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46. 緊急集会

魔物ギルドの前まで行くとギルド前の広場に人だかりが出来ていた。


中央の広場に亜人や魔人が集まっており、それを取り囲むように人間がいる。


人間は、旗を振って中央の様子を伺っている。


戦争に行く兵士を送り出す人々のようだ。


「もうこんな季節なのか。」


リザリンはこの様子を見て落ち着いている。


町の雰囲気から緊急事態ではないようだ。


ギルドのすぐ横にはフルーレティーの姿も見える。


アスタロートがフルーレティーを見つけて近寄ろうとすると、リザリンに止められる。


「もうすぐ、始まるから後にした方がいい。」


「俺は、フルーレティーの側近でもあるんだけど。」


それなりに親しい仲だと思っていたフルーレティーとの接触をはばかられて、少しむっとして答える。


「まぁ。そういうな。すぐに終わる。フルーレティーの邪魔をしたいわけじゃないだろう。」


リザリンがアスタロートの肩に手を置いて引き留める。


「分かったよ。それで、集められて何をするんだ? 何か知っているようだったけど・・・。」


「あぁ。年に一度の盛大なイベントさ。」


なんのイベントか説明しようというところで、周囲の人から歓声が上がる。


フルーレティーが翼で羽ばたきギルドの看板の前でホバリング飛行している。


まるでその場所にガラスの足場でもあるのではないかと思えるホバリング飛行は流石だ。


周囲の人の視線がフルーレティーに集まる。


「随分集まったようだねぇ。今年もこのシーズンが来たよ。」


「うぉぉー。」


フルーレティーの声に観衆が答える。


初めて来たときは魔族と少し距離を取りながら生活しているような印象を受けたが、今日は周囲の人間も積極的に声を上げている。


フルーレティーは民衆が静まり返るのをじっと待ってから話し出した。


「今夜、西国へ向かって出発する。人狩りよ!」


随分不穏な言葉を発して拳を振り上げるフルーレティー。


「うぉぉぉ!!!」


魔族や亜人たちはその拳に合わせて叫ぶのは分かるが、人間たちも同様に同じような雄たけびを上げている。


その雄たけびに、反対意見など微塵も感じ取れない。


むしろ魔族たちよりも熱が籠もっている。


いや、なんでだよ。


人を魔族の領へ連れ去ろうとしているのに何で人が一番喜んでいるんだよ。


「俺の嫁を連れ去ってくれー。」


「私の子供もよろしくお願いします。」


「祖父がまだなのよ!」


人間たちの話に耳を傾けてみると、どうやら家族を東国に連れ去ってもらうように懇願している。


おいおい。正気かよ。


離れ離れになっているのは気の毒だが、身内を奴隷の身になるように誘うなんて正気なのか?


いずれにせよ、今回の任務は乗り気がしないな。


人を攫うなんて勇者としてあるまじき行いだ。


勇者の仲間としての道はかなりそれてしまっているが、人の道を外れるつもりはない。


「今回も前回同様に馬車を引いて町に行き、乗せれるだけ人を乗せて帰る。懸賞魔人の危険度3以下の者は馬車を引いてもらう。4以上の者には周囲を警戒してもらう。なお、今回も騎士団の抵抗が見られると考えられるが、心配は無用だ。懸賞魔人危険度10のアスタロートが新しく我らの同志となった。今回の戦いは勝ったも同然だ。失敗するとしたら特記戦力が現れたときくらいだな。」


おいおい。まじかよ。


俺はまだ参加するなんて言ってないぞ。


慌てて周囲を確認するも私がアスタロートであることは知れ渡っているのだろう、周囲からの視線が集まっている。


「おい、呼ばれてるぜ。お前も前に出てなんか言えよ。」


リザリンが背中を押して前に突き出される。


全く、勝手なことをしやがって。


しかたなく、フルーレティーの隣まで飛んで耳打ちをする。


「おい。人を攫うことになんて協力するつもりはないぞ。」


「あら、なんでかしら?」


「犯罪行為はしないんだよ。」


「ふーん。それなら問題ないわね。あなたの言う犯罪行為がどういうものか知らないけれど、人間の反応を見れば分るでしょう。みんなあなたに期待しているのよ。」


「いや、領民はそれを望んでいるかもしれないけれど、連れ去られる人はそうじゃないだろ。」


「あら、私の領は超人気奴隷先なのよ。私たちは望まない人は連れて行かないわ。むしろ、望む人すべてを連れ去れていないのだから。」


「はぁ。望んで奴隷になる奴なんているわけないだろう。」


話を聞いていて頭が痛くなりそうだ。


この世界に常識が通用しないことは重々承知しているが、望んで身分を奴隷に落とすものなどいないだろう。


「ふふふ。疑うのならば疑えばいいわ。分かった。ならこうしましょう。あなたは、私たちと同行するの、私たちがあなたの言う犯罪行為を行っていれば、私たちと敵対し西国の人を守ればいいわ。でも、もしあなたのそれに当てはまらなければ、あなたは私たちを騎士団から守ってほしいの。」


「十中八九裏切ることになると思うけどいいのか? 正直お前たちとも敵対したくないんだけど・・・。」


「ふふふ。あまり、私たち魔族を理解していないようね。私たちが、あなたの行動を縛ることはないわ。好きに動けばいい、ただし、その結果の尻ぬぐいは自身ですることね。信念に基づいて行動して敵対したものを町から追い出したりしないわ。次はあなたを打ち倒す準備をして行くだけよ。」


正直、ここでフルーレティー達と敵対することはしたくないが、西国側の騎士と共に魔族を追い返せば誤解も解けるかもしれない。


ここは、一緒に行こう。


敵対してもお咎めはないようだし、正直味方のふりして裏切るのは気が引けるが、ここは割り切ろう。


「ふーん。じゃぁ、敵対しても恨みっ子なしだぜ。」


領民たちは、アスタロートとフルーレティーが空中でこそこそと話をしているのを、静かに見守っていた。


話が長引いており少しざわついていたが、話を終えアスタロートが振り返ることで静まり返る。


ここは、一言話してリザリンの元へ帰ろう。


ここは、強い騎士役だな。


「私は、私の信念のもと行動する。私の進む道にあなた達がいる限り、あなた達は私の庇護下にある。」


アスタロートが翼を大きく広げそう宣言すると、領民から大きな歓声や拍手が送られる。


「うぉぉぉ。」


「私の子を攫って来て! 6歳くらいの男の子なの。」


「俺の嫁もお願いする。 ブロンド髪で大きなイヤリングをしている。」


正直、複雑な気分だ。


親族の誘拐依頼を嬉々として依頼されるなんてどうなってるんだか・・・。




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