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兵主部弐 みあれのよる  作者: ずずつすず
女神の降駕
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23/23

四 童心

 女神は、渡らせ給うたーー分祀、とか、わけみたま(分魂)という考え方がある。

 神は神明ーーまさに、灯明のごとく、他に分けて、広げることができる・・罔象女神は、秦氏の銅鏡へ。

 これより還幸だ。

 兵主神社に、神体をお遷しする。

 「やってくれた、のう」

 じろ、と、刷雄が、座り込んでいる徐福を見下ろす。

 (ふん)

 「妙にしおらしいと思うておったが、やはり、肚に一物含んでおったか。ーー罔象女神を神鏡に遷御あそばせ、氏神とともに水神として祀る・・それはそれで、完結しておったが」

 (藤原氏、か・・)

 祭祀の家柄ーーアマテラスを祀る司祭・・あめのこやね命(天児屋命)のすえ。

 

 だ(・)か(・)ら(・)、(・)天(・)岩(・)戸(・)の(・)再(・)現(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)。

 

 天照大神に、八咫鏡を差し出したのは、天児屋命だ。

 

 まあ、そんな共感呪術に沿った解釈をせずとも、

 ご降駕賜れた。

 

 一瞬だけ栄光が過ったのだ。

 

 

 

 「罔象《みずは》とお呼びすべき御方を、

  罔象《もうりょう》と呼んで勧請したのう。

  あれは、生活用水ではのう、馴致(ジュンチ、飼い慣らす)されぬ影と死角、野の水沢に結ぶ魔であろう」

 息を吐く。

 

 「異境辺土の道標《しるべ》たれ、とーーそう、祈ったか」

 

 (さすがに、目前では、あ(・)ら(・)を見とがめられるのう)

 式次第にはうるさい連中だーーあの明鏡止水のきは(際)にあっては、こちらの心情も映し出され、露呈してしまう。

 

 魍魎としての罔象女神もまた勧請し、兵主と合祀して、

 魑魅(すだま、チミ、精霊のこと)に富む坂東での水利を願う。

 それが本音だ。

 「ゆ(・)く(・)のか?」

 「ゆ(・)く(・)」

 徐福は言った。

 「中央《こなた》で、朝に媚びへつらうその未来ーーその末路が、いかなてんまつに至るのか、つぶさに見た以上は、のう」

 「・・」

 徒手空拳で日の本に渡り、溺れるものがつかんだわ(・)ら(・)し(・)べ(・)一本。そこから、長者まで成り上がったーー

 また、同じことをするだけだーー裸一貫。

 (じ(・)じ(・)い(・)には、どういう仕儀に至るのか、見届けることなぞできぬがねーー)

 水先案内人ーーそれが、永遠を志す道士を名乗りとする、おのれの仕事だ。

 野に向かう。

 地方へ!

 依然、中央のみが夜の燭のようにかぼそく文明をたたえている、この時代のーー地方へ。

 (あ(・)な(・)た(・)にも、兵主と罔象、魍魎を祀る社を築かねばならぬな)

 兵主神社は、関東にもある。

 千葉県柏市に兵主八幡神社、剣神であるふつぬし命(経津主命)とほむたわけ命(誉田別命、応神天皇のこと)を祀るーー創建年代は不詳。

 わけみたま(分魂)ーー神明は、分けられる。

 きっと、文明という人の灯も。

 秦と兵主の灯火も。

 「あづまえびすめが」

 くくく、と、肚で、笑いを転がした。

 「存外、悪うない。

 「ひょうすべ、が

 あづまえびす、だ」

 いずれ、兵事に長けた民ともなろう。

 夏雲を追うーー童のようだ。

 「寂しくなる」

 「ああ」

 童心は、片一方で、おおいがたい喪失を抱えている。

 

 少年の日は過ぎるが、新境地を前にした時、男は、だいたい同じ顔になる。

 

 

 

  

 



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