その45
まるで現実感のない日が終わった。 あたしが田沼だと思っていたのは西澤で西澤が田沼だった、そんなことってある? 実際目の前で起こったことと言っても2人が同時に倒れて人が変わってたくらいしかあたしにはわからなかった。
演技してるだけなんじゃない? そう言われたらまぁアレだけどあの場に居ない人にはそうにしか捉えられないだろうなぁ。
でもその後の西澤はあたしと田沼が話してた内容も何もかもわかってる、あの田沼の中に居たのは間違いなく西澤だ。
これからどうしたらいいんだろう。 あたしは田沼の時の西澤とは接点があっても西澤にはあまり接点がない。 それに田沼だ、あたしにはこれまでずっと接してきた田沼を本当に田沼になったからといってこれまでを否定するつもりはない。
だから田沼に友達だと言った、あたしはそれでいい。 田沼が困っているなら助けるし困っていなくても構い続けるのは変わらないけど……
あたしは西澤が好き。 やっぱり顔? なんて言われるだろうけどあたしが心を許したのは田沼の中に居る西澤でそれは見た目が西澤じゃなくても中身が西澤だったらそれは西澤だ。 ああ、入れ替わりなんてあったから頭がこんがらがっちゃうよ。
「え、西澤のとこに? あれだけ田沼田沼言ってたのに切り替えヤバくない?」
「うはッ、やっぱそう思うよねぇ」
「なんてね、事情はゆいから聞いたんだけど嘘としか思えなかったし未だに半信半疑なんだけどあかりがそう判断したんならやっぱそうなのかな」
「パッと信じらんないよねぇそりゃ」
「にしても西澤が性格終わってんのはショックだったわ、最近おかしかったけどおかしいのは元からだったなんて!」
少し顔色が良くなった西澤が今日久し振りに学校にやって来た。 腕にはギプスを付けていて何事だ? なんてなったけどこの前よりは全然元気そう。
「やっと西澤が戻って来たぁー、心配したんだよ」
「五木、病み上がりにお前の声は傷に響くから黙ってろ」
「あうッ…… いきなり辛辣」
「よぉ要、ちったぁ反省したか?」
「何を反省すんだよ」
相変わらず… そう思ったけど田沼が西澤に姿を変えただけで違う緊張感が。 だってあたしはもう好きになってるから。
け、けれど元の身体に戻ったからあたしはポイする可能性を考えてなかったぁ〜ッ!! ゆいも居るしあたしなんかじゃ見劣りするとか?! そんなことする人間じゃないってわかってるけど最近は色々考えすぎて… もう目の前に西澤が居るのに。
「ん、なんだお前?」
「も、もういらない宣言?!」
「何言ってんだ?」
西澤があたしの頭に手を置いた。
「ありがとうな広瀬」
「は? え?」
「お前がバカみたいに俺に構い続けるからなんにもいらないって思ってた俺は気付いたんだ、恥ずかしいから言わないけどな」
「そ、それって……」
どういうこと?! と言いたかったけど。
「本当にお前のキャラと態度じゃ言うの恥ずかしいもんなぁ」
「うるせぇ清春」
「今までのこと許してやっから言ってみろよ」
チッと舌打ちして「はぁ〜」と深く溜め息を吐いた西澤は……
「お前ら居てくれて良かったよ、もう言いたくもねぇから言わねぇ」
ブスッとぶっきらぼうに言ってあたしの肩をポンポンと叩いて西澤は自分のクラスの方へ行った。




