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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、市場を蹂躙するー  作者: 堀吉 蔵人


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第5話 あるだけ買います

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。

 翌朝。


 東門には、馬車が二台並んでいた。

 御者は二人とも眠そうだった。

 けれど、ロイが用意した包みを渡すと、少しだけ機嫌がよくなった。


「昼食です。途中で食べてください」

「お、気が利くな」

「急ぐ仕事ですので」


 ロイが丁寧に頭を下げる。

 その横で、クロードさんが当然のように言った。


「休みすぎるな」

「クロードさん」

「なんだ」

「言い方」

「急ぐ仕事だろ」

「そうですけど!」


 わたしは馬車の荷台を確認した。


 空だ。


 昨日までなら、空の荷台を見ると不安になった。

 今は違う。

 空だから、積める。

 そう考えた自分に、少し驚いた。


「商会主」


 ロイがこちらを向いた。


「倉庫と返済の準備はお任せください」

「お願いします。夕方までには戻ります」

「戻らないと困ります」

「わかっています!」


 笑いごとではない。


 食堂組合から前金を受け取っている。

 今日、豆を納品できなければ、ベルカ商会の信用は落ちる。

 昨日手に入れたものを、今日失うかもしれない。


「行くぞ」


 クロードさんは、もう一台目の馬車に乗っていた。


「待ってください。商会主はわたしです」

「知っている」

「では、出発の号令くらいわたしに言わせてください」

「早く言え」

「急かさないでください!」


 わたしは咳払いした。


「ベルカ商会、出発します」


 馬車が動き出した。


 北の農村へ向かう道は、いつもより静かだった。

 小麦の馬車が止まっているせいで、通行量が少ない。

 その分、馬車は速く進んだ。


「本当に間に合いそうですね」

「だから言った」

「まだ着いていません」

「着く」

「その自信はどこから来るんですか」

「計算」

「少しは祈ってください」

「祈ると速くなるのか?」

「なりませんけど!」


 御者が前で笑った。

 わたしは少し恥ずかしくなり、帳簿を開いた。


 前金は銀貨三枚。馬車代は通常の一・五倍。御者二人分の昼食代。それに、これから払う仕入れ代。


 数字は昨日より大きい。

 商会が動いている。

 その実感はある。

 でも、失敗した時の損も大きい。


「クロードさん」

「なんだ」

「仕入れ値は、どれくらいまでなら大丈夫ですか」

「前回より少し高くていい」

「高く買うんですか?」

「急いで積んでもらう。安く買き叩く時間はない」

「利益が減ります」

「納品できない方が損だ」


 また正論だった。


 この人は、安く買うことだけを考えていない。

 必要な時には、きちんと払う。


「それに、北の村は現金に困っている」


 クロードさんは前を見たまま言った。


「少し高く買えば、次も売ってくれる」

「次も?」

「小麦が戻るまでは豆が要る。今回だけで終わらない」


 わたしは帳簿を見る。


 今回の納品。

 次の納品。

 その次の納品。


 取引が続くなら、村との関係も続く。

 ただ安く買うより、その方がいい。


「クロードさん」

「なんだ」

「やっぱり、商人なんですね」

「違う」

「違うんですか!?」

「俺は居候だ」

「居候は前金を勝手に受けません!」


 昼前、北の農村に着いた。


 橋は確かに落ちていた。

 村の入口には、荷を運べず困っている農民たちが集まっている。

 わたしを見ると、村長が駆け寄ってきた。


「ミリアさん! また来てくれたのか!」

「はい。豆を買いに来ました」

「ありがたい。だが、前より量が多いぞ」

「今回は、あるだけ買います」


 自分で言って、少し怖くなった。

 あるだけ。

 昨日までのわたしなら、絶対に言わなかった言葉だ。

 村長は目を見開いた。


「本当にか?」

「はい。ベルカ商会が買います」


 クロードさんが横から小さく言った。


「値段は少し上げていい」


 わたしはうなずいた。


「村長さん。前回より少し高く買います。その代わり、今すぐ積み込みを手伝ってください」

「もちろんだ!」


 村人たちが一斉に動き出した。


 袋が運ばれる

 荷台に積まれる。

 数を数える。

 重さを確認する。


 わたしは帳簿を書き、代金を払った。

 クロードさんは積み方を見ている。


「右の馬車に重い袋を寄せすぎるな。戻りで遅くなる」

「そこまで見るんですか」

「遅れたら困る」

「それはそうですけど」


 積み込みは、思ったより早く進んだ。

 村人たちは必死だった。

 売れずに困っていた豆が、すぐに現金になるのだ。

 それを見て、少しだけ安心した。

 これは、悪い商売ではない。


 ベルカ商会も助かる。

 食堂組合も助かる。

 北の村も助かる。


 ただ、間に合わなければ全部台無しになる。


「商会主」


 村長が、少し言いにくそうに近づいてきた。


「実は、豆はまだ奥の倉にもある」

「奥の倉?」

「ああ。ただ、袋が古い。運ぶなら詰め直した方がいい」


 わたしはクロードさんを見た。


「どうしますか」

「買う」

「即答ですね」

「余れば売れる」

「どこにですか」

「小麦が戻っていない街全部だ」

「規模が急に広い!」


 でも、ここで買わなければ、次に来た時には別の商人に取られているかもしれない。

 わたしは帳簿を確認した。

 まだ買える。

 ただし、買えば戻りの荷はかなり重くなる。

 馬車も遅くなる。


「間に合いますか」

「積み方次第だ」

「つまり、普通には間に合わない?」

「普通に積むな」

「またそれですか!」


 クロードさんは村人たちに指示を出した。


 重い袋を下に。

 軽い袋を上に。

 傷んだ袋は詰め直す。

 すぐ納品する分と、余る分を分ける。


 わたしは代金を計算した。

 村長は何度も頭を下げた。


「助かった。これで村の者に金を渡せる」

「こちらこそ、助かります」

「ベルカ商会は、先代の頃から無茶を聞いてくれる」


 その言葉に、少しだけ力が入った。

 父の名前が、まだ残っている。

 それは、わたしが持っているものだ。


「今後も、豆があればベルカ商会に声をかけてください」

「もちろんだ」


 村長は力強くうなずいた。

 その言葉だけで、来た意味はあったと思う。

 けれど、安心するにはまだ早かった。

 馬車二台には、予定より多い豆袋が積まれている。

 食堂組合への納品期限は、今日の夕方。

 ここで信用を得ても、街に戻れなければ意味がない。

 クロードさんは荷台を見て、短く言った。


「急ぐぞ」

「……やっぱり、余裕はないんですね」

「ない」

「少しは迷ってください!」


 北の村との取引はつながった。


 次は、この豆を時間内に届けなければならない。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

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