↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兵主部弐 ビブロフォビア─ひょうすべの日本史─  作者: ずずつすず
女神の降駕
PR
22/22

三 日

 女神がおり、神体となる鏡がある。

 

 遷御の儀が始まる。

 

 結縁けちえん

 

  かれ(故)ここに天照大御神みかしこみて(見畏みて)天の岩戸屋を開きてさし籠りましき。

 おぬしに、日没は似合わない。

  あめのやすのかは(天の安の河)の河上の、

  天のかたしは(堅石、堅し岩)を取り、

  天のかなやま(金山)のまがね(鐵、鉄の古称)を取りて、

  かぬち(鍛人)あまつまら(天津麻羅、天目一箇神)をまぎて(求ぎて)、

  いしこりどめのみこと(伊斯許理度賣命、石凝戸女命、銅鉱石の神)におほせて(科せて)、

  鏡を作らしめ、

 暗闇にあって、おのれの尊貴を見失うのならーーその闇の片隅には兵主部(われら)もいる。

 幾度でも、鏡と影は、おぬしと向き合おう。

 日本人やまとびとよ。

  ここに天照大御神、怪しと思ほして、

  天の石屋の戸をほそめ(細)に開きて

  内よりのりたまはく(告りたまはく)、

  「あ(吾)がこもります(隱ります)によりて(因りて)、

   天の原おのづからくらく(闇く)、

 

   あしはらのなかつくに(葦原中津國)も

   皆くらけむ(闇けむ)と思ふを、

   なにゆえにか

   あめのうずめ(天宇受賣)はあそびし(樂し)、

   またやほよろず(八百萬)の神(もろもろ)わらふ(咲ふ)」

  とのりたまひき。

  ここにあめのうずめ(天宇受賣)白さく、

  「いましみこと(汝命)にまさりて(勝りて)

   たふとき(貴き)神いますが故に、

   よろこびわらあそぶぞ」

  とまほしき(白しき)

  かく言ふ間に、

  あめのこやね命(天児屋命)

  ふとだま命(布刀玉命)

  その鏡をさしでて、

 

 

  天照大御神に見せまつる時に、

  天照大御神

  いよよあやしと思ほして、

  やや戸よりでて臨みます時に

 

 異彩に触れ、幾度でも、おのれを取り戻せーー生彩を甦らせよ。

 われらは依然、

 ひとつのものだと、夢見ることができるのだ。

 

 

 (ち)

 刷雄は、心中舌打ちするーー

 天照大御神にやたのかがみ(八咫鏡)を差し出して、おのれの光輝と直面させたのは、あめのこやね命(天児屋命)ーー藤原氏の祖だ。 

 (乗せられた)

 刷雄は、ひょうすべたちとともに、鏡を支え、罔象女神へ、差し出した。

 

 「みずは(水走)よーーみずは(罔象)よ」

 神がいるーーー鏡がある。

 このまぎれもない神事のひとときに、徐福が言う。

 「罔象もうりょうよ」

 ーーそれでも、清澄さは、揺るぎなく・・

 「全般にして、一般たり得ぬものよーー境界線そのものよ」

 やがて歴史に没し

 影響と残響に過ぎなくなる。

 陰の端の、滲みでしかない。

 忘却にのみ居場所を見いだし。

 お主が迷った折りに導く

 暗闇の牛だ。

 「どうか、われらの社に遷られませーーその神明のかがやきて」

 顔を上げるーー女神がいる。

 

 

 そこには、その女神がいた。

 

 

 これと同じ場面シーンを、知っているような気がしたーーだれが?

 おのれではない。

 きっと、秦のだれかが、経てきたのだろう。

 渡来人が・・

 

 本邦との邂逅、その端緒はじまりにでも・・

 

 「異境の闇にあっても、もといを見失わぬ、みあかし(御灯)としてあらされますよう」

 女神ーー

 輝ける・・

  そのかくり(隠り)立てりしあめのたぢからをのかみ(天手力男神)

  そのみて(御手)を取りて

  引きいだす(出す)即ち

  ふとだま命、しりくめなは(尻くめ繩、注連縄)を

  そのみしりへ(御後方)にひきわたして(控き度して)まをししく

  「これより内になかへりいりそ(な還り入りそ、戻らないでください)」とまをしき。

  かれ(故)天照大御神出でましし時、

  高天の原も

  葦原中津国も

  おのづから(自ら)てりあかりき(照り明りき)

 冴え冴えとしている。

 旭日のように。

 あづまの風に吹かれた

 

 あしたのように。

 

 その名は知っていたーーずっと、ともにあったではないか。

 だからわれらもーーかくも、絢爛たる異端であれたのだ。

 

 「天照大神よ」

 

 

 朕の照覧するところ。

 

 そなたらは、常に、そこにいたな。

 

 はたうぢよ。

 

 

 たれが言ったのかーー

 彼がーー彼女がーーその両方が・・

 矛と盾が。

 矛盾もなくーー

 最初からーー二律背反などというよそよそしさは、さらさらなく・・

 

 貧しくーーとぼしくーー

 だからこそ、ともにあれた。

  

 それは、栄光の時間だったのだ。

 

 それは、本当に、幸せな時間だったのだ!

 

 そう、両者が謳う。


 

  

  ひふみよいむなやここのたり(一二三四五六七八九十)

  ふるべ(経留部)

  ゆらゆらと(由良由良止)

  ふるべ(経留部)

 

 罔象がーー影が。

 罔象がーー水走みずはが。

 由良由良止ゆらゆらと・・

 止まる。

 

 止水ーー

 

 明鏡かがみ

 

 ()()()()()ーー

 

 微笑みしょうーー

 

 遠神とほかみ

 笑賜えみため・・

 

 

 ()()()()()()()()()・・

 

 

 ご照覧しょうらんあそばされていた!


 

 (われらのーー()()も)

 

 

 秦の鬼どもが、声を上げる・・法外のものにでくわしたかのように。

 そして、武の民らしくwarcry を・・凄絶に!

 

 永遠に背きながらーーそれでも、護持して止まぬのは、その一条。

 

  〽おほきみ(大君)の 

   にこそ死なめ 

   かへり見はせじと言立て

 

 

 われらは、()()()()()()()

 

 

 glory(栄光)をつかむかのように、掲げられる無数の手、手、手・・

 

 女神は、微笑みしょうのみで、それらに対している。

 

 万乗の君ーー

 

 天皇すめらみこと

 

 

 輝ける時間が

 

 旭日の交歓が、過ぎるーー

 

 

 

  

 罔象女神は、もうおられないーー遷御された。

 神霊は、ものざね(物実)へ。

 ひょうすべが、そっと、きぬ(帛)をかけるーー神輿へ戻す。

 

 神、渡られ給う・・

 

 上善水の如しーー

 それは、神徳にも似ている。

 上より下へーー

 人のいとう方へ、自ら向かう。

 下野。

 日出ずるところは、冥いが

 

 それが、秦氏はたうぢの決断だった。


 (大丈夫だ)

 徐福は、思う。

 

 われらは、あの日を知っているからーー

 在りし日にーー先祖の上にも照ったであろう、あの栄光を・・


 暗闇の底まで、持ち越せるから。


 (見失わぬ)

 手を合わせ、小泉川へーーみなぎる清澄の水面に、祈る・・水鏡・・明鏡・・

 そんな媒介を経るまでもなく・・そこにおられる。

 日の沈んだ闇の底にあってさえ・・

 秦の老人は、ほほ笑んだ。ーー長い・・長い疑念から解放された・・それは、彼のみではなく、あまりにも多くのものが。

 その、ほんの一人の表れとして、夜の水面に、笑みを浮かべる。

 

 雨は止んでいる。

 

 月影が清かだった。

 

 

 彼は知らないだろうが

 

 その瞬間も、日が、月を輝かせている。

 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。