第七話 追放・ざまぁ・今さらもう遅い 5
「嘘をつくでない」
ライリスの背後で声がした。
いつのまにか姿を隠して静観していたはずの魔導士たちが姿を現わしていた。
「大賢者モースがそのようなことで死ぬわけがなかろう」
「そうじゃ。罪を逃れたくて、適当な話をでっちあげているのだろう」
「そもそも『グリード』なるスキルなど聞いたことがないわ!」
四人の大魔導士長官が口々に、ライリスを非難しはじめた。
「大魔導士長官たちよ。わたくしが取り調べをしているのです!」
ロマンツェが声を荒げた。
「脇から口をださないでいただきたい。あなたたちの仕事は、この地下牢の結界を……」
そのとき、かすかに地面が揺れた。
なに?
ロマンツェはこめかみに指をあてると、遠く離れた場所にことばを伝える魔法『念波』を使って、『念波士』を呼びだした。
『念波士! いったなにがあった?』
『局長、も、申し訳ありません。なにものかがこの魔法庁内に侵入したとの報告がはいっています』
『なにものかが侵入した?。いったいなにがだ?』
『未確認なのですが、魚人の顔をした——————』
切れた。
いや、ちがう。断ち切られた——
『地下二階ぃぃぃ、地下一階の念波士はどうなった!』
『わ、わかりません』
『突然切れたぞ。念波が一瞬で切れるなんて、聞いたことがない』
『ええ、ええ。その通りです、局長。念波士は死んでも、念波を送り続ける術をもっています。一瞬で頭を吹っ飛ばされたりしない限り、念波が途切れるなんてないはずなんです。でも……彼の生体反応は消えたままなんです』
『そちらはどうなってる? 地下二階の状況はどうだ?』
『わかりません。ですが……』
意識のむこうで、ドーンというなにかが崩れる音がした。
『あ、あ、おおきな、く、く、蜘蛛が現わ————』
念波士の意識が瞬時になくなった。
「蜘蛛だとぉ……」
「あぁ、それならデザストですよ」
「デザストだとぉ?」
ロマンツェの声は裏返っていた。
「でも、ここなら大丈夫なんでしょ。各階に大賢者を配しているし……」
そのとき、横にいた大魔導士長官のひとりが叫んだ。
『なんじゃとぉ、地下二階が水責めを受けて全滅じゃとぉ!!』
時間経過とともに、各階からの悲痛な叫びが報告されてきた。
糸でまかれてからだの自由を奪われて、生きたまま喰われている地下三階の兵士——
ドラゴンの吹きかける炎で焼き尽くされる地下四階の僧侶——
触手についた吸盤で精気を吸い取られて、ミイラ化していく魔導士——
無数のワームの鋭い牙に襲われ、身体中に穴が開けられていく賢者——
「そ、そんな……」
ロマンツェは声をうしなった。
「ちょっと待ってください、局長! ここは安全なんじゃなかったんですか!」
ライリスが怒りを露にして立ちあがった。
「あなたは安全だと言ったじゃないですか!」
「ここまで……ここまで到達するはずが……そんなことできるわけがない……」
ロマンツェはなかばうわ言のようにつぶやいた。
「でもどの階でもデザストを止められてないじゃないですか!!」
「精鋭なんだ…… ここにいるのは精鋭ばかりなんだ。これ以上揃えられないほどの……」
「そうですか……」
ライリスはため息をついて、椅子にふかく腰をおろした。
「魔法庁の精鋭でもだめでしたか……」
「だめじゃない。駄目なんかじゃないっっっ!」
「でも、もう地下六階まで来ている」
ドーンという大きな破壊音がして、地下の広間が大きく揺れた。天井から剥落した石の欠片がふってくる。
ロマンツェの足はがくがくと震えていた。あたりをみまわすと、大魔導士長官たちはその場に膝をついて、必死になにか詠唱していた。
だがその姿はただの命乞いにしか見えなかった。
どこかでひとの悲鳴が聞こえたような気がした。
声が届く距離にまで到達したのかもしれない。
つまり魔導士や賢者の、魔術もスキルも魔方陣も詠唱魔法も——
まったく役にたっていないということだ。
「ラ、ライリス、われわれはどうすればいい?」
ロマンツェはおもわずまぬけな質問をした。
ライリスは力なく首を横にふった。
「局長、もう間に合わないですよ。わたしはあきらめました。この魔法庁でも防げないのなら、この世界にわたしの居場所はない」
ものすごい振動が真横から近づいてくるのがわかる。
ついに最下層、地下9階に到達したのだ。
「でも……局長、どうなんでしょう……」
ライリスは達観したような口調で訊いた。
「ヤツはザマァみろ、と思ってるんでしょうかね?」
「いまさらもう……遅い……ですよね」




