激する。
次の一口は木の実を丸々頬張る。
うん。おいしい。
残りの木の実の皮も急いで剥き数個の木の実はすぐに完食してしまった。
まだ少し、食べたりないアスタロートは木の実を探して辺りを探索することにした。
「おい。じゃぁそろそろ出発するぞ。今日には、町につくからお前らもそのつもりでいろよ。」
「うえぇぇい。」
魔人のほとんどが、リザリンの声掛けに対してうめき声のような返事を返す。
アスタロートは、先ほど見つけた木の実を両手に朝食食べた栗を抱えて昨日と同じ最後尾にほくほく顔でついている。
朝食を探しに行って、日が昇るまでになかなか木の実や果実が見つからなかったが、日が昇り始めてやっと先ほど食べた木の実がなっている木を見つけた。
両手にとれるだけ取って野営地に戻ると、みな出発の準備を進めていた。
アスタロートは、オーラを纏いながら両手にある木の実を眺めている。
今日の昼食べても夜に少し残るだろう。
食料があると安心感が違う。
目を輝かしながら手に持っている木の実を見るが、このままずっと手に持っているわけにもいかない。
魔人のみんなは、革製のカバンや服のポッケやベルトに荷物を入れているが、アスタロートの服にポケットはない。
アスタロートの服装は、異世界転生した直後からほとんど何も変わっておらず、白い古代ローマ人が来ていそうな服とサキュバスのおねぇさんにもらったマントを腰に巻いている。
服に収納する場所はないが、ちょうどものを挟んでおけそうな場所を知っている。
翼を折りたたむ関節の部分だ。
アスタロートは左右の翼に1つずつ丁寧に挟んでいく。
このまま空を飛ぶと全部落としてしまうが、空を飛ばなければ問題ない。
昨日と同じように、後ろをゆっくりと着いていきながら、氷のつららを舐めたり、木の実を食べたりしている。
「よーし。全員止まれ。この先に、目的の村がある。」
リザリンが声を掛けたのは、ちょうどアスタロートが木の実を半分ほど食べた頃だった。
ついに人狩の時が来たのだ。
アスタロートに緊張が走る。
アスタロートは列の最後尾にいるため前の状況はよく見えないが、木々の間からは少し開けた場所になっており奥に木製の質素な家屋が見える。
 




