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47. 人狩り準備

集会があった翌日の早朝。


ギルドの前に3台の馬車と食料を積んだ1台の荷馬車がギルドの前に止まっていた。


馬車の中は両側に長い椅子が取り付けられている。


ぎゅうぎゅう詰めに入って10人程度だろうか。


直射日光を避けられるように馬車は布で覆われているが、人間を物理的に拘束する道具がない。


これじゃぁ。隙を見て逃げ放題じゃないか。


本当に奴隷志望の人がいるのだろうか?


いや、きっと何か魔法で拘束するのだろう。


「なんだか、思ってたのと違うな。」


アスタロートがぽつりとつぶやくと隣にいたリザリンが返事をする。


「あぁん。どんなのをイメージしてたんだよ。そういえば、フルーレティー様から聞いたぜ。犯罪行為をすれば敵対するんだって?そのときは真っ先に俺様が相手になってやるぜ。お前と戦えるかも知れないと思うと腕が鳴るぜ。ブルァーッハッハッハ。」


リザリンは腕を回しながら馬車の方へ進んでいって指示を出し始めた。


リザリンは、アスタロートから今回の遠征の隊長を言い渡されている。


前回もそうだったらしい。


側近には、悪魔っぽい魔物が付いていた。


出発するメンバーはそろっているのだろうか。


結構な数の領民がそろっている。


辺りを見渡すと何人か見覚えのあるメンバーがいる。


フルーレティーの領へ来た初日に顔を合わせたメンバーだ。


昨日の広場にバクがいなかったため声を掛けたが、バクは参加しないらしい。


どうやら、今日も花を集めに行くらしい。


さてこれからどうするべきか。


気は進まないが人狩りに一緒に行くのは決まりだが、交友関係が乏しい。


親しい仲なのは、フルーレティーとリザリン、バクの魔人くらいだ。


フルーレティーは、後で空を飛んで来るらしいし、バクも花を摘みに行っている。


リザリンは、部隊を指揮するのに大変そうだし、新しい友人を作ってもすぐに敵対することになりそうだから、端の方でじっとしとくか。


端の方でじっとして、みんなが荷造りしている様子を見ている。


アスタロートは今、ひとりぼっちなのだ。


前世でひとりぼっちになることはなかった。


こういう場合はマネージャーが話し相手になってくれていた。


こういうとき何をすればいいのか分からない。


荷造りを手伝うと友人が増えるだけだ。


やることがなくて、じっと木下で座って作業しているのをぼんやり眺めていると、リザリンに茶色い子供が何かを話しかけていた。


「リザリン。俺も人狩りに連れて行っておくれよ。」


「あぁん。ツチノッコンじゃないか。お前にはまだ早いよ。懸賞魔人になってからだな。」


「あぁん。この前も同じことを言っていたではないか。」


リザリンの返事に納得できないのか地団駄を踏むツチノッコン。


「決まりなんだから仕方ないだろ。お前も遊んでばかりじゃなくて鍛錬を詰むんだな。お前最近全然、修行場に来てないじゃないか。そんなんじゃ。いつまで経っても懸賞魔人になれないぞ。」


「えぇ。訓練は嫌だー。」


文句を言って、辺りを走り出すツチノッコン。


その最中、アスタロートを見つけたのか、一直線にこちらへ向かってくる。


ゲッ。めんどくさい奴がやってきた。


アスタロートの町に来た初日のことをしっかりと覚えている。


まだ、一回しか会ったことはないが、アスタロートの中でツチノッコンは苦手な相手として認知されていた。


ツチノッコンは、話が通じない子供なのだ。


アスタロートが何度もモコモッコ羊ではないと主張しても、聞き入れてくれないほど思い込みが激しく、そして残念な感じなのだ。


子供だから手は出していないが、大人だったらアスタロートの張り手が炸裂しているだろう。


「モコモッコ羊のお姉ちゃんだ。」


この子はいつまで私のことをモコモッコ羊と呼ぶんだろうか?


「モコモッコ羊じゃないからね。」


ツチノッコンは、しまったと口に手を当てる。


「大丈夫だよ。毛が生えるまでは内緒だね。」


何が大丈夫で、毛が生えるまで何を内緒にするんだろうか。


「何を内緒にしてくれるの?」


「えーとねぇ。」


周囲を気にしながらツチノッコンが耳元で教えてくれる。


「お姉ちゃんが、モコモッコ羊の亜人だってことだよ。魔王様に毛をむしり取られたんでしょ? 毛が生えそろうまではみんなには内緒にしてるからね。」


「ありがとう。出来れば永遠に内緒にしてほしいな。」


誰がいつそんなことを言ったのだろう。


出来れば永遠に内緒にしていただきたいが、先ほどの感じからして知らず知らずのうちに漏れ出ていそうだ。


思い返せば昨日ギルドで晩ご飯を食べていた時、隣で肉を食べていた男が気まずそうにしていた。


気になって聞いても教えてくれなかったが、何度か聞くと「にっ、にく」とだけ教えてくれた。


肉の味が悪かったのでも思っていたが、なるほど合点がいった。


あの男は、モコモッコ羊のステーキでも食べていたのだろう。


おおよそツチノッコンの情報にでも来たのだろう、私がモコモッコ羊の亜人である偽情報が浸透してきているようだ。


角を見てモコモッコ羊だと思われることは多いが、翼をみてそうではないことを理解する人もいる。


そして、ほとんどの場合、一度モコモッコ羊であることを否定するとそう理解してくれる。


確かに角はモコモッコ羊の角と同じだが、羊に翼はない。


翼はむしろカラスに似ているとフルーレティーに言われたこともあるが、カラスの亜人と聞かれたことはない。


これほど、モコモッコ羊と言われる原因は何かと不思議に思っていたが、その原因はツチノッコンだろう。


確かに、牧場の牛に見られながらステーキは食えない。


あの男には悪いことをしたな。


まぁ、私はモコモッコ羊ではないが、次から飯を食べるときは隅の方で、1人で食べよう。


「お姉ちゃんも人狩りに行くの?」


アスタロートが1人で物思いに浸っているとツチノッコンが話しかけてくる。


先ほどリザリンとのやり取りを聞いていると大方この後に続くツチノッコンの質問も予想が付く。


「あぁ。先に言っておくけどお前は連れて行かないぞ。」


「えぇー。いいじゃん。連れて行ってよ。」


どうせ連れて行けないため先に断ると、ツチノッコンはだだをこねはじめた。


「さっきリザリンに言われていただろう。」


「えー。なら、おねぇちゃんの秘密ばらしちゃうよ。」


こいつ、子供のくせに私を脅しているのだろうか、ツチノッコンが秘密と言っていることは分からないが想像は付く、私がモコモッコ羊であることだろう。


そんなことは、どうせもう知らず知らずのうちに言いふらしているに違いない。


「いや、もう何人かに言いふらしてるよね。」


「言いふらしてないもん。」


ツチノッコンはノータイムで言い返してくるが、この感じはそう思い込んでいるだけな気がする。


「ふーん。領民に私が何の種族か聞かれたときになんて答えてるのかな?」


「それはね!あっ!え~っと。なんて答えたっけなぁ~。」


ツチノッコンは、勢いよく答えようとするが、自分の矛盾に気づいたのだろう、言葉を濁して、私の顔を伺ってきた。


「ヘロロロ」と空笑いをするツチノッコン。


アスタロートが少しおこった顔をすると、ツチノッコッンは「ごめんなさい」と叫びながら走り去っていった。


なんだ。素直なところはあるじゃないか。


どうして、頑なにモコモッコ羊であると思い込んでいるのだろうか?






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