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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第一章 貧乏商会は立ち上がる

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第6話 時間内に届けます

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。

 帰り道、馬車はかなり速かった。


 豆袋を積んだ二台の馬車が、土の道を揺れながら進む。

 行きよりも重い。

 その分、車輪の音も大きい。


「これ、本当に間に合いますか?」

「間に合わせる」

「質問の答えになっていません!」


 クロードさんは、荷台の豆袋を確認していた。


 すぐ納品する分。

 あとで売る分。

 袋が古い分。


 村で分けたはずなのに、揺れるたびに少しずつ位置がずれる。


「右の馬車、止めろ」


 クロードさんが言った。

 御者が手綱を引く。


「何か問題ですか?」

「重い袋が後ろに寄っている。坂で遅くなる」

「そんなに変わります?」

「変わる」


 御者たちと一緒に、豆袋を積み直す。

 わたしも手伝おうとしたが、すぐ止められた。


「君は数を確認しろ」

「わたしも運べます」

「運ぶより数える方が早い」

「それは……そうですけど」


 わたしは帳簿を開いた。


 納品分、二十袋。追加販売用、十六袋。袋の古い豆、六袋。


 数は合っている。


「合っています」

「なら出すぞ」


 また馬車が動き出した。


 空はまだ明るい。

 でも、夕方まではそれほど余裕がない。


 食堂組合への納品期限。

 前金を受け取った契約。


 遅れれば信用を失う。

 間に合えば、継続取引が取れるかもしれない。

 この差が大きすぎる。


「クロードさん」

「なんだ」

「普通の商売って、こんなに胃が痛いものですか」

「普通の商売は知らない」

「知らないんですか!?」

「俺がやると、だいたいこうなる」

「自覚があるなら直してください!」

「遅くなる」

「少しは遅くなってください!」


 御者が笑った。

 わたしは笑えなかった。


 昼を過ぎると、道が悪くなった。


 橋が落ちた影響で、いつもの道を使えない。

 西回りの道は遠いだけでなく、ところどころぬかるんでいる。


 前の馬車が大きく揺れた。


「止めろ」


 クロードさんが言った。


「また積み直しですか?」

「違う。車輪だ」


 見ると、前の馬車の車輪に泥が絡んでいた。

 そのまま進めば、さらに重くなる。

 最悪、車輪を傷めるかもしれない。


「泥を落とす。時間は?」


 クロードさんが聞いた。

 わたしは空を見て、街までの距離を考えた。


「半刻くらいならあります。でも、それ以上は危ないです」

「十分だ」

「十分なんですか?」

「ここで車輪を壊すよりましだ」


 御者たちが泥を落とす。


 クロードさんも手伝う。

 わたしは、納品分の袋をもう一度確認した。

 数は合っている。

 でも、気持ちは落ち着かない。


「ミリアさん」


 御者の一人が言った。


「この荷、かなり重い。東門まで戻ったら、そこから食堂組合まで少し時間がかかるぞ」

「どれくらいですか」

「普通に行けば、間に合うかどうかだな」


 普通に行けば。

 その言葉が嫌だった。


「納品分だけ先に運ぶ」


 クロードさんが言った。


「どうやって?」

「街に入ったら、左の馬車は倉庫へ行け。右の馬車だけ食堂組合へ行く」

「豆を分けるんですか?」

「ああ。食堂組合に必要なのは二十袋だ。全部を一緒に運ぶ必要はない」


 確かにそうだ。

 必要な分だけ先に届ければいい。


「でも、今から分けますか?」

「街に着いてからでは遅い。今やる」


 納品分の二十袋を、右の馬車に集める。

 残りは左の馬車に移す。


 右の馬車は、明らかに動きやすくなった。


「なるほど……」

「君も覚えろ」

「はい」

「全部を動かすな。必要な分を先に動かせ」


 短い言葉だった。

 でも、商売のことを言っている気がした。

 お金も、商品も、人も。

 全部を一度に動かすから遅くなる。


 必要なものから動かす。


「……勉強になります」

「ならよかった」

「たまに先生みたいですね」

「昼食付きの居候だ」

「先生の方がまだ聞こえがいいです!」


 車輪の泥を落とし、荷を分ける。

 それから馬車は再び走り出した。


 右の馬車は先に行く。

 わたしとクロードさんは、その右の馬車に乗った。

 左の馬車は少し遅れて、ベルカ商会の倉庫へ向かう予定だ。


 街の東門が見えた時には、日が少し傾き始めていた。


「間に合いますか?」

「間に合う」


 今度は、少しだけ信じられた。


 東門を抜ける。


 人通りが多い。

 荷車も多い。

 でも、御者は迷わず進んだ。


「右へ」


 クロードさんが言う。


「そっちは市場通りではありません」

「市場通りは混む。裏通りを使う」

「豆を積んだ馬車で裏通りを?」

「通れる」

「本当に?」

「ぎりぎり」

「ぎりぎりは怖いです!」


 馬車は裏通りに入った。


 狭い。

 かなり狭い。


 店先の箱を避け、道端の犬を避けながら進む。


「クロードさん、壁が近いです!」

「壁は動かない」

「だから怖いんです!」


 御者の腕はよかった。

 馬車はぎりぎりで裏通りを抜けた。


 食堂組合の建物が見えた。

 入口の前には、料理人たちが待っている。


「遅いぞ!」


 料理長が叫んだ。


「時間内です」


 クロードさんが言った。

 わたしは荷台から降り、帳簿を開いた。


「ベルカ商会です。約束の豆を納品に来ました」


 豆袋が降ろされる。


 一袋。

 二袋。

 三袋。


 料理人たちが次々と運んでいく。


 数は合っている。

 品質も問題ない。


 料理長は袋を確認し、満足そうにうなずいた。


「助かった。これで明日の仕込みも回る」


 その言葉で、ようやく力が抜けた。


 間に合った。

 納品できた。

 ベルカ商会は、契約を守った。


「今後も必要でしたら、ベルカ商会にご相談ください」


 わたしは、できるだけ落ち着いた声で言った。


 料理長は少し考えた。


「では、三日分の見積もりを出せ。小麦の復旧までは豆が要る」


 息が止まりかけた。


 三日分。

 継続取引だ。


「承知しました」


 わたしは頭を下げた。

 後ろで、クロードさんが小さく言った。


「取れたな」

「……取れました」

「次は量を増やす」

「今、その話をしますか!?」

「今する話だ」


 ベルカ商会は、食堂組合との継続取引を取った。


 売上は増える。

 信用も増える。


 そして、必要な豆の量も増える。


 左の馬車が、少し遅れて通りの向こうに見えた。

 倉庫へ向かう分の豆が積まれている。

 余ったと思っていた豆だ。

 でも、もう余りではない。

 三日分の見積もりを出すなら、あれも必要になる。


「クロードさん」

「なんだ」

「これ、明日からもっと忙しくなりますよね」

「なる」

「人手、足りませんよね」

「足りない」

「馬車も足りませんよね」

「足りない」

「倉庫も足りませんよね」

「足りない」


 わたしは大きく息を吸った。


 助かった。

 確かに助かった。


 でも、足りないものが一気に増えた。


「えぇぇぇぇ!?」


 ベルカ商会は、初めて継続取引を手に入れた。


 同時に、初めて人手不足になった。

お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

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