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仮想の旅路  作者: paco
第一章 ≪旅の始まり≫
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第七話 『夢』

夢を見た。

仮想世界へ来る前の、日常だ。


...起きろ、海斗!起きろって!


兄の声が聞こえた。

続いて、体の感覚が戻ってくる。


体を起こし、挨拶をする。


「おはよう、陸兄さん」


そこには、布団の横に屈む、いつも通りの兄がいた。


「ったく、相変わらず妙に寝起きは良いな。羨ましいぜ」


決して朝が弱くなく、俺を起こしに来てくれる兄からいつも通りの返答が来る。


「そんなこと言ったって、陸兄さんの方が早起きじゃないか」


「俺の寝起きは、海斗程よくねぇよ。とにかく、朝飯出来てるから食え。俺は出かける」


そう言って兄は立ち上がり、廊下に向かって歩き出す。


「あ、行ってらっしゃーい」


俺の声に、兄は振り返らずに手に振った。


その後は起き、朝食、歯磨き...と一日の準備をする。

そして、ジャージに着替えた後、まだ暗い、朝の空気の中を走り出す。


場面が変わる。


家族が居た。兄、俺が机を囲んで話している。


「それにしても...陸斗海斗って適当だよなぁ、陸と海とって...」


兄が言った。しかし、返答が来る前に場面が変わる。


...ここは、何処だ?


ゼロさんの顔が見えた。後ろは暗く、俺の後ろが光っているのか...むしろ、俺が発光している?その光が、部屋を薄暗く映し出す。


今までの夢には見覚えがあった。しかし、今度は...思い出せない。そして、妙に鮮明だ。


「...成功...か」


ゼロさんの声が聞こえた。

続いて視界が開けた。疲れたように上を見上げるゼロさんが見える。


続いて、何かに気が付いたかのように目を見開いた。


「今日は...確か...まずい、時間が...既に...!」


素早く立ち上がり、何処かへ行く。扉の開閉音が聞こえたので、扉から出て行ったのだろう。


...起きろ。海斗くん。


誰かの声が...ゼロさんの声が聞こえた。

続いて、体の感覚が戻ってくる。


体を起こし、挨拶をする。


「ゼロさん...おはようございます」


「起きたか」


脳裏に夢の情景が蘇る。あの光景は何だったのだろうか。

頭を振って情景を振り払い、周りを確認する。日はすでに傾いており、祠の影が長く地面に映し出されている。


「あれ...リンは?」


「居ない。私が起きたときには既に居なかった。君を起こしてからドシ達の家の方を探しに行こうと思っていたので、行こうか」


嫌な予感がした。急いで飛び起きる。


「行きましょう!」


走り出す。横を、ゼロさんも素早くついて来る。左手に結晶のようなもの...森の中の広場で、ゼロさんが使っていた物...それに、ドシがゼロさんの傷を治したときに使った物...だろう。


「リンは...村にいるようだ」


村...何処だろうか。そういえば、前にその結晶を...使った?時も、村という単語を口にしていた。


「村って...何処ですか!」


走りながら、声を出す。息が乱れるが、歯を食いしばって走り続ける。


「この道の先に。時間短縮のため、ドシの家は通り過ぎよう」


深く頷き、また走り続ける。

夕日を背に受け、俺とゼロさんはドシ達の家に向かって走る。

ドシの家を通り過ぎ、走り続ける。

不思議と苦しさは感じられなかった。


「あそこ...!」


その時、建物が見えた。人の...焦ったような声。そして、硬い...木?否、金属か。が、ぶつかり合う音がする。鎧だろうか。


...!


その時、ゼロさんが足を止めた。


「ゼロさ...!」


俺も足を止め、焦ってゼロさんの名を呼ぶが、ゼロさんが口に人差し指を当てているのを見て、その呼び声は止まった。


道の脇の森を指さし、入っていくので、急ぎ足でそれに俺も続く。


「どうしたんですか...!」


小声で言うと、ゼロさんから返答があった。


「何かおかしい...森の中から様子を見よう」


「...!なら、早く!」


「普通に走っていくよりは遅くなるだろう。すまないな」


...頭が冷えた。ゼロさんは怪我をしたまま走ってきたのだ。


「...悪いのはこっちです...すいません」


ゼロさんは頷き、森の中を歩き始める。静かに...しかし速く。


進んでいくと、人の声がより鮮明に聞こえるようになっていった。足を止め、耳を澄ます。


「...誰もいない!」


男の声が聞こえた。


「何故!いや、一人...」


こちらはもう少し、声に年季が入っている気がする。


「一人...」


声が遠く、良く聞こえない。


「強い...!」


こちらも、同じような状態だ。


「援...!まだ...!」


こちらは、遠くで聞こえる、硬いものと硬いものがぶつかり合う音でほとんど聞こえない。耳障りな音が、絶え間なく鳴っている。


声を聞くに、混乱が起きているようだ。


「もう少し進もう...あそこ、音の中心にリンがいるようだ」


ゼロさんがこちらを振り向き、小声で言う。


俺は頷き、進み始めたゼロさんについていく。

村に立ち入ると木がないため、森の中を進んでいくと、建物で見えなかった、音の中心が見えてきた。


...!リンが戦っている...否、一方的に、兵士...と言って良いのだろうか。黒っぽい、しかし金属のような光沢がない素材の、鎧のようなものを着ている。頭には何も被ってはおらず、髪の色は、暗色系を中心に、色の種類は多い...を、一方的に、蹴散らしている。木刀のようなものをもって、来た相手を文字通り吹き飛ばしていくのだ。

しかし、あの吹き飛び方は...違和感がある。木刀が鎧に当たる音が聞こえない上に、ただ木刀の威力に押されているような吹き飛び方ではなく、強風に煽られたかのように飛んでいくのだ。

先程聞こえた硬いものと硬いものがぶつかり合う音は、地面にぶつかる鎧の音。そして、運悪く吹き飛んできた兵士に下敷きにされた、別の兵士の鎧の音だったようだ。


「...泣いている?」


ゼロさんが呟く...泣いている?


よく目を凝らすと、確かにリンの目からきらきらと輝く水滴が跳ぶ。歯を食いしばり、泣きながら兵士を吹き飛ばしている。

何故...?


見ていると、段々とリンに襲い掛かる者は少なくなってきた。しかし、囲まれていく...ここまで圧倒しているリンでも、取り押さえられてしまうだろう。


「...これじゃ、リンが...!」


「確かに危険だ。どちらの目的も分からない状況ではあるが、今は恩義があるリンを救おう。異論はあるか?」


「勿論、そのつもり...ですが...どうやって...!」


「急ぎ考えなくては...」


今の状況...俺とゼロさんは村に面した森の中にいる。村の広場ではリンが戦っているが、住民がいると思われた村には兵士と思われる武装集団が陣取っている。リンはその集団に囲まれそうになっていて、1対1...いや、4対1くらいまでなら圧倒しているが、多勢に無勢。囲まれればリンでも取り押さえられることは不可避だろう。


状況から考えるに...何か行動を起こす必要がある。しかし、戦力になりそうなドシはいない。さらに、味方はリンも含めて、3人。俺とゼロさんはロクな戦力にならず、飛び込んでいっても邪魔なだけ...なのだが、何もしなくてはリンを救うことはできないだろう。


作戦と言えるものではないが...やはり、一点突破...だろうか。リンもそれを狙っているようだが、逃げ道となりそうな森への入り口...つまり、俺とゼロさんの前には兵士が特に密集している。リンが逃げることを恐れているようだ。


...!


その時...俺とゼロさんが走ってきた道の方から、ガチャガチャと、今までの音とは違う、金属音が響いてきた。


「まずい...これは早く手を打たねば」


ゼロさんが言う。俺も同感だが、恐らく、敵側の援軍が来たようだ...このままではまずい。


「やっと来てくださいましたか!村の住民は殆ど見当たりませんが、一人だけ...」


...!

兵士たちが、道のほうを向いて、敬礼のようなものをしている。リンの方に注意を向けてはいるが、森の方への警戒は疎かになっているようだ。


「ゼロさん...!」


俺が視線を向けると、ゼロさんは言った。


「...すまない、海斗君。注意を引くのは君に頼んでも良いだろうか。流石に右腕が少しばかり...」


...俺が無理をさせたツケだ。ゼロさんにこれ以上の無理を強いるわけにはいかない。


「分かりました。ゼロさんは、先に森の中に入っていてください」


「すまない」


頷き、森に入っていくゼロさんを見届けてから、俺は一歩一歩慎重に、兵士の背後へ忍び寄る。


残り3メートルをきったあたりで、リンがこちらに気が付いたようだ。

思い切り息を吸い込み、その状態でリンに手招きをする。


リンがこちらに走り始め、兵士の注意がリンに集まった瞬間、肺に溜めていた空気を、一気に吐き出しながら、空へ届けと思いっきり叫ぶ。


「わぁあああああああああああああああああああああああ!」


その声は振動となって、広場中に響き渡った。


途端、兵士たちが耳を抑えてうずくまり始めた。


注意を引く...と言う目的だったのだが...予想以上に効果が出てしまったようだ。しかし、これは千載一遇チャンスだ。


リンがいるはずの、広場の中心を見ると、リンまでもが耳を抑えてうずくまっている。


急いで走りより、リンを立たせる。


リンはこちらを見て、少し笑った。


「悪いけど...肩を貸して。平衡感覚が...」


耳は、三半規管に繋がっている。何故そこまでの大声が出たのか、何故自分に影響が無いのかは謎だが、三半規管にまで影響が出てしまったのだろう。そうすると、恐らく兵士も暫くは動けまい。

俺はリンの腕を自分の首に回させた。そして、その状態のまま森に向かって足を踏み出す。


「そこの二人、待て!」


森に一歩足を踏み入れたところで、後ろから、ヘルメットをかぶったような...くぐもった声がかかった。恐る恐る振り向くと、鉄のような光沢のある鎧を着て...甲冑の兜?をかぶった騎士...だろうか。がいた。見ると、倒れていた兵士も少しずつ起き上がり始めている。


距離はまだ15メートル程離れているが、相手がこちらにこようとすればすぐに追いつかれてしまうだろう。


「今は、何もしない」


...予想外のことを言われた。それに、その決定権があるという事は、司令官なのかもしれない。着ている物を見るに、恐らくは道を歩いてきた援軍...だろう。


「その代わり、ここでこれ以上の思念法は使わないでくれ。兵士達に後遺症が残る可能性がある。命にもかかわるかもしれない。だから、頼む」


予想外だが、嬉しい誤算だ。それに、村を無差別に襲ったわけでもなさそうだ。リンを襲わせたのも、何か理由があった...のだろう。後でリンに事情を聞くのが良いだろう。


騎士の方を見据え、俺は頷き、森の中に入っていった。

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