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らっこ
「氷室君。見てラッコだよ。」
アヤはニコニコと笑いながら大きな水槽に顔を近づけて水面に浮かぶ生き物を指さした。
静かで薄暗くて涼しいのがこの場所の特徴で、水辺の動物を観察する施設、水族館に来ている。
「可愛い顔してるんだね。」
「らっこって眠る時流されたりしないのかな?」
「海草に体を巻き付けて眠るんだ。」
「ほんとに?すごいね。でも海草が無いときはどうするの?」
「手を握るんだ。らっこはお互いに流されても離ればなれにならないように眠るんだよ。」
「氷室君は物知りだね。」
「ひとりぼっちじゃない。手を握ってくれる相手がいると安心だね。」
そう言うとアヤは少しだけ左手に力を入れた。
僕とアヤは手は繋いでいない。 僕のしっぽをアヤの左手は握っている。少し痛いくらいに握り込んだ僕のしっぽをアヤは離さない。 アヤが手を離したい時に離せるように、僕はアヤの手を握らない。




