42. バクの巣
右の翼を引っ張られる感覚で目が覚める。
丸まるような姿勢で寝ていた俺の隣にには、バクが俺の羽根を掛け布団にして寝ている。
仰向けになって、気持ちよさそうに寝ている。
なんだろう、ラノベ的に表現するなら今はおいしい気持ちをする場所なんだろうけど、全くドキドキしない。
いや、昨日はまだこいつに対してドキドキしていた。
では、どこからドキドキしなくなったのだろう。
いや、考えるまでもない、オオカタツムリの汁を果実にたっぷり付けて食べるし。
自分の魔法で人を眠らせるし、しゃべり方は子供っぽいしで大人の女性として見れないのだ。
昨日オオカタツムリの汁が掛かった場所なんてまだ匂いがする。
こいつ人を眠らせた上に俺の羽根を掛け布団代わりにするとは、恐ろしい子。
この自由気ままなところを見ていると子役の子を思い出す。
自由奔放というべきか、自分の気持ちに素直に行動するところがそっくりだ。
ゆっくり羽根をどかそうとするも、掴んで放してくれない。
変な姿勢で寝ていたからか、羽根がしびれてきた。
掴んでいる指を1本ずつ丁寧に剥がしていく。
最後の指を剥がし終えてゆっくり外に出ようとすると、バク勢いよく手を伸ばして翼を掴んでくる。
「お~ぉ~。モコモッコひ~つじ~、捕まえたぁ~。」
「モコモッコ羊じゃねぇよ。」
どんな夢を見てるんだよ。
「いただきまぁ~す。」
寝言で不穏なごとと共にバクは大きく口を開けて羽根にしゃぶり付いてくる。
口にくわえられた場所が濡れて気持ち悪い。
「こら、やめろ。」
アスタロートは強引に翼を引っ込める。
バクの巣の中で屋根が低いから中腰になって出口の方へ移動する。
「およよよ~。おはよぉ~。起きたんだねぇ~。」
「起きたんだねぇ~。じゃぁ、ないよ。人は眠らせるし、羽根は布団代わりにするし、あげくに食べようとするなんて。」
「あぁ~。羽根ありがとうねぇ~。凄く気持ちよかったよぉ~。」
「はぁ。そうですか。それは良かったですね。」
「もしかして、あたしが羽根をずっと掴んでいて痛かった? ごめんねぇ。」
こちらの雰囲気を感じ取ったのか誤ってくるが、誤ってくるポイントが少しずれている。
誤るべきは、羽根を掴んでいたことではなく、羽根を勝手に布団代わりに使用したことだ。
「はぁー。まぁ、いいよ。昨日泊めてもらった恩もあるしね。」
「おぉ。許してくれるのねぇ。優しいねぇ。民宿のおばさんは、いつもすごく怒ってくるんだぁ~。」
「その気持ちは凄い分かるよ。」
「えぇ~。そんなぁ~。」
同調してもらえるとでも思っていたのだろう、バクは私の答えを聞くと肩を下げて下を向く。
「もう少し、大目に見てくれてもいいと思うんだけどなぁ~。」
バクは、ぶつくさ文句を言いながら、巣の端の方へ這っていく。
太陽はもう上がっており、辺りは明るくなっている。
バクの巣は、大木の盛り上がった根の空洞を巣にしており、所々隙間が空いており光が差し込んでくる。
昨日は辺りをきちんと見ていなかったが、バクの巣は色々と工夫されているのが見て取れる。
木の根を削って、木の実を引っかけれるようになっていたり、根と根の隙間の下には水がためられるように大きな葉を重ねて置いていたり、大きな木の根には引き出しが作られておりその中には木の実が入れられている。
引き出しの中から、木の実を手づかみで掴み、葉っぱの上にのせて渡される。
「はい。どうぞ、どうぞぉ~。朝ご飯だよぉ~。」
どうやら、朝ご飯もくれるようだ。
すこし俺の機嫌を伺うようにしながら、色とりどりの木の実が乗った葉っぱを差し出してくる。
「ありがとう。頂くよ。」
俺も、鬼じゃない。
そもそも、そこまで怒っていないこともあるが、昨日のことや羽根を布団にしていたことはこの朝ご飯で水に流そうではないか。
中腰で立っていたアスタロートは昨日の晩ご飯を食べていた時と同様の場所へ腰を下ろす。
羽根を撫でてあっちこっち向いていた羽根を正していく。
「ほえぇぇ。手と羽根があると便利そうだねぇ。」
「まぁ、羽根があると飛べるからねぇ。あるとやっぱり違うと思うよ。」
「いいなぁ。あたしにも羽根があったらいいのになぁ。ほら、空からだと花を見つけやすそうじゃない。」
バクの手には、昨日の夜に食べたものと同じ果実を2つ手に持っている。
バクは、チラチラのこちらの様子をうかがいながら皮を剥いている。
ほうほう、この反応はあれだな、俺に花を探すのを手伝ってほしいのだな。
「悪いけど、花探しは手伝わないからな。今日は、昨日教えてもらったリザリンのところへ行く。」
「えぇぇ~。やっぱり駄目かぁ~。」
そう言うと、バクは巣の隅に立てかけている丸太のへと手を伸ばし、何かを取り出す。
オオカタツムリだ。
「うっ。」
昨日も見たが、やっぱり嫌悪感が凄い。
まだ殻が付いているオオカタツムリの殻を握力で握り潰すことで取り除く。
「じゃぁ今日はお花を食べないようにお腹いっぱいにして出かけないとねぇ。」
バクは、オオカタツムリを両手で握ると雑巾を絞るようにして汁を果実に掛けていく。
ブチュチュチュチュ。
「んん~。いい匂い。たまんないねぇ。」
隣でゲテモノを食べないでほしい。
本当にたまらないよ。




