その40
「田沼!」
本当にしつこい…… そうだった、こいつは突き放したくらいじゃ効き目ゼロなんだった。 暴力も罵りも広瀬はまったく動じやしない。
「あたしね、今日田沼の分のお昼作ってきたんだ、だから一緒にどうかなって思って。 あッ!!」
昼になると俺が居そうな場所を探し出して弁当箱を差し出した、それを俺は手で払い弁当箱は地面に落ちた。
相手の誠意を踏み躙る行為、暴力でも罵倒でもなく広瀬からしてみたらこれが1番傷付くはず。
広瀬は落ちた弁当箱を拾い自分の弁当を差し出した。
「まぁ同じだから、落としたのを田沼に出すわけないし」
何事もないように笑顔で広瀬は言った、多分凄く動揺したはずなのに。 俺が手を動かすとサッと弁当を避けた。 また振り払われると思ったのだろうか?
「もらうよ、量少ないけど」
「え? う、うん! 食べよッ!!」
広瀬がいつも使ってるであろう小さい広瀬の弁当箱、綺麗に並べられた食材は美味しそうに見えた。
「えへへ、なんか交換したみたいでドキドキするかも」
「なんで交換するとドキドキすんだよ?」
広瀬はたかがそんなことで嬉しそうにしていた。
こんなことしてもお前がたとえ俺を好きだったとしても今までと変わらないってのに。
変わりない? 俺はこいつの気持ちを知って心底興醒めしたはずなのに……
「全部食べてくれたんだ? 美味しかった?」
「量が少ないからな」
「じゃあ今度はもっといっぱい作ってくる、てか田沼が落とさなきゃもっといっぱいあったのにさぁ〜」
「知るかよ、別に作ってこなくてもいいし」
とか言ってもこいつは1度決めたら暴走列車の如く突き進む奴だった、今も現在進行形で付き纏われてるしな。
「田沼が美味しいって言ってくれるまで作ろうかなぁ」
「美味しかった」
「ほんと?!」
「ああ、ほんと」
「じゃあ次はもっともっと美味しく出来るように毎日作ろうかなぁ」
「おい」
ダメだ、ああ言えばこう言う。
「あ、居た居た。 なぁーんだ、ちゃんとあかりの愛妻弁当食べてんじゃん」
柳原まで来てしまった、その隣には友達らしき女子が居た。
「あー、これがあかりの彼氏の田沼君? 私はあかりと百合の友達の白崎千華、よろしくね」
「は? 付き合ってすらない、それによろしくされる筋合いはない」
「こんな奴なんだよねぇクソ田沼って。 あかりってダメンズが好みみたいでさ」
「あはは、でもなんかあかりってこういうのが好きなんだなぁってちょっと納得するところあるけどね」
やっぱり広瀬の友達だけあって馴れ馴れしさ共通してるようだ。
「にしたって田沼かよ〜って思わない? しかもまったく嬉しそうにしてないこいつにあかりとのお昼取られてるってこっちは納得いかないんですけど」
「まあまあ、私も居るんだしさ。 せっかくあかりが男子と食べてるんだからいいじゃん」
俺を見て白崎は満足したのか柳原を連れて去って行った。
「彼氏だって」
「なわけあるか」
「でもそう見られてたらどうする〜?」
「迷惑としか思わない」
「ぁぅ……」
広瀬が変わったのは俺の言葉に結構反応するようになった、以前は軽く流していた毒舌がグサリと刺さるようだ。 だが一瞬で回復してるのはどういうことだ?
「ね、なんだかんだで田沼ってあたしに付き合ってくれるよね」
「くれてるだと? お前がしつこいんだろうが」
「ふふッ、でも田沼は結局折れてくれるよね、あたしより大人だなぁ」
ベンチに座っている俺に広瀬は俺側に近付いた。
「田沼、あたしさ…… 田沼が」
広瀬は何も言わなくなる。
「…… んん〜、やっぱまだいいや、怖いし」
「あ、そ」




