41. バクの巣
「本当にいらないのぉ~?」
少しきつく言い過ぎたのか、バクが驚いたように聞いてくる。
「いらない!」
「遠慮しなくていぃんだよぉ。」
バクがオオカタツムリをアスタロートの視界に入れるよう近づけてに念を押してくる。
目の前で、ゆらゆら揺れているオオカタツムリを見て顔を背ける。
「いらない!それは嫌いなんだ。」
「へぇぇ~。オオカタツムリ嫌いな人なんているんだねぇ。これ掛けると更においしぃんだよ。」
バクは、更にカタツムリを顔に近づけてくる。
「ひぇぇ。顔に当たるじゃねぇか。」
アスタロートは、部屋の端へ顔をくっつけるようにして天敵から逃れる。
「おぉ。本当に嫌いなんだぁ~。ごめんねぇ。疑ってたんだぁ。」
顔の近くで揺らしていたオオカタツムリを顔から離す際に汁が数滴服や果実に落ちる。
「あぁ。垂れた・・・。」
「オッホッホッホッホ。そこまで嫌いだなんてねぇ。ごめんねぇ~。」
汁が数滴落ちただけなのに、果実からいい匂いが漂ってくる。
この匂いは昨日の夜に食べた奴と同じ匂いだ。
オオカタツムリからこんなおいしそうな匂いが漂うなんて、おかしい。
脳が壊れそうだ。
俺が果実を見つめて固まっていると、バクが新しい拳サイズの果実を手渡してくる。
「ごめんねぇ。それは、あたしが食べるから。変わりにこれあげるね。」
「あぁ。ありがとう。」
もらった果実の見た目は、ひとまわり小さいリンゴだ。
そのままかぶりついてみると、リンゴのようなシャキシャキとした食感だ。
うん。おいしい。
隣を見ると、オオナメクジの汁をたっぷりのせた果実へと豪快にかぶりついているバクがいる。
バクが、隣にいることに緊張していたが、一連の騒動ですっかり慣れてしまった。
食事が終わった後、バクから話しかけてきた。
「そういえば、あなたどろんこだけど、巣作りに失敗したの? たまにそういう子いるんだよねぇ。」
「いや、巣はいらないよ。」
「お~ぅ。なるほどねぇ~。巣を作らない移動するタイプなんだねぇ。」
「いや、移動するタイプって・・・。これからは、あの宿屋に泊まろうかなって。」
「およよ。そうなんだぁ。町に住むのは人間だけだけど、あなたがそうしたいんだったら、それがいいねぇ~。」
「やっぱり、魔物や亜人は町に住まないのか?」
「う~ん。ほとんどしょうじゃないかなぁ。西国の亜人は町に住んでるって聞いたことあるけどねぇ。この前、町にいる人間が言ってたんだぁ。」
「そうなんだ。」
「巣作りに失敗したんじゃないなら、なんでそんなにどろんこなの? すこし怪我もしているようだし。」
探している花を見つけては食べてしまうような魔物に、まさか泥だらけで少し怪我をしていることを気に掛けられるとは思っていなかったアスタロートは、羽根で怪我をしているところを隠す。
「まぁ。少しね。」
西国に行って、騎士団と戦ってきたとは言えずに、口ごもる。
「隠すことないと思うんでけどねぇ~。」
「強くなろうと思って色々試していたんだ。」
正直に言えるはずもなく、でも、アスタロートのしたいことを口に出してみた。
隣にいるおっとり話すバクが強いとはとても思えないが、何か手がかりが聞けるかも知れない。
「へぇぇ。それでどろんこになったんだねぇ。フルーレティーが知ったら喜ぶよぉ~。技将や力将に比べると知将の町は強い人少ないからねぇ。それにしても、そんなにどろんこになるまで何を試していたの?」
戦闘に興味がなさそうなバクだが、以外にも話に食いついてきた。
「新しい技を色々と試していたんだけど上手くいかなくてね。」
「へぇ。そうなんだねぇ~。あたしは1つしか覚えていないよぉ。あたしも何かためそうかなぁ。」
「バクは、花を集めてからだね。」
「おぉぉ。そうだったよぉ~。」
「それで、誰か強くなる方法か魔法に詳しい人を教えてくれる人はいないかな。」
「う~ん。なるほどねぇ。それなら、リザリンがいいんじゃないかな。明日の朝、太陽の方へ飛んでみる良いいよ。森の中に広場があるから飛んでいけばすぐに分かるよ~。」
リザリンって昨日魔物ギルドに入る際、クリームパンを投げつけてきた奴だ。
そういえば、この町では一番強いって言ってたな。
自分だけではよく分からないこともあるし、行ってみるのもいいだろう。
「そうか、リザリンってあのリザードマンかぁ。あまりいい印象を持ってないけど、まぁ、明日行ってみるよ。」
「うんうん。行ってみる良いいよ。あー見えてリザリンはすっごく優しいんだよ~。」
「へぇ~。それで、バクは、何の魔法を使えるんだ?」
アスタロートがジト目で返事をする。
「その目は疑ってるねぇ~。まぁ、明日会ってみると分かるよぉ~。あたしはねぇ。睡眠魔法なんだぁ。口や手から眠くなる粉を出すことが出来るんだぁ。まぁ、敵味方関係なく眠くなるから戦闘には不向きなんだけどねぇ。よく、お前は来るなって言われるんだぁ。」
バクはしょんぼりしながら答える。
他の人なら気を遣うって返事をする話題なのだろうが、バクが持つ独特の雰囲気がそうさせるのか、アスタロートは笑いをこらえて返事をする。
「クスッ、それは残念だね。」
「本当にそう思ってるのぉ~。あなたは、氷魔法だよねぇ。」
「そうなんだ。氷でいろんなものを作り出せるんだ。」
アスタロートは、先ほど使ったナイフをもう一度作り出して、手で回す。
「へぇ。器用だねぇ。便利な魔法だねぇ。いろんなことに使えそう。あたしのはただ相手を眠らせるだけだからねぇ。ほら。」
そう言うと、バクは手から霧状の粉を少し出す。
「へぇ。きれいじゃん。」
紫色の粉はかなり細かい粒子なのか、ほとんど風のないバクの巣の中でも煙のように辺りを漂う。
「本当! 見てみて、もっと出せるんだよ。」
アスタロートの反応に機嫌を良くしたのか、粉の量を増やして煙の量を増やす。
バクが作る煙は、濃淡がありどこか神秘的だ。
「おぉ。凄いな。で、これ俺吸っても大丈夫なの?」
「あっ。」
俺の声を聞いてバクが忘れていたとばかりにこっちを向く。
少し焦った表情のバクを見て、俺の意識は闇に沈んだ。




