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―持ち主―

 

「宜しければこちらも」

 お茶のお代わりと一緒にお菓子が出てきた。


「おお!お菓子だ!」

「ワン!」


「ルーナはダメだぞ。お前が食べると最悪死ぬかもしれん。冗談や意地悪で言ってるんじゃないぞ?人間の食べ物が全て他の生き物が食べて安全という事は無いんだ。これは真面目な話だ。」

「キュ~ン・・・」


 成分が分からないので取り合えずルーナが食べるのは止めておく。


「その代わり、焼き魚があるからそっちにしなさい」

「ワン!」


 そういって残りの焼き魚4つを出してあげたが、俺がお菓子に手を付けるまでに焼き魚は全て無くなっていた。


 甘い物が好きなオジサンはお菓子の登場で年甲斐も無くはしゃいでしまったが、この歳になるとそーゆーのは気にしなくなる。


 お菓子はプレーンなクッキーに似た見た目と味だが少し紅茶の匂いがした。


「甘い、美味しい」

 表面に艶があるので卵か何かと砂糖のような何かがまぶしてあるのか。


「お気に召されましたでしょうか?」


「はい、特に甘いものが好きなので」

「ワン!」


「喜んで頂けて何よりです。それはそうとオトナシ様、今夜はルーナ様とご一緒に村にお泊りになっていかれますか?差し出がましいこととは存じますが、既にお部屋はご用意させて頂いたのですが・・」


「はい、出来ればそうさせて頂けると助かります。実の所、この村へ来たものの、ここから何処へ向かえばいいか、この後の予定が無くて」

 こちらは無一文なので遠慮なくお言葉に甘えさせて頂く。

 行く当ても無いし、次に目指す場所がまだ分かってないので、それを見つけなければならない。


「さようでございますか。それでしたら行き先が決まるまで、お好きなだけご滞在下さい。何でしたらこの村へお住まいを構えて頂いて構いません。」


「えーっと、ありがとうございます。その辺りも含めて今後の事を検討させて頂きます。」


 良い申し出を頂いたけど、取り合えず保留にしておいた。

 しかし、何も聞かずにこの待遇である。ずっと思っていたがルーナが一緒とは言え、聖霊様の友人パワーすごい。 流石、聖霊様。


 しかし、事情は後でしっかり話すとして、まずはくつろぎたい。

 今日は朝から心身共にストレスが半端ないのだ。


「それではお部屋へご案内させて頂きます」

 メイドさんに着いて階段を上がる。


「こちらになります」


「おお!」


 大きな部屋だ。ベッドが二つとクローゼット。ガラス窓が二つもあり、窓の横にはおしゃれな机と椅子とペン立て。壁際にローテーブルとソファー。ベッドメイキングも完璧だ。


 素直に感動した。


「何か必要な物など御座いましたらお申し付けください。」


「ありがとうございます」

「ワン!」


「それでは失礼致します」

 メイドさんはルーナを見て微笑みながらそう言うと静かにドアを閉めた。


「ふう」


 ベッドに倒れ込む。


 さて、これからどうしたものか・・・・・


「やあ!音無君!」


「え?誰?」


「一応は初めましてだね~!私はアンダンテ。天才美少女無属性魔法使いだ!」

 突如、目の前に現れた小柄な緑髪のツインテ少女がそう言ってスカートの端をつまみながら軽くお辞儀をして自己紹介をした。


「あ、あ、初めまして、えーっと音無です。音無惣一郎。現在無職です。・・・・てか天才はともかく、自分で美少女を名乗るのか?」


「あっはっはっは~!勿論!私は正真正銘、嘘偽り無く天才美少女だからね~!因みに二つ名は無限。無限のアンダンテ。そう呼ばれていたよ~!」

 目の前の自称天才美少女は腰に手を当てそう名乗った。


「あ、はい。所でなぜ俺の名前を?私に何かご用ですか?」


「あ~ん、つれないなぁ~。折角この天才美少女魔法使いがぁ~転生者の音無君の為にぃ~この世界の事やぁ~魔法の事を~色々教えてあげようと思って出て来てあげたのにぃ~」


 少女は体をくねくねさせたり人差し指で髪をくるくるしながら、こっちをチラ見しつつそう言った。


「あーなんだろう、色々聞きたいけど、まずはデコピンしたい」


「ひどい!こんなに美人で優しくて美人で可愛い天才美少女に初対面でデコピンしたいなんて!」


「美人って2回言ってるぞ」


「そうよね~私の美少女っぷりを表現するなら、2回じゃ足りないわよね~」


「・・・うーん・・・不毛だ。生産性が無い。話を進めよう。ていうかここ何処だ。」

 気が付けばどこかで見たような真っ白い空間にいた。


「ちょっと、色々声に出てるわよ。まあいいわ、ここはキミの夢の中で、あのサンシーカーが音無君にくれた空間だよ。」


「ん!聖霊様が俺にくれた空間?てか聖霊様との事も知っているのか?」


「知ってるも何も私もあそこに居たし~」

「む?あそこには俺と聖霊様の二人しか居なかったように見えたが。どこかに隠れてたのか?」


「まさかぁ~。ここに隠れる場所なんてないよ~。」


「じゃあどこに?」


「音無君の意識の中に居たのよ~」


「意識の中?ん-取り合えず説明して貰っても良いですか?今日は朝から色々大変な目にあって、出来れば少し眠りたいんですが」


「ああ、それなら大丈夫!今君は寝ているの。ここは音無君の夢の中だから~」


「夢の中?あの空間は夢の中って事なのか?」


「えーっと、この空間は夢の中と同じ無意識の中なんだけど、無意識の中ってとても不安定で、普段、昨日見た夢の続きを見る事って難しいでしょ?あれはそういう事なんだ。だけどここはサンシーカーの力も融合させて君の為に安定的な空間にしてくれたんだ。」


「安定的な空間・・・」


「彼女が君とこの空間に来る前に、彼女から光を貰ったでしょ?あれがそうだよ」


「そうなのか。で、アンダンテさんはいつから俺の意識の中に?」


「アンダンテちゃんって呼んで~」


「・・・・アンダンテちゃんはいつから居たんですか?」


「や~ん、「美しくて可憐な天才美少女のアンダンテちゃん」なんて言われてもぉ~煽て(おだて)ても何も出ないわよぉ~」

 両手を頬に当ててクネクネしながら悶えている。


「・・・・」


「やーん怒らないでよ~。本の中よ。あの魔導書を開いたでしょ?私はあの中に居たの」


「本の中?あの魔導書に封印されてたって事ですか?呪われた存在ですか?悪い事をし過ぎて封印されたんですか?」

「ちょっとぉ、そんなんじゃないわよ。自分から入ったのよ。ある人を待つ為に」


「ある人?・・・恋人とか?」


「そんなロマンチックな話にした方が良い?」


「いえ、事実でお願いします。」


「あ~ん、真面目ね~でも良いわ。待ってた甲斐があったし。私はね、貴方を待ってたのよ。無属性魔法の適正者をね」


「無属性魔法って、本に書いてあった魔法の事ですよね?」


「うん、本は読んだでしょ?無属性魔法の適応者は凄く少なくてね、私が本に入ってからどれくらい経ったか忘れたけど~、私を除けば今では多分、音無君しか使えないと思う」


「俺だけ!?少なすぎってレベルじゃなくないですか?」


「そうね~私ももっと増えて欲しかったんだけど、どうしようも無かったのよ。だって適正者が生まれてこないんだもの。しかも何人かは帝国に暗殺されたし」


「暗殺・・・無属性の魔法使いって国から暗殺命令が出るほどヤバかったんですか?」


「そんな事ないわよ!帝国以外の国ではそんな事は無かったから!本当よ!」


 真剣な眼差しだった。


「なるほど、じゃあ帝国の方がヤバかったって事ですかね」


「そうよ。あの国は最後、龍に滅ぼされたし。まぁ私も友達を殺されたから、その時のどさくさに紛れて仕返ししたけど、あの国が滅んだのは自業自得よ」


 どさくさに紛れて仕返しってのが気になるが、龍に滅ぼされたってのは凄いな。一体何をしたんだろうか。


「あれはね、本当に酷かったから・・・」


「なるほど、所でどうやって本の中に入ったんですか?無属性の魔法ってそんな事も出来るんですか?」


「ごめ~ん、話がズレたわね。えっと、本の中に入るのは無属性魔法とは関係ないわ。

 ア・レ・ハ・私の才能!キラッ☆」


 歌でも聞かされそうな勢いだな。違った意味で戦意が無くなった。


「あはは!変な顔!でもね、音無君、君が来てくれて嬉しいよ。この世界に来た経緯を考えると複雑だけど、それでもやっとこうして念願が叶って、本当に嬉しいの」

 呆れた顔をしていると、決めポーズを解いたアンダンテが話を再開する。


「えっと、何と言えば良いのか分かりませんが、喜んで貰えたなら良かった」


 寂しそうな嬉しそうな、そんな顔で見つめられると、咄嗟に気の利いた言葉が出ない。


「さて、それじゃあ私自身の話はひとまず止めて、肝心な魔法の話をしていくわね。魔法書に書いてある内容は飛ばして、まずは貴方が今使える攻撃系無属性魔法の事。」


「はい、お願いします。」


「魔法名は【オーバードライブ】【ディストーション】今はこの二つよ。でもこの二つはかなり強いから、使いこなせればその辺の国の一つや二つならこれだけで。」


「いきなり物騒な話をぶち込んできたなおい」


「だって本当の事だもん。実際やったし」


「・・・・・」

 この子の暗殺命令は適正処置だったんじゃないか?


「この件と暗殺命令の件は別件ですからね。」


「アンダンテさん、私は何も言ってませんが?」


 心でも読まれたか?


「音無君の目がそう言ってたよ」


「いきなり脱線したけど、まあいいわ。話を戻しましょ。【オーバードライブ】は無属性魔法の基礎魔法にして最強魔法の一つよ!と言っても無属性魔法はどれも属性魔法より強いわ。」


「魔導書の最後に書いてあった走り書きってアンダンテさんが書いたんですか?」


「私が書いたわよ。ていうかあれ全部私が書いた私の著書だし。最後の所に著者が書いてあるの見なかったの?」


「忙しくてそこまで見て無かったです。著者だったんですね。」


「私がこの無属性の第一人者だからね~。まあ、この天才美少女の数々の偉大な功績は数千年経った今でも様々な本に記載されているわ!私の著書もこれ1冊では無いからね!」


「おー、凄い。いくつもの本を書いてるんですね。それで、「オーバードライブ」の効果は?」

 いかん、余計な口を挟むと話が進まない。自重しよう。


「そうだった、話が進まないわね。「オーバードライブ」の効果は身体強化よ。対象者の全能力値が3倍になるわ。おまけ程度だけど能力値の補正もあるわ」


「なるほど、では「ディストーション」は?」


「ディストーションはそうね、音無君に分かり易く言うと、光学迷彩ね」


「え?光学迷彩ってこの世界でも科学が有るんですか?」


「無いわ。えっと、さっき言い忘れたけど、私もサンシーカーと一緒に音無君の記憶を見ているわ」


「あー、そういう事か」


「ええ、それで魔法の事だけど、地球の光学迷彩と違う所は、直接空間を歪ませてる所かしら。完璧に姿は見えなくなるし、足音位なら消える。しかも気配その物も消えるから、大声で話したり魔法を撃ったり、壁を叩いたりして大きな音さえ出さなければ、人間相手なら殆ど気が付かれないわ。まあ音を出しても姿は見えないんだけどね」


「それは本当に凄いな。光学迷彩に消音まで兼ね備えてるのか。地球の科学力なんて比じゃないな。」

 確かに完全ステルスの光学迷彩を使えば国を滅ぼせるかもしれない。あれ、思った以上にやばい魔法だなこれ。


「そうね、貴方の記憶から見た感じ、地球の科学力もそれなりに凄い所は有るけど、私のような天才美少女から言わせてもらえれば、パワーユニットとか発電装置に関してはどれも無駄が多くて力の変換効率が悪いわ。特に自然エネルギーね。あんな効率の悪い装置をジセダイエネルギー?とかいって森を無くしてまで増やそうとするなんて頭が悪すぎるわ。」


 異世界とはいえ賢人なら、やはりあのシステムは同じ様に思うのか。


「あとは魔法の発動に関してだけど~、これが一番知りたい所でしょ~?」


「そうですね、なんか詠唱とかしなきゃいけないんですかね?いくら異世界の文化とは言え、この歳で真面目にあれやるの、地味に恥ずかしいんですが」


「そうね、詠唱とか恥ずかしいわよね~。でも安心して良いわ。音無君なら無属性魔法を含めて詠唱は要らないから。貴方は魔法の発動に必要な条件である理解があるから」


「理解?」


「そう、理解。音無君は地球で科学について勉強したでしょ?なぜ火が点くのか?とか、どうして水は氷るのか?とかそういった理解さえあれば詠唱しなくてもイメージだけで魔法は発動するわ。慣れるまで魔法名位はトリガーとして言う必要はあるかもしれないけど」


「おお!それは便利だ」


「でしょう?無属性に関しては、本を開いた時、既にアナタの頭の中に私の意識を入れたから、集中して魔法名でも唱えれば発動するわ。でもここの空間では使えないから、あとで森の中で試してみると良いわ」


 魔導書を開いた時に入って来たのが彼女の意識だったのか。


「わかりました。後で確かめてみます」


「攻撃型に関しては今の所これ位ね。で、次はそれ以外だけど、【キューブ】という異空間収納の魔法が使えるわ。」


「おー異空間収納か。4次〇ポケットだな」


「そうよ。地球での予備知識があるから用途は大丈夫ね。任意の物を際限無く出し入れ出来るわ。生物も入れられるけど、中からは出られないから注意してね。まあ中に閉じ込められても時間の流れが無いから死なないけど、それはそれで地獄よ」


「ですよね、十分気を付けます」


「魔法については今の所これ位ね。まあこの二つがあれば大抵の事は出来るから、十分な位だけどね。他の魔法も使いたいでしょうから、その時になったら教えるわ」


「お願いします」


「それと~、私は今の所、貴方が寝てる時にしか会えないの~私と夢の中でしか会えないのは淋しいでしょうけど我慢してね~」


「あ、大丈夫です」


「・・・・・私と夢の中でしか会えないのは淋しいでしょうけど我慢してね~」


「「・・・・」」


 早く目覚めたいと心から願った。


「もう、ノリが悪いなぁ~。そうだ、大事な事を忘れてたわ。音無君、次の行き先の事だけど、行って欲しい場所があるわ。ちなみに1カ所じゃないからかなりの長旅になるけど、どうせ暇だし良いわよね?」


「確かに暇は暇だが何しに行くか聞いてから決めても良いですかね?」


「え~別に良いけど「異世界を冒険したい!」とか思わないの~?地球で流行りの異世界転生なんでしょ~?この天才美少女とイチャイチャしながら冒険出来るわよ~?」


「あーそういうの良いんで、理由を教えて下さい。」


「・・・私の著書を全て探し出して欲しいのよ」


「同じ魔導書を全部ですか?いくつあるんですか?」


「同じ魔導書は3つで、それ以外の著書が7つ、全部で10冊よ。」


「本の中には何年位入ってたんですか?さっき数千年経ったとか言ってましたけど?」


「三千年よ」


「三千年!?」


「そうね、自分でも驚いたわ。千年までは数えていたんだけど、流石に飽きて寝ちゃって、音無君が本を開いた時に起きたのだけど、音無君がサンシーカーと話してる時に更に二千年経ってたのが分かって少し驚いたわ。でも寝ていたおかげで余計な力を消費せずに何とかギリギリの所であなたに会えたから良いの」


「何がギリギリだったんですか?」


「私の命よ」


書きたい事が多くて長くなりました。冒険開始まで今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。

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