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第十三話 異世界一運のわるい男5

 脳は……どうなってる?


 わたしは頭を触ろうと、ふるえる手を伸ばした。が、指が頭皮らしきものに触れたとたん、左腕がごろんともげた。


 絶望が一気に胸に押し寄せてきた。

 

 なぜそのまま死ななかったのだ——

 そうすれば、弟の死も、もう助けが来ないことも、自分があのボヲんゾのように、手も足もうしない、顔もなにもかも溶け落ちている残酷な事実も知らずにすんだのだ。

 

 そのとき、ふいにひとの声が飛び込んできた。

 なにを言っているのかわからない。だが、わたしのすぐ近くで、多くのひとが叫んでいる声が聞こえていた。

 自分のからだが動かされているのがわかる。

 なにが起きているのかわからない。 

 だが自分が助けだされたことだけは、なんとなくわかった——




 すぐ近くでだれかがしゃべっている声が聞こえた。

 声色からわかい男と、わかい女のようだった。

「……ですよ。あの蒼い石を盗んだせいで、この方は助かったっていうわけですね」


「まぁ、そういうことになりますね。包帯でぐるぐる巻きの、この状態を助かった、というのでしたらね」

 男がすこし皮肉っぽく言ったのがわかった。

「ふつうなら無理ですわ。でもホルトさん、あなたと一緒に来られたシーラン・ミケネー様なら、なんとかしてもらえますわ」

「うしなわれた腕や脚もなんとかなるのですか?」

「時間はかかりますけどね」

「顔は? 完全にのっぺらぼうになっていましたよ」

「このひとはほんとうに運が良いですよ。ミケネー様は高度な修復魔法も修得された大賢者様ですからね。なんとか元の顔に戻せるそうです」


 わたしの心は踊った。

 シーラン・ミケネーという大賢者は、わたしもよく知っている。冒険をしていれば、どうやっても耳に入ってくる。この世界でも一、二、を争うほどの術者であると言うのが一致した意見で、わたし自身もどこかで会えることを願っていた。

 まさか、自分のからだの修復に携わってもらえる僥倖に恵まれるとは思いもしなかった。

 こんな状態のせいで、直接見ることも、お礼を言うこともできないのがもどかしいほどだ。


 とおくのほうでガチャとドアのあく音が聞こえた。

「ミケネー様!」

 若い女性が声をはずませた。

「やあ、患者の様子はどうかね?」

「いまのところ、命に別状はありません。わたくしたち回復士が交代でマナを吹き込んでいますから……」

「そうか…… ご苦労様。さて、ホルト、そなたに来てもらったのは……」

「シーラン。わたしの記憶が必要だからでしょう」

「うむ。修復するといっても、0からできるわけじゃないからな。そなたの記憶を借りねばならん」

「わかってますよ」


 それからなにかボソボソとやりとりがあったが、しばらくして、ふいに顔が熱くなるのを感じた。隣にだれかが立っている気配がある。

 おそらくシーラン・ミケネーの修復魔術が施されているのだろう。

 嫌な熱さではない。

 顔の血管一本一本に、順番に熱い血潮がみなぎりはじめ、その近くの部位が火照っていく。と、同時にのっぺりとした顔に隆起が感じられる。まるで自分の顔に見えないノミをやさしくはわせて、ひとつひとつの部位を彫られていくようだ。

 そのノミの軌跡はマッサージのように心地よく、わたしはたちまち眠りの底へ(いざな)われていった

 



「よかったですね」

 意識を取り戻すと、回復士の女性がわたしの耳元に口をよせてささやいた。

「ミケネー様が修復魔法をほどこしてくださいました。時間はかかりますが、すっかり元通りになりますよ」

 

「それにしても、運がいいですね。あの蒼い石をもっていなければ、命は助かりませんでしたわ。王立軍の精鋭部隊ですら歯がたたなかった、というのに、ホルト・クロイツ様はひとりであのドラゴンをやっつけちゃたんですから……」


「しかも大賢者のミケネー様まで一緒だなんて、信じられません。あんなすごい方がいらっしゃらなければ、とても元の顔に戻すなんて無理なんですよ。こんな運のいいことってないわ——」



「ボヲんゾさん」



 わたしは耳をうたがった。

 ボヲんゾ?


 どういうことだ?????

 なぜ、コーン・ロッドではなく、ボヲんゾと呼ばれているのだ?


 わたしの頭のなかは、疑問符だけではち切れそうなった。

 だが、すぐにその疑問符は感嘆符に変わった。


 そうだ、あの青い石を盗ませたのは、あの醜いハーフ・オーガだ。

 盗まれたホルトという若者が見た姿は、あのクソ野郎だったのだ。


 そして、いまわたしは、顔の形も、皮膚の色も、背の高さもまったくわからないほどの状態になっているのだ。おそらく性別すらわからない。

 だから——


 やめてくれ——

 あんなみにくいハーフ・オーガなんかになりたくない。


 頼む。

 わたしは人間だ。

 コーン・ロッドという人間族の者だ——


 回復士はなにも答えてくれない。

 当然だ。

 口もきけない、目で合図もできない、指先で伝えることも、手話をつかうこともかなわないのだから——


「もしかしたら、あなたは異世界で一番運がいい方なのかもしれませんねぇ」

 回復士が勝手気ままに、自分の意見を言い聞かせてくる。


 ちがう!

 そんなわけない!

 あんな下劣な種族にさせられるのが、運がいいわけがない——


 お願いだ。

 あんな劣った種族になるなら殺してくれ!!!!

 

 死なせてくれ——


 わたしには噛みきる舌もない、えぐるべき目も、首をしめたくても手がない——


 頼む、殺してくれ——


 たのむ——


 ころしてくれ——



 だれか—— わたしをころして——


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