おばけ
夕方僕たちはテレビの前に座っていた。
「怖い番組放送されてるよ。暑いときに怖い話聞くと涼しくなるらしいから見よ。」
テレビのリモコンを尻尾の先で触れながら目的の番組を見つけて尻尾を放す。原理はよくわからないのだけれど、フィジカルである気温をメンタルである恐怖が和らげるらしい。
「やだ。見るなら氷室君一人で見て。」
アヤは自分の指を僕の尻尾の上からリモコンに押し付けた。テレビの画面が切り替わる。僕の記憶が正しければ、アヤの貯蔵書にはホラーも含まれていた。
「アヤ怖いの嫌いなの?僕が一緒だから大丈夫だよ。一緒に見よ。」
僕は尻尾でまた画面を切り替える。僕は一人でテレビは見たくないし、アヤが見ないなら見る必要がない。僕はアヤと一緒がいい。ちなみに怖いシーンで僕に縋り付くアヤを想像して僕は口元がフニャリとしてしまっている。
「氷室君と一緒でもやだ。テレビと扇風機のスイッチの切り方わかるでしょ。終わったらちゃんと切ってね。」
アヤはそのまま寝室へ行ってしまった。仕方なく一人ぼっちで口元を引き締めて画面を眺める。僕は黒豹だから、人間が感じる恐怖を同じように感じる事はないと思う。比較するにしてもアヤがいないので正解がわからない。途中から関心が無くなってしまったテレビを消して、扇風機も切って寝室に向かった。
「アヤ。寝てる?」
「終わったの?」
「終わってないけどアヤの隣がいい。」
「あのね、本当は怖いの平気なんだ。でもね、もし、怖いって感じてしまったら嫌だ。」
「何を?」
「人が認識していない存在を怖いって感じたら氷室君の事も怖いって感じちゃうかもしれない。だから怖い番組は見ない。」
「僕は黒豹だよ。」
僕は何で黒豹なんだろう。なんでアヤはこんなに優しいんだろう。僕は僕が黒豹である事に疑問を感じた事はなかった。でも、アヤの隣にいるには黒豹より人の方が良い。僕は何で黒豹なんだろう。
「氷室君。一緒に寝よ。」
「おやすみアヤ。良い夢を。」