53. アスタロートのドーン
オボロロロォォォォ。
「ひぃえぇぇぇ。アスタロートさんのドーンが止まらねぇ。」
「アスタロートさんが死んじまう。」
一度吐き始めると、胃の中に生き血が入っていると思うと気持ち悪くていられず、胃の中を空っぽにするまで吐き続けた。
最後尾の荷台にアスタロートと事の発端のノーズルンが乗り、ノーズルンがアスタロートの背中を細い腕柄さすってくれている。
荷台の後ろから外に顔を突き出して外に向いて吐いている。
アスタロートの眼下には、移り行く地面のみが見える。
時折、重い顔を持ち上げてみると、道しるべのような赤い斑点が見える。
アスタロートが吐き始めてからだいぶ時間が立ち辺りは夕暮れに包まれつつある。
ヴゥゥッ。
胃の中が空っぽになっているのか吐こうとしても餌付くばかりである。
太陽が沈みかけた頃、荷台が静かに地面へ降ろされた。
吐き疲れたアスタロートは、荷台の揺れがなくなるとそのままウトウトし始める。
「誰だよ。モコモッコ羊の亜人に動物の生き血を与えた奴は?モコモッコ羊は草とか木の実しか食べねぇことくらいガキでも知っているじゃねぇか。」
アスタロートの状況を聞いたリザリンが様子を見に来た。
「すっすみません。」
「お前か、ノーズルン。あーあーあー。ぐったりしてるじゃねぇか。」
アスタロートの前にリザリンが立ち様子を確認する。
「人狩りに直前に最高戦力のアスタロートを失ってまた負けたら笑い話にもならないぜ。明日、大丈夫なんだろうな。明日の夜には着く予定なんだぜ。」
「・・・。」
疲れ切ったアスタロートに返事をする気力はない。
「アスタロートさん、大丈夫ですか?」
ノーズルンがまた背中をさすってくれるが声を出そうとする気力が生まれない。
「ほら、何か食え。俺が捕まえたヒメリンゴマイマイだ。」
食べ物をくれるのだろう。
首を持ち上げるとそこには見慣れたサイズのカタツムリがいた。
プイ。
顔をそむけることで食べることを拒否するアスタロート。
普通のサイズのカタツムリを見て何も思わない自分がいる。
だが、そんなもの食べられるはずがないだろう。
「なんだ。ヒメリンゴマイマイは嫌なのか。ならオオカタツムリでも飲むか?」
オオカタツムリを口の近くに持ってくる。
ゆらゆら揺れる触覚が気持ち悪いが、何度も見ているといい加減感覚がおかしくなってきた。
確かに喉は乾いているが、オオカタツムリの体液をすするほど緊急事態ではない。
もう一度反対側に顔をそむける。
「おい、いいから飲めよ。」
アスタロートが顔をのけぞった反対側にオオカタツムリを近づけてくる。
「おい、いい加減にしろよ。」
リザリンはアスタロートの頭を押さえつけ、オオカタツムリをほっぺたに着けてくる。
絶対に飲むものか。
あと、角を掴むんじゃない、俺の角は繊細なんだぞ。
砕け散ったら絶対に許さん。
口を開けるとオオカタツムリをねじ込まれそうだから抗議の声も上げられない。
あぁ、くそ。
ほっぺたにぐりぐりオオカタツムリをくっつけるんじゃない。
「この頑固な奴だな。飲めったらのめよ。お前に倒れられたら困るんだよ。」
しびれを切らしたリザリンは、顎を掴んで無理やり口を開けさせようとしてくる。
「んーんーんー。」
抗議の声を上げようともうめき声にしかならない。
くそ。
馬鹿力め。
リザリンに込められる力が徐々に強くなっていく。
筋力にはそれなりに自信はあったんだが、押し負けそうだ。
視界の下で顎を抑えているリザリンの腕が茶色いオーラに覆われている。
「ん゛―!!」
こいつ、魔法で身体能力強化し始めた。
くそ、このままじゃ、口が開いてしまう。
「あのぉ。リザリンさん。」
ノーズルンが恐る恐るといった声音で話しかける。
「あとちょっとなんだよ。見りゃ分かるだろ。静かにしてくれ。」
くっくそぉぉ。口が開いてくる。
オオカタツムリを口の中へ入れるためにオオカタツムリを近づけてくる。
唇あたってる。
唇あたってるんですけどぉぉ。
「私が言うのもなんですが、あのぉ~モコモッコ羊は草や木の実が主食でして・・・。その~、何と言いますか、オオカタツムリは食べないかと・・・。」
リザリンの力がすっと抜けるのが分かった。
リザリンの腕を振りほどき、座りなおしてリザリンをにらみつける。
吐き疲れて寝ようと思っていた時になんてことしてくれるんだよ。
すっかり眠気が飛んでしまったじゃないか。
カーーー、ペッツ。
ペッペッペ。
くそ、唇にオオカタツムリの粘液がついた。
相変わらず独特のいいにおいがするが、この匂いの元がオオカタツムリだと分かっていると生理的に受け付けない。
リザリンは、オオナメクジをじっと見つめて少し考えているようだ。
「そうか、モコモッコ羊は食べないかぁ。お前はモコモッコ羊じゃねぇって言ってたけどまぁモコモッコ羊みたいなもんだもんな。生き物は食べねぇのか。」
「ぐぬぬぬぬ。」
モコモッコ羊だからオオカタツムリは食べないと納得されるのは癪だが、ここは黙っておこう。
下手に肉も食べるしなんて言えば、生肉を渡されるに決まっている。
この遠征が終わるまで、こいつらの前で肉は食べられなくなるが、オオカタツムリを強要されることに比べれば大したことない。
「だが、それだとこいつの水分補給どうするんだ?モコモッコ羊が普段何食べてるかなんて知らねぇぞ。」
「モコモッコ羊の主食は草ですね。水分はそこからと川の水を飲んだりしてます。」
「草なんか食べるわけねぇだろ。果実だ。果実をよこせ。」
草なんて持ってこられても困る。
ここはきちんと果実を要求せねば。
「おい。あんまりわがまま言うんじゃねぇ。オオナメクジ喰わすぞ。」
「すみません。草たべるっす。」
リザリンが、オオナメクジをちらつかせて睨んでくる。
くそ、前世のマネージャーならすぐにコンビニまで買いに行ってくれたのに。
だが、道中歩いていて気付いたが、食べれるような果実なんて見つからなかった。
これは、食べるものにこまるかもしれないな。




