サンタ
「氷室君。今日はクリスマスイブだよ。」
「知ってるよ。だから部屋の中に木が生えてるんでしょ。」
部屋の中に突如生えた木にアヤは色々な飾りを取り付けながらリンリンと鈴の音の様な鼻歌を歌っていた。
「氷室君。サンタさんって知ってる?」
「良い子の靴下の中にプレゼント入れてくれる老人でしょ。」
僕は投げやりな言葉を選んだ。
「そうそう。今日の夜、来てくれるかな?」
たまに僕はアヤがどこまで本気なのかわからなくなる。夜中に老人が世界中の良い子全員の所に行くのは無理だ。しかも、サンタが来た証拠であるプレゼントを置くだなんてさらに無理だ。
「去年は来たの?」
「去年はたぶん悪い子だったんだよ。」
「来なかったんだね」
「うん。今年は良い子だったからきっと来てくれるよね。靴下とお手紙を枕元に置いて寝るんだ。氷室君の分の靴下もあるから安心してね。」
僕は不安しか感じなかった。アヤは良い子だ。アヤの自己判断ではない、僕が認める。誰が何を言おうとアヤは良い子だ。でも、サンタが来る条件はそこではない。僕は知ってる。さて、どうしよう。
「アヤは、サンタを信じてるの?」
直球。アヤは、目を見開いた。
「会った事はないけどいるよ。」
「フィジカルな現象での認識のプロセスは全部で5つ。目で見る。手で触る。鼻で嗅ぐ。耳で聞く。口で味わう。アヤは見た事も触った事も嗅いだ事も声を聞いた事も味わった事もないサンタをアヤはどうやって認識したの?」
「みんなサンタさんからプレゼント貰ってるよ。」
「みんながプレゼント貰ってるからサンタを認識するなんて軽率すぎるんじゃないかな。」
「サンタさんはいないの?毎年待ってるのに来ないのはいないからなのかな。」
「いないとは言い切れないけど、アヤの所に来るサンタはみんなのサンタと種類が違うんだよ。今年はきっと何かくれるよ。」
「サンタさんに種類あるの?」
「明日が楽しみだね。」
僕は知ってる。サンタの種類は親や恋人や兄弟や姉妹や業者さん。今年アヤの所に来るサンタは僕だ。問題無い。アヤが寝静まってから僕はこっそり慎重にアヤの手紙を読み込んだ。
「何にもいらないから、氷室君と一緒に居させてください。」
僕は、アヤの準備した靴下の中に左前足を突っ込んだ。そしてそのまま動かずに朝まで眠った。アヤは夢現の僕が無理矢理入った靴下をぎゅっと抱きしめてくれた。
アヤの書いたサンタへの手紙は無くなっていた。




