ぬいぐるみ
僕は、色々な動物に囲まれて途方に暮れていた。
詳しく説明すると彼らは一匹一匹形も大きさも異なっていて大きい物ならアヤと同じくらいの大きさの赤紫の魚で、小さい物ならアヤの手のひらに収まるピンク色の熊だった。
そこにいる動物達の色が奇抜な理由は簡単だ。遺伝子操作ではない。認識されやすいように他には無いような配色になっている。つまり彼らは、赤ちゃん用のぬいぐるみだ。
僕とアヤが彼らと同じ場所にいる理由はシンプルなのだけれ少しだけ時間を遡る。
アヤは深刻そうな顔をしながら言った。
「明日からテストなんだ。」
「テストって何を試すの?」
「今までちゃんと授業を聞いていたか試すんだよ」
僕が知る限り、アヤは授業を聞いていた。教科書やノートはしっかり書き込みがされているし。宿題だって僕と一緒に毎日やった。試す必要があるのか疑問に思いながら机に向かっているアヤの左肩に後ろから顎を乗せた。いつもなら今の時間ケーキ屋さんのケーキを食べながら僕とおしゃべりしている。
「今日からテスト終わるまで勉強するから、氷室君は先に寝てね。」
アヤと出会ってから僕は毎日アヤと一緒に眠っていた。最初はもちろん断った。夢うつつでアヤを噛んだりしたら大惨事だ。しかし断ったら、アヤはなぜか妥協するからしっぽを貸してと言ってきた。グレーのパジャマを着てベッドに横になったアヤは、枕元に座り込んだ僕のしっぽを捕まえて満足そうに微笑んだ瞬間夢の世界へ旅立った。そして、僕のしっぽを握りしめて眠るアヤを眺めていたら、朝になっていた。それから毎日僕はアヤにしっぽを握られたまま寝たり起きたり規則正しく生活している。
広くはないベッドに独りぼっちの僕はいつもと同じように薄暗くされた部屋に違和感を感じていた。しっぽの先にアヤは居ない。習慣とは恐ろしい。きっと僕は眠れない。寝室から抜け出した僕は机に向かっているアヤに提案をした。一人だと眠れないからそばにいる。
次の日の朝お互い寝不足のまま学校でテストを受けた。
「氷室君まで徹夜に付き合う必要はないからね。一人で眠れないのなら良いこと考えたんだ。」
学校からの帰り道に連れて行かれたぬいぐるみ売場。そこで僕は途方に暮れている。アヤがしっぽを握ってくれないと眠れないと僕が言わずにいたからいけない。しかし、黒豹の僕がぬいぐるみと一緒なら安眠できるとニコニコ笑っているアヤが少し恨めしい。ふと、色鮮やかなぬいぐるみの群の中から真っ黒な一体と目が合った。色、姿、形。僕と違うのは、大きさ。アヤの手の平に乗るサイズのぬいぐるみは黒豹だった。僕と同じ黒豹だった。僕の視線の先を見てアヤはそのままレジにその黒豹を連れて行き部屋に戻ってベッドの枕元に置いた。その夜から僕は、黒豹の僕は黒豹のぬいぐるみと一緒に寝るはめになった。
僕はしっぽを握ってくれるアヤと一緒にいたいのに、いつもの場所にアヤはいない。
しっぽの先にアヤは居ない。
今夜も眠れそうにない。




