44. オーラと魔力
アスタロートが投げた泥は、リザリンが投げた場所と寸分変わらないところに当たった。
「どっひょぉぉぉ。お前すげーな。あのスピードで俺とおんなじ場所に投げやがった。」
リザリンは、両手を握りしめながら興奮している。
修行をつけてもらおうと思ったのに、泥団子の投げ方を教えられて頭にきていたが、リザリンの異常な興奮のしかたを見て熱が冷めた。
「いや、そんなに凄いことじゃないだろ。」
「ブルァーッハッハッハ。天才って奴は、こういう奴なのかもな。お前がクリームケーキを投げて逃げられる奴はいないぜ。」
「おい。俺はクリームケーキを投げる方法を教えにもらいに来たんじゃねぇぞ。」
「あぁ。分かってる。お前本当に気づいていないのか? 普通、投擲なんて誰かに教えてもらわないとまともに出来ない技だぜ。」
「いや、そんなことないだろ。誰かが投げているのを真似すればいいじゃないか。」
「ハッ。やっぱり天才は言うことが違うねぇ。そんな、お前が俺に何を教えてもらおうってんだ?」
どうやら、リザリンにとって投擲はかなり高度な技であったらしい。
「魔法について修行したいんだ。出来れば理論も知りたい。」
アスタロートは、リザリンに自分が知りたかったことを素直に伝える。
「ブルァーハッハッハー。天才がそんなことを聞くのか? 魔法なんてものは、自分がイメージした技を出せるように訓練すればいいだけじゃねぇか。理論なんて知らなくたってどうにでもなる。見え方の理論を知らなくても物は見えるだろう。」
一体どんなことを教わりたいのかと構えていたリザリンだったが、魔法と聞かれて笑いをこらえられなかった。
魔族にとって、魔法は物を見たり聞いたり触ったりすることと等しく、生まれ持ってきている感覚だ。
簡単な魔法の理論なんて子供でも知っている。
そんなことを教えてほしいと、投擲を我流で物にしている天才から言われるギャップと先ほど投擲を披露して怒鳴られた意趣返しのためにわざとらしく笑う。
ある番組でかけ算が出来ない奴が馬鹿にされていたが、そいつの気持ちが少し分かったような気がした。
だが、魔法に関してモヤモヤした気持ちは一度きちんと話を聞いて整理したいのも事実だ。
異世界転生してからまだ数日しか経っていない、この世界の知識は赤ちゃんと等しい。
アスタロートは、開き直って聞くことにした。
「じゃぁ。教えてくれよ。」
アスタロートの雰囲気を察したのだろう、リザリンが馬鹿にするのをやめて真面目な顔つきになる。
「いいぜ。といっても、何から教えてほしいんだ? 聞きたいことを聞いてくれ。」
「じゃぁ。まずは、魔法を使うときのこのオーラみたいな物と魔法を撃った後の魔法の違いとオーラは尽きることがあるのか教えてほしい。」
何度か戦闘したが、オーラが尽きて纏えなくなったものはいなかった。
よくある異世界転生物では、魔力切れはよくあることだ。
だが、バクマンもそうだったが、大技の魔法を撃って疲弊はしていたものの魔力切れの様な様子は見られなかった。
実際に自分がオーラを何度も纏っても、纏えなくなりそうな気配は感じなかった。
「オーラと魔法の違いなんて知って、博士にでもなるつもりか? 体に纏っている状態をオーラと呼んで、自分の意思で放った物を魔法と呼んでいるだけだ。違いは、他人が触ることが出来るのが魔法で触れないのがオーラだ。ほら、触ってみろ。」
リザリンは、両手にオーラを纏って手を差し出してくる。
「オーラは触れねぇだろ。」
アスタロートが両手をリザリンの手に乗せるようとすると、右手は触れるが、左手はオーラに見ていた物に阻まれる。
「あっ。」
よく見ると、左右で纏っているオーラが違う、いや・・・。
「ブルァハッハッハ。気づいたか。左手は魔法で右手はオーラだ。俺はよく体型から武闘派だと思われがちだが、魔法も極めているんだぜ。まぁ、オーラと魔法の違いなんてこんなもんだ。」
「へぇぇぇ。」
「もう一つの質問は、オーラは尽きることがあるのかだったな。たしか自然界からエーテルって呼ばれてる物質を体内に取り込んだものをオーラって呼んでるんだ。基本的にオーラが纏えられなくなることはない。なぜなら、魔法を放ったりオーラを纏うのに体力はいるから体力が尽きる方が早いな。ただこれは例外だが、たまにエーテルが希薄なところがある。そういうところでは魔法どころかオーラを纏うことも困難になる。」
「なるほど、大体整理出来たよ。ありがとう。」
「おう、お前のような強い奴が、こんなことを聞きに来るなんて意外だな。これからどうする? ここで修行していくか? ここなら、一般人は近づかないから思う存分に魔法や技を極めれるぜ。それに、お前の様な強者のトレーニングを見させてもらえれば俺たちの参考になる。」
ピーロロロロ。
ここで修行をしてもいいなら悪くないと思い返事をしようと思ったとき、耳を塞ぎたくなるような鳥の鳴き声が頭上から聞こえてきた。
空を仰ぐと緑色の鳥が円を描くように鳴きながら飛んでいる。
「うせぇ。なんなんだあの鳥。」
あまりのうるささに耳を塞ぎながらリザリンの方を見る。
「あぁ。何言ってんだ? 聞こえねぇよ。」
リザリンも耳を塞いでおり、聞こえなかったようだ。
しばらく、獲物を探す鷲のように旋回しその場から立ち去っていった。
飛び去ってから耳の調子が変だ。
キーンと耳鳴りがしている。
「うるせぇ。何だったんだ今の鳥?」
「あー。お前はまだ知らないんだな。ギルドの緊急招集だ。行くぞ。」




