エピローグ1
ホルト・クロイツはあたりを鬱蒼とした森にかこまれた街道を歩いていた。
ミケネー村に続く街道。ミケネーに取り憑かれる、という忠告を受けて、ひとりでびくびくしながら通り抜けた街道だったが、きょうはあのときとちがった。
老魔導士のシーラン・ミケネーが一緒だった。
「シーラン。ここまできて、まだ怖じ気づいています?」
ふいに歩みをとめたシーランにむかって言った。
「いいや、とっくに腹は括ってるよ。すこしこの森の空気をすいたくてね」
「なつかしい……ですか……?」
「さあ、どうだろう?」
シーランは木々を見あげながら言った。
「もう60年ぶりくらいだからな。いくらわしが長寿の家系と言っても、さすがに60年前のことは容易に思いだせんよ」
「でも気になって、あの街まではきていたんでしょう?」
「ああ、そうだな。ミケネーの霊を目覚めさせたくなかったのでな」
ホルトはくすりと笑った。
「それで、ぼくをみて、『街道に行くな』って忠告してきたんですね」
「ああ…… けっしておまえさんの身を案じたわけではない。わしを思い起こさせる若者を近づけさせたくなかっただけなのだよ」
「ほんとうですかぁ?」
ホルトはすこし意地悪げな笑みを浮かべた。
「ぼくはまんまとあなたの作戦にはめられた、と思ってたんですけどねぇ」
「どうやって、わたしにたどり着いたのかね?」
シーランが歩きだしながら訊いてきた。
ホルトは胸に下げた蒼い宝石のペンダントを持ちあげて言った。
「この石に導かれましてね。まずは『願いが叶う』という噂のある村にむかったんです。、なんとも妖しげなゴートマンの種族の村にね。そこであなたのいる場所を知りたいって願ったんですよ」
「それで願いは叶ったのかね?」
「ええ、洞くつのなかで宣託を受けました。ただそれまでは、生きた心地はしませんでしたよ。だって敵対する種族がおなじエリア内にいるんですよ。あれじゃあ、どこで殺し合いや食い合いがあってもおかしくなかった」
「人間族もいたのだろう?」
「ええ、10人ほど。なかでもマハバーランとシュランクというヤツとは、順番待ちのあいだ、生い立ちやらなんやらを語りあったりして、すっかり仲がよくなりました」
「ほう。その後、彼らとは?」
「ぼくは彼らより先に呼ばれたから、わからないんです」
「あそこでは、ひどい目にあうこともあると聞いたが?」
「そうなんですか? ぼくはまったくそんな目にあいませんでした」
「それは運がよかった」
「そうとも言えないんですよ。だって、ぼくはそこでの教えにしたがって、マーベルグ魔法学園に行ったんですよ。あなたが学長をつとめているって聞いたものだから」
「ずいぶんふるい情報をつかまされたものだね」
「まったくです。3年も前に退職されたっていう話で……」
「3年だけ学長を押しつけられてね」
シーランが苦笑いをした。
「でも、10年ぶりに母校にもどれて懐かしかったですよ。ぼくは戦士科専攻でしたけど……」
「あの旧校舎には、いったかね?」
「いいえ。昔、とんでもない事故があったっていわく付きなんでしょう。退学になるのはごめんですからね。近づきもしませんでしたよ」
「まぁ、何年かに一度、魔力がつよいものが、あの場所に引き込まれそうになるのだが……」
「だったら大丈夫です。ぼくはあなたとちがって、魔力はそんなに強くないですから」
「だが霊力はつよいのだろう」
今度はホルトが苦笑いをする番だった。
「ええ……まぁ。だからこんなことに巻込まれてるんでしょうね。むかしアッヘンヴァル学長直々に『あなたには忌むべきものを察知する能力がある』と言われたことがありますしね」
「そなたは剣の腕も確かではないか」
ホルトは肩をすくめて首を横にふった。
「あの蟲属性の魔族やドラゴンをやっつけたことですか? あれはあなたの魔力がすごかったからですよ。ふだんのぼくは成仏できない霊を祓ったりして、食いぶちを稼いでるくらいですよ。それだって、あなたほど鮮やかにはいかない」
「ほう。わたしがなにをしたと?」
「いろいろ聞きましたよ。あなたを探している道中でね。ほら、凶悪なマンドレイクに寄生された人を助けたとか、ダンジョンに迷ったひとを惑わす悪徳令嬢の霊を祓ったとか……」
「先日はエルフ殺しの裁判で、死者の霊を呼び寄せたりしたでしょう?」




