その44
どうやらカタがついたようだ、要は疲れたのか寝ている。 田沼は動けず…… あれくらいでやられるようじゃやっぱり田沼だな。
「広瀬、大丈夫だったか?」
「うん、たぬ…… 西澤のお陰で。 でもどうなってるのこれは? 西澤が急に田沼になって田沼が…… ダメだ、頭がバカになるッ」
「俺もにわかには信じ難いことで困惑してるんだ、要は元の身体に戻って田沼もそうなんだろう」
「西澤だったんだ、今までずっと田沼に居たのは」
「そういうことになるな」と俺が言うと要の方に広瀬が行って頬を撫でた。
「田沼が原因らしい、こんなことになったのは。 要が急に人が変わっておかしいなと俺も思ったんだが要も要で本性はクズヤローだったってことがわかった」
「クズじゃないよ、少なくともあたしからしてみたら」
「広瀬、お前要のこと……」
後ろで大きくダンッ! と床を叩く音がした。
「広瀬ッ、俺は広瀬がッ」
「うん田沼…」
田沼が泣いていた、何か言おうとしているがしゃくりあげるほど泣いていたので言葉がなかなか出てこないみたいだ。
「田沼、入れ替わってたことなんてあたしは知らなかったけどあの田沼がこんなに変わったんだよ?」
「ち、違う! 俺は田沼だけど田沼じゃ…」
「そうだね、西澤だったんだろうけどあたしが好きになった田沼、見た目も性格も全部好きになったんだ」
「え?」
「だからね、あたしは田沼がしたことは良くないとは思うけど今回のことはなかったことにしない?」
広瀬がとんでもないことを言い出した、刃傷沙汰まで起こした田沼の今回の出来事を全部なしにするだと?!
「お、おい広瀬、それはいくらなんでも甘過ぎないか?」
「我ながらそう思うけどあたしって友達には凄く甘いんだ」
「友…… 達? あんなことしたのに」
「うん、そう決めたから。 てかあたしの頭がまだ追い付かないよ入れ替わりとか。 ね、西澤とも仲良くしよう?」
いやいや、それは無理だろう……
「あたしも西澤として話したことはあんまりないしちょっと見た目が変わると緊張するかもだし。 でも西澤って加藤が言ってた通り多分ツンデレなんだ、冷たく見えるけど本気で接してくれる人にはなんだかんだで優しいよ。 あたしが田沼を通して西澤と関わってそれがわかった」
「でも無理だ俺には」
「じゃあ一緒に話そう? あたしも田沼と一緒に謝るから。 そうしたら西澤もきっと許してくれると思うからさ」
「…… うん」
なんて無茶苦茶な…… けど広瀬の提案に田沼は乗った。 要もこうして広瀬に籠絡されたのか? と思った。
「田沼、あたしは田沼を好きになった。 西澤と知らずにね。 だから田沼だってじゃない。 自分を好きになってくれる人はどこかに必ず居る、でもそうなってもらうには卑屈にならないで自分に自信を持って。 西澤は田沼なんかと思ったんじゃない、田沼だからこそって思ってたんだよ。 そんな田沼にあたしも惹かれたの」
「出来るかな? 俺にそんなこと」
「あたしも居るんだから。 田沼にしかない田沼の良いところあるよ」
そう広瀬が言うと田沼は目を丸くして少し笑い帰って行った。
「あいつ… また変なことしでかさないかな?」
「大丈夫だよ田沼は。 きっとこういう風に接してくれる友達とか居なかったから自暴自棄になったんだよ。 多分あたしにって執着してたみたいだけどそれは好きとかそういうのじゃなくて結局依存なんじゃないかな?」
「わかるの?」
「わかんないよ、全部あたしの想像」
「…… なんかわかったこと言っといて説得力あんだかないんだかよくわかんねぇな広瀬って」
「あははッ、でも田沼も友達だよ。 あたしはもう決めてるから」
その時西澤が「ううッ…」と呻き声をあげた。
「た、田沼は? 広瀬は?」
「ここに居るって。 た…… ああ、つい田沼って言っちゃう、ややこしいなぁ。 もっと早く話してくれれば良かったのに」
「話したくなるまで話さなくていいって言ったのはお前だ」
「ふふッ、こうして話すとやっぱり田沼の中に居たのは西澤だったんだね。 ってまずは病院行かなきゃ!」
きっと要や広瀬にとって今日は大変な1日だったんだろう、診察室を出て待合室で2人はお互いに寄り添って寝ていた。
西澤の両親は近くのホテルで泊まっていたらしく田沼が西澤だった時に滅茶苦茶されたようだ。 西澤を見て少し警戒していたようだったが全てを察した西澤が「ごめん、俺は良い息子なんかじゃない。 父さんや母さんの言うこと素直に聞く人間でもない、でもお互い何か言いたいことあるならちゃんと話そう」と言ってそれからはどうなったかわからないが良い方に転がって欲しいものだ。




