48. 人狩り種発
ツチノッコンが走り去ってから程なくして、準備が完了したようだ。
荷馬車1台に食料や水が乗せられており、3台の人が10人くらい乗れそうな馬車があるが、馬車を引く馬が見当たらない。
そもそも、馬車など森の中進むことが出来るのだろうか?
「おい。行くメンバー全員集まれ。」
リザリンが招集を掛ける。
集まった人数はざっと30名くらいだろうか。
周囲を見渡すとちらほらと見たことのあるメンバーが集まっている。
フルーレティーの領に来た当初出会った、サキュバスやオオカミの亜人、黒い悪魔っぽい奴にリザリンの修行場で見かけた奴もいる。
「よし。あらかたそろったな。今から配置を説明するぞ。懸賞魔人の危険度3以下の者は、6人ペアを4つ作って運搬を頼む。危険度4以上の者は周囲の警戒を頼む。先頭は俺が受け持つ。後方は、アスタロートが付け。それ以外の者は荷台の周囲に付け。野生動物に、食料を奪われるんじゃねぇぞ。」
「おぉぉう。」
リザリンの指示に集まったメンバーが返事をし、指示の通り6人ペアを作り、未だに馬のいない馬車の周りに移動する。
辺りを見渡しても馬が見当たらない、いや待て、何も馬が荷馬車を引かなくては行けない決まりもない。
この世界のことだし、もかしたらモコモッコ羊が荷馬車を引くのかも知れない。
ギャラリーの中にモコモッコ羊にリードをつけたおねぇさんがいる。
なるほど、馬じゃなくてモコモッコ羊の可能性は大いにある。
辺りを見渡してモコモッコ羊がこちらに向かっていないか確認していると後ろからかけ声が聞こえてきた。
「せーの。」
後ろを振り返って見ると、馬車の周囲に集まった人たちが荷馬車を担いでいた。
「って、お前らが運ぶのかよ。」
相変わらず突っ込みどころの多い世界だ。
車輪が付いているのに担いでいるし、そもそも人が荷を引くのも違うだろ。
「どうしたんだ。アスタロート。うるさいぞ。」
リザリンに声を掛けられる。
「いや、これお前達が運ぶのか?」
「それ以外に誰が運ぶんだよ。」
「いや、馬とか力があって移動に適した生き物がいるだろう。」
「何言ってんだお前、言葉の通じない馬が荷物を運んでくれるわけがないだろう。自分たちでやった方が早いだろ。」
なるほど、この世界にはまだ動物を調教して働いてもらうという概念がないのか。
それに、力の強い亜人や魔人がいたり魔法が使えるこの世界でわざわざ言葉の通じない動物に運んでもらう必要もないのかもしれない。
「でも、車輪が付いているんだから何も担がなくてもいいじゃないか。」
「ブルァーッハッハッハ。お前、何も知らないんだな。平地では押すが森の中は車輪が転がらないから担いで行くんだぜ。さては、飛んでばかりで森の中を歩いたことないな。森の中は険しい道のりだから気をつけろよ。」
「ぐぬぬぬ。」
確かに正論だ。
整備もしていない森の中を、馬車を押して行けるわけがない。
荷馬車を担いでいたメンバーも担ぎ心地を確認した後、地面に下ろしていた。
もとの世界の常識が通用しないことは理解していたが、自分でそう思っていることと他人に指摘されることはまた受け止め方が違う。
強くなりたいと相談して、泥団子の投げ方をレクチャーするようなリザリンにお前常識ないなとは言われたくなかった。
何も言い返せなかったアスタロートは、ムッとした顔をしてリザリンを見つめることしか出来なかった。
リザリンは、勝ち誇った顔をしてみんなの方へ歩いて行く。
クソ、悔しいぃぃ!!!
絶対にやり返してやる。
後で敵対することになったらコテンパンにやっつけてやると心に誓った。
準備を終えた人狩り部隊は馬車を引きながら町の入り口へ移動し始めた。
アスタロートは、馬車最後尾につき後ろから様子を眺めていた。
馬が引くから馬車と呼ぶのであれば、亜人や魔人が引く荷台は亜人車とか魔人車と呼ぶべきなのかも知れないな。
荷台を引きながら町の入り口のかかしの魔人がいたところへ向かっていると、どうやら大勢の人が集まっているようだ。
横幕を掲げて立っている人たちはみなこの町の人間だ。
近づくと喧騒が聞こえてくる。
やはり、何事にも反対派がいるものなのだろう。
ましてや、人狩りの反対派となれば、やっていることだけにさぞ過激な反対運動なのだろう。
近づいて行くと声が聞こえてくる。
「おい。前の横断幕下ろせ。邪魔だ。」
「なによ。あなたがここで場所取りをしていなかったから悪いんでしょ。私たちは昨日からいるのよ。」
男と女が言い合っている。
路肩に横断幕を掲げている女性とその後ろに垂れ幕をあげている男性が言い争っている。
見えているのは女性の弾幕なのだろう、なんて書いてあるのか文字が読めないアスタロートには分からない。
きっと、人狩り反対みたいな抗議の文が書かれているのだろう。
「あぁん。お前達がいる場所に俺の横断幕置いてあっただろ!なんで、そこにお前達がいて、俺の横断幕が後ろに移動してあるんだよ。」
「知らないわよそんなこと。あなたがきちんといなかったのが、いけないんでしょ。」
あれ、なんか論点が違うような気がする。
2人がもめている内容に違和感を感じる。
「ほら。もうギルドメンバーが来るじゃねぇか。頼むから少しずれてくれ。俺の息子の顔が伝わらねぇ。」
「分かったわよ。少しずれてあげるから隙間からなんとか見せなさいよ。」
「あぁ。悪いな。」
このまま言い争っていると、弾幕に書いた伝えたいことを伝えられないまま終わってしまうことを恐れたのか、女性は場所を少し譲り、男性の弾幕が顔を出す。
その弾幕には、男の子の顔が描かれている。
「俺の息子の似顔絵だ。この子を連れてきてくれー。」
「私の彼氏の特徴よ。この特徴の人を連れてきて!」
わーわーと叫びながら伝えてくることは、自分の子を連れてきてくれだのといった要望だった。
ご丁寧に、似顔絵突きの弾幕まで用意している人がいる。
リザリンや他のメンバーも何も言わずに通り過ぎていく。
いつもの光景なのだろう。
喧騒の声をよく聞いてみるとどれも、連れてきてほしい人の特徴や歓声だ。
人狩りは人間公認のようで、この町に反対派はいないようだ。
町の入り口にいる人はかなり多く。
人混みで奥に広がっている畑が見えない。
この熱狂ぶりは、ハリウッドスターが来日したときと同じくらいの熱量だろう。
これから犯罪を犯してくる集団に向けている歓声とは思えない。
この世界は狂ってるんですけど。




