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その12


うわ、デカいなぁ。 男バスだけあって背が高い、西澤の時の俺と同じくらい。 だが田沼の身長からしてみてはデカい。 俺は広瀬よりちょっと背が高いくらいだ。




「先輩、この人田沼っていいます」

「田沼誠司です、初めまして」

「君があかりの……」

「これでわかってもらえましたよね?」

「うーん…」




思わし気な先輩、やはりいくらマシになっても田沼だからだろう。 ここで西澤とかだったらまだ可能性はあったろうが。




「やっぱりまだ諦めるってのはないかな」

「え?!」




そりゃそうだろう広瀬、お前の気になる人設定はもう破綻してんだから潔く嘘でしたで謝れ。 そう思っていたが……




「昼休みはまだまだ時間あるしどうだろう、俺と君とでバスケで勝負しないか? それで俺に勝ったら諦める」




変化球が来た、まさかそんな臭い展開になるとはスポ根の考えることらしいっちゃらしいが。




「い、いやそれはいくらなんでも田沼に不利過ぎですよ先輩」

「いいですよ」

「ちょ!? 田沼??」




俺は巻き込まれただけ、広瀬のお願いとやらにも付き合った、広瀬なんてどうなってもいい。 ここまで付き合ってやったんだから感謝こそされ恨まれるなんて筋違いだろ? さっさと茶番は終わらせよう。




なに、例え負けても青い顔するの広瀬だ、人にこんなことを頼むからこうなる。 こいつも少しは反省するだろう、思えば俺の気まぐれ精神で田沼を助けたせいで俺はこの状態だ、まぁそれはそれで楽しんでいるから苦でもないが。




「男らしいね田沼君って」

「いえ、勝てるとはサラサラ思ってないんで」

「た、田沼…」

「なーに、まるで勝てない勝負にするわけないよ、僕は3本、君は1本先取すれば勝ちのルールにしよう。 そして最初から君のボールだ、これなら不満もないだろ?」




1on1で俺は1本でいいわけか、西澤時代の俺はバスケは結構得意だった。 バスケ部の奴らとはやったことないけど。




「よし、じゃあ始めようか」




一瞬だった、多分先輩はまだ油断してたんだと思う。 先輩の横をあっという間にすり抜けてスリーポイント、入るとは思わなかったが入ってしまった。




「す… 凄ッ、田沼凄い!! 田沼の勝ち!!」

「あ、あれ?」




意外とあっさり終わったなと思っていると……




「い、今のは練習! 君にルールを教えてのウォーミングアップだからさ」

「え、先輩すぐ始めたそうにしてたのにそれはないですよー」




先輩の仕切り直し発言に広瀬が文句を言うがなかなかやってみて面白かったので。




「いいですよ、ウォーミングアップですもんね」

「ほら!」

「ウソでしょ田沼……」



なんで余計な事を言うの?! と言いたげな広瀬だが再び1on1が再開された、ルールは同じだが先輩は今度は油断なしで本気だった。 




「ヤ、ヤバい、頑張って田沼……」

「君やっぱりなかなかやるね」

「先輩こそ」




先輩はもう2本先取し後がもうない、田沼の身体も結構馴染んできたけど西澤のようにはいかない。 




「次で最後だけど恨みっこなしだよ」

「そうですね、俺も言おうと思ってました」




だがある! 勝てる手段が。 ショートフェイクもスクリーンも技術的なことは関係ない、俺が最初からボール持ちだから出来る技が。




最後の1本が始まった瞬間、先輩はもうどこからでも取れるという自信もあったし油断もなかった。 立ち塞がる先輩はとても大きな壁に見えた。




だが俺は思い切り振りかぶる。




「ま、まさか……」




高く放り投げたボールはゆっくりとゴールネットへ、そして見事に入った。 毎日筋トレしているおかげかも。




「今度こそ文句ないですよね先輩!」

「あ… ああ、まさかこう来るとは。 俺の負けだね」

「や、やったぁ田沼!」

「うわぁ、ホントに田沼が先輩に勝っちゃったよ」




いつの間にか柳原も出て来ていた。




「なんだよ、柳原も見てたのか」

「あー、あかりが心配だったんでつい…」







◇◇◇







「はぁー、一時はどうなるかと思ったけどホッとした」

「あいつ信じらんないよね、せっかく最初に勝ったのにわざわざ余計なことして追い詰められたんだから」

「でも結果的には田沼勝ったじゃん」




百合は粗を見つけては愚痴愚痴言ってたけどあたしも本気になった先輩に田沼が勝てると思わなかった、けれど勝った。 むちゃくちゃなやり方で勝ったけどあれはあれでなかなか出来る人は居ないと思う。




短期間であれだけ変わった田沼ってもしかしたら凄い奴なのかも……





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