―トロン村へ―
聖霊石と魔導書、夜食を持ち自分の靴に履き替えて、再びルーナに先導されトロン村を探す。
「にしてもこの聖霊石、重さはそれほどでも無いんだがバスケットボールより大きくてなかなかかさばるよな」
「ワンワン!」
小屋を探してもカバンの代わりになる物が見つからなかったので、タンスの中にあったベッドシーツであろう大きい布で包んで背負っている。
魔導書は腰に下げられる専用のベルトを見つけたので、剣とは反対の右側に着けている。
「この聖霊石ってのは何なんだろうな」
「ワンワン!」
「文句を言ってる訳じゃないぞ」
「ワン!」
「ただ、この世界でどういった役割を果たす物なのか気になってな」
「ワン!」
「村に持って行って説明しても、これがあのサンシーカーと呼ばれていた聖霊様の聖霊石って分かってくれるのかなって」
「ワン!」
「まぁお前の母親から頼まれたんだからその辺は大丈夫だろうって思ってるけどな。ルーナも一緒にいる事だし」
「ワン!」
「ただ、心配なのは異世界の村人がどんな種族なのか、さっき覚えたであろう言語が通じるのか、友好的な関係を作れるのかって所なんだよな。この世界でまだ人に会ってないから何気に怖いんだよな。
時間が無くてその辺りも聞けなかったけど。まだまだ分からない事だらけなんだよな。」
その時ルーナの吠え方が変わった。
「ワンワンワン!」
「敵か!?」
とっさに剣を抜いて構える。
ルーナは正面の茂みを見て唸る。
「そこに何か居るのか。」
「ワン!」
ジリジリと茂みに近寄るとそこから何かが飛び出してきた。
とっさに剣で防ぐ。
バシ!
剣を持った右手に力が伝わる。
ぶつかって来たものを良く見ると、丸くて半透明でプルプルしてるアレだった。
「スライムか?」
ゲームでよく見るスライムだった。
「なんか煙出てるぞ」
恐らく剣の属性でやられたのだろう。ジュウジュウと音を立てて少しづつ溶けている。
「こいつには勝てるよな?」
そう言うと同時に剣を振り、シュっと軽く音を立ててスライムを切った。
全体が溶けて崩れている。倒せたみたいだ。
「ふ、つまらぬものを切ってしまった」
男子が生涯で一度は言ってみたいセリフ、ベスト20以内には入っている言葉を口にした。
血やスライムの何かは着いていないが血振りをしてから納刀する。
「ワン!」
ルーナが切ったスライムの周りをまわっている。
「ん?何か落ちてるな。小さい聖霊石か?」
小指の半分のサイズの透明な石が落ちてた。
「綺麗な石だな。これも聖霊石なのか?もしくは魔石?魔物を倒すと取れるのか?換金できるアイテムかな?そう言えば財布もスマホも転生前の物は服と靴以外何も無いんだよな。」
そう、このオッサンは現在無職でバツ0だが子持ちの一文無しである。
それは置いといて、異世界モノのセオリーとしては、ドロップ品なら換金出来るか、もしくは物々交換位は出来るだろう。もしくはこれが通貨になってる可能性もある。持っておこう。
ジーンズのポケットにねじ込んだ。
「よし、ルーナ、また居たら教えてくれ。」
「ワン!」
村に着くまでに何体か倒せたら良いな。
そう思いながら再び歩き出す。
その後20分~30分程度歩き、道中で3体程スライムを倒し、魔石(仮)を同数手に入れた。
「村だ」
「ワン!」
トロン村と思しき村が見えた。
森から出ると、村の入り口と思しき鳥居のようなアーチがある道に出た。
アーチの上部にはトロン村と書かれた看板が掲げてあった。
「文字が分かる。言語は大丈夫なようだな」
「ワン!」
ルーナと共にアーチをくぐり、村に入った。
村人を探しながら進んでいくと、杖を持った一人の老人がベンチに腰かけていた。
近づくとこちらに気が付き、立ち上がった。
「お待ちしておりました。初めまして、私、この村の村長のストラル・カーマインと申します。」
「え?ああ、えっと、音無惣一郎と申します。初めまして。」
動揺して変な挨拶になった。
「サンシーカー様の使いの方でございますね?」
おお?何故バレた?
「えっと、何故?」
「今朝、サンシーカー様より「使いを頼んだ友人がこの村へ来るのでここで待つように」とお言葉を授かりましたので」
「なるほど、私が来た理由はご理解頂いていますでしょうか?」
「はい、少しだけですが。立ち話では何ですので、家の方でお話致しましょう。」
「分かりました」
村長の家に移動する。
大きな家だ。
他の民家の3棟から4棟分の大きさだ。
庭も広いし、一目で町の有力者とわかる。
広い庭付きで建物に関してはワンルーム8部屋アパートの大きさ位ある2階建てだ。
横に大きな納屋もある。
「立派なお屋敷ですね。」
応接間らしき部屋に案内され、メイドさんに出されたお茶を飲みながら思ったままを素直に褒める。
「ありがとうございます。祖父の曽祖父の時代から代々受け継いでいる物の一つでして、村人の協力も頂いて、なんとか管理できております」
謙虚な人だ。
そして、お茶が美味しい。匂いも味も紅茶だが色は透明で、変な感覚だった。
ちなみにルーナも家に上っていて、応接間の座り心地の良いソファーに座る俺の横に寝そべっている。床では無くソファーの座面に。
「それで、早速ですがここに来た経緯や目的ですが、どれから話しましょうか?」
「お話の所申し訳ありません、先に一つだけ確認させて頂いても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「その、サンシーカー様は既に・・・?」
神妙な面持ちで聞かれる。
「はい、残念ながら」
「・・・やはりそうですか」
「隣にいる、このシーカーウルフの子、ルーナは聖霊様から育てて欲しいと直接託されました。」
「サンシーカー様から直接!?」
「はい」
村長はかなり驚いている。村長の驚き様から察するに、どうやら聖霊様は人に直接会う事は少ないみたいだ。
この状況で私が聖霊様の首を落としたと言って良いのか悩む。
・・・・・聞かれない限り言う必要は無いか・・・。
嘘をつく必要は無いが、全てを話す必要もない。トラブルは避けたいからな。いくら俺が聖霊様本人にゾンビ化した自分を殺すように頼まれたとは言え、殺した理由が事実だという証拠が無い。機会が来る迄は言うのは止めておこう。聖霊様が俺を友人と言ってくれたので特別扱いを受けているが、その事実は話をややこしくするだけだ。第一まだ判明してない事がある。
そう思いながら一口お茶を飲み再度話を始める。
「最初にお渡しする物があります」
そう言ってシーツに包んだまま膝に抱えていた聖霊石をそっと目の前のローテーブルに置く。
「これは、サンシーカー様の・・?」
村長が椅子から立ち上がり床に膝をついて聖霊石とこちらをゆっくり交互に見る。
「はい」
「なんと・・・・・・」
村長は涙を浮かべて聖霊石を見ている。信仰の対象である守り神が居なくなってしまった事を実感しているのであろう。
俺は日本人特有の変幻自在の無宗教だが、信仰心のある人の気持ちは理解できなくもない。
あの事を黙っているのは心苦しいが、今はその時ではない。
「聖霊様はこちらの聖霊石をこの村に届けるようにと仰いました。あとはこの村の方々にお任せ致します」
「・・・承知致しました。村を代表し、我々の全員の命に代えてもお守りさせて頂きます。」
村長は床に右膝と右手のこぶしをつき、聖霊石と俺に首を垂れながら力強い声でそう誓った。
最大の敬意を払う作法なのだろう。
「宜しくお願い致します。」
俺は立ち上がり、答えた。
互いに再び椅子に座り直し、話始める。
「それで、オトナシ様、サンシーカー様からルーナ様のお世話を仰せつかったとの事ですが、それはオトナシ様がずっとお世話をなさるという事でしょうか?」
「はい、そういう事になります。この村に届けて欲しいでは無く、「育てて欲しい」とその言葉で託されましたので。」
「なるほど、承知致しました。私たちも出来る限りご協力させて頂きますので、何か必要な事等御座いましたら、遠慮なく仰ってください。」
村長はルーナを優しい目で見ながらそう答えた。
「ありがとうございます。そうさせて頂きます。そして取り合えず私のお話は以上となります。」
「はい、この度は大変なお役目を承って頂き、誠にありがとうございました。」
村長はそっと立ち上がり、手を胸に当て軽く頭を下げる。
どこかで観た事の有りそうな所作だった。恐らくこれも敬礼の一種なのだろう。
俺も静かに立ち上がり軽く頭を下げた。
この世界の作法は分からないが、多分先程と同様に、同じ挨拶は返さず偉そうにしていなければならないはず。
所謂貴族とかそういった文化圏では、本人が望もうが望むまいが階級や立場に応じた態度が必要になるはずだからこれでいいと思う。
村長もこちらを変に窺う感じも無く笑顔を返されたので多分大丈夫。
「お茶の御代りは如何ですかな?」
「はい、頂きます。このお茶美味しいです」
「お褒めに預かり恐縮で御座います。承知致しました。お茶の御代りをお持ち致します。」
そう言って小さなハンドベルを鳴らすとメイドさんが現れ、お茶を淹れてくれた。
最初に淹れてくれた人もこの人だった。
「ワン!ハッ!ハッ!ハッ!」
「あ、ルーナにもお水を頂けますか?」
空気が読めて我慢の出来る良い子だった。今すぐモフりたいが人目があるので我慢する。
ルーナと一緒に喉を潤す。
文字通りだが、少しだけ肩の荷が下りた。
スロースタートですが今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。




