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第四話 ダンジョンで赤ん坊を抱く女 1

「あのダンジョンの攻略はやめたほうがよかろう」


 ミーゲルはそう老人に言われて、食ってかかった。

「じいさん、なぜだ!。ギルド発行の『ダンジョン総覧』でも、激レアアイテムや、スキル獲得可能な宝玉、経験値爆アガリのモンスターの宝庫って書かれてるぜ!!」


「冒険者ミーゲル、と言ったか。そなたはその書物を隅々までよく読んだかね」


「すみずみ……?」


「あぁ、攻略の難度は最上級の星5つとされていたであろう」


「ん、あぁ……」

 ミーゲルはことばを濁しながら話の成り行きを見守っている、パーティーの仲間のほうをちらりと目をむけた。


 賢者のロドリガス、戦士のザカリス、弓使いのトーニャ——


 ロドリガスとザカリスはとくに気のない風で耳を傾けていたが、トーニャはあきらかに不安そうだった。神経が繊細なコボルト族、とくに女性をパーティーに加えたのは、失敗だったのかもしれない——


「じいさん。勘違いしてもらっちゃあ困る。おれたちゃ、なにもこのダンジョンを攻略しようだなんて、考えちゃあいない。第五階層あたりまで潜って、それなりのお宝なり経験値をゲットして、そのあとの戦いを楽にしてぇだけさ」


「第五階層!。もっともレア品が手に入るとされている場所じゃな」

「あぁ、そうさ。なにも10階層まで攻略しようっていうわけじゃねぇんだ」

 

「ふむ……」

 老人があごひげを撫でながら思案をはじめたが、すぐにミーゲルに尋ねた。

「冒険者ミーゲルよ、ほんとうに第五階層までじゃな」


「あぁ、第六階層以下にゃあ、すげーお宝があるってぇのは知ってるが、第五階層までってことにする。どっちみち、おれたちの実力じゃあ、手に余るだろうからな」


「賢明じゃな。冒険者ミーゲル」

 老人があごひげをいじくりながら続けた。


「じゃが、第五階層の『赤子を抱く女』には気をつけるのじゃぞ。そいつは迷い込んだものを虜にして、その場所に縛りつける、というからな」


「赤子を抱く女?」

 戦士のザカリスがたまらず声をあげた。

「なんだ、そんなの聞いたことがないぜ。あの階層にでる危険な魔物は、うろつく『マンドレイク』くらいしか載ってなかった」



「じゃが、間違いなくいるのじゃ。赤子を抱く女は……」



「赤子を抱く女!!?? そいつは何者なんです!?」

 ミーゲルは老人が語るあやふやな情報にいらだった。 

「知らんよ。じゃが、そう噂されておる。もちろん、うろつくマンドレイクには気をつけねばならんがのう……」


「うろつくマンドレイクって……なんですの?」

 弓使いのトーニャが蒼ざめた顔色そのままの、不安そうな声で訊いた。その声にうんざりした調子で、ザカリスが答えた。

「トーニャぁーー、おまえも知ってンだろ。引き抜くと悲鳴を上げて、聞いた人間を発狂させるっていうあの植物を」

「ええ、まぁ。それくらいは……」

 

「お嬢さん。あの場所には冒険者たちに引き抜かれたマンドレイクが、うろついているらしいのじゃ」

 老人がザカリスに代わって説明を続けた。

「あやつらは根っこを足のようにして自立歩行できるのでな。ダンジョン内にへばりついている魔力を吸収して、かなりやっかいな存在になっていると……」


「たかが植物でしょう!」


 老人のことばを断ちきるように、声をあらげたのは賢者のロドリガスだった。

「ぼくはまだ駆け出しの賢者ですが、植物系の魔物を倒す術なら、いくつでも詠唱できます。それに『赤子を抱く女』など……」


「そんな見知らぬモノをおそれていては、この先、冒険などできやしない!」


「は、よく言った、ロドリガス!」

 ミーゲルはパンと手をうった。

 ロドリガスは『賢者』と名乗ることを許されたばかりの魔導士だったが、こういう賢者らしからぬ、向こう見ずなところを、ミーゲルは気に入っていた。



 ダンジョンの第一階層はちょっとした街のようなにぎわいがあった。

 とっくに攻略が終わっていて、お宝どころか、スライムすら出現しない安全な領域となっていた。いまでは、元隠し部屋や宝物庫、トラップルームだった場所で、商人が店を開いており、下層をめざす者たちへ装備や武器、ポーションや薬草や携帯食を売り込んでいた。

 

 ミーゲルたちは第二階層をさっさと通り過ぎた。

 過去の冒険者の手により、トラップや宝物庫等は攻略済みで、小動物系やスライムなど、ただ進路を邪魔するような魔物が出現するだけの場所だった。


 第三階層ではむだな骨折りばかりさせられた。

 ここは虫や爬虫類系のすばしっこい魔物の巣窟で、アイテムは期待できない上、たいした経験値は稼げなかった。にもかかわらず思いのほか入り組んでいて、ミーゲルたちはまる一日費やすはめになった。


 第四階層——

 様相はぐっと変わってきた。

 それまで石畳に囲まれていた狭い通路を、ひたすら歩き回っていたのが、とつぜんおおきくひらけて、まるで外にでたような自然が広がっていた。一望するのが難しいほど広い森があり、そこには泉が点在していて、それぞれの生態系ができあがっていた。


 この階層でミーゲルたちは動物系の魔物や、ゴブリンのような亜人系の魔物と戦った。だがまずまずのアイテムと、それなりの経験値が手に入っただけだった。



 だが、第五階層——


 それまでとはあきらかに様相がちがっていた……

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