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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第四章 分けて考える

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第38話 小口を束ねます

西区試験運用が終わった翌朝。


 七日間の帳簿は、まだ机の上に残っていた。


「ロイ」


「はい」


「終わりましたよね」


「試験運用は終わりました」


「では、これは?」


「正式契約に向けた継続準備です」


「終わってない!」


「終わったから、次に進みます」


「正しいけど、つらい!」


 机の上には、規格票が三枚並んでいた。


 細輪金一号、継ぎ輪金一号、太輪金一号。


 その横に、三つの鍛冶場の納品予定がある。


 ニール鍛冶場、川沿いの小鍛冶、西門近くの古い鍛冶場。


「本日の確認予定です」


 ロイが言った。


「ニール鍛冶場から細輪金六。川沿いから継ぎ輪金四。西門から太輪金二」


「全部来たら、かなり足りますね」


「来れば、です」


「来れば」


 怖い言葉だった。


 クロードさんが規格票を見た。


「今日は回る」


「本当ですか」


「ああ」


「根拠は?」


「昨日、直した」


「それで回るんですか」


「回す」


「力強い!」


 まず、ニール鍛冶場へ向かった。


 炉の火は落ち着いていた。


 槌の音も戻っている。


 ニールさんは、細い輪金を六つ、作業台に並べていた。


「細輪金一号だ」


「本当に一号って呼ぶんですね」


「呼ばないと、お前らがうるさい」


「うるさいのはロイです」


「商会主です」


「即答しないで!」


 ロイは輪金を測った。


 幅、厚み、長さ、許容差。


「範囲内です」


「よかった……」


 ニールさんが鼻を鳴らした。


「紙があると、こっちも楽だ。細かいがな」


「嫌でした?」


「嫌だ。でも、迷わん」


 それは大きい。


 迷わなければ、作業は早い。


「では、納品分の支払いです」


 ロイが小袋を出した。


 ニールさんは受け取り、すぐ炉の方へ戻った。


「次も同じでいいな」


「はい。無理なら前日に言ってください」


「わかってる」


 一つ目は成功。


 次は川沿いの小鍛冶だった。


 職人は、継ぎ輪金を四つ並べていた。


「図、直しておいたぞ」


「ありがとうございます!」


「最初の図はひどかった」


「何度も言わなくても!」


 ロイが確認する。


 合わせ目、重なり、叩きすぎていないか、使える範囲に入っているか。


「範囲内です」


「やりました」


「やりましたね」


 思わず小さく笑った。


 職人も少し笑った。


「次からは、この図で頼め。言葉より早い」


「はい」


「ただ、鉄材が足りなくなりそうだ」


「どれくらいですか」


「明後日から少し減る」


 ロイがすぐ書いた。


「明後日から納品数減少の可能性」


「早いですね」


「早く書かないと忘れます」


「正しい」


 クロードさんが口を開いた。


「切れ端なら、南区の桶職人の裏にある」


「え」


 職人が反応した。


「どんな切れ端だ」


「輪金の外し分。継ぎに使える」


「使えるなら買う」


「買うんですか?」


 わたしは驚いた。


 クロードさんは平然としている。


「捨てるものが、こっちでは材料になる」


「えええええ……」


 まただ。


 クロードさんは、流れを横に曲げる。


 しかも、さらっと。


「では、桶職人さんに確認します。使える分だけ、川沿いへ回します」


「助かる」


 二つ目も、ただの納品で終わらなかった。


 最後は西門近くの古い鍛冶場だった。


 老人は太輪金を二つ、店先に置いていた。


「持っていけ」


「早いですね」


「急がないと言われたから、急がず作った」


「でも早いです」


「暇だった」


「言い方!」


 トマが輪金を持ち上げた。


「前より少し軽いです」


「弱くはない」


 老人が言った。


「お前が運ぶと言ったから、その分だけ削った」


「ありがとうございます」


 トマがまじめに頭を下げた。


 老人は少しだけ照れたように顔をそむけた。


 ロイが確認する。


 太輪金一号。


 重さは範囲内。


 強さは、親方に確認が必要。


「これは桶職人へ回します」


「文句があれば言え」


「言います」


「言うのか」


「言わないと直せません」


 老人は低く笑った。


「面倒だが、悪くない」


 三つの鍛冶場がすべて動いた。


 少しずつ。


 けれど、確かに動いた。


 ベルカ商会へ戻る途中、荷台の上には輪金が乗っていた。


 細い輪金、継ぎ輪金、太い輪金。


 一つの鍛冶場では足りなかったものが、三つから集まっている。


「クロードさん」


「なんだ」


「これ、連合ですか?」


「まだ束だ」


「束」


「連合は、勝手に動く。これはまだ、お前が結んでいるだけだ」


「急に厳しい!」


「だが、束にはなった」


 束。


 その言葉は、少し好きだった。


 太い一本ではない。


 細い線を何本か合わせている。


 一本なら切れる。


 三本なら、少し持つ。


 桶職人の店に着くと、親方が三種類の輪金を見た。


「また持ってきたな」


「今日は規格通りです」


「本当か?」


「たぶん!」


「たぶんで持ってくるな」


 親方が確認する。


 細輪金一号、継ぎ輪金一号、太輪金一号。


 少し時間がかかった。


 わたしは息を詰めて待った。


「使える」


 その一言で、肩から力が抜けた。


「本当ですか!」


「完璧じゃねえ。でも、使える」


「十分です!」


「十分じゃねえ。次はもっとそろえろ」


「はい!」


 十分じゃない。


 でも、使える。


 それだけで今日は勝ちに近い。


 親方は川沿いの継ぎ輪金を手に取った。


「これは悪くない。切れた輪金の補修に回せる」


「鉄材が足りないそうです」


「外した輪金なら裏にある」


「クロードさんが言ってました」


「またあいつか」


 親方がクロードさんを見た。


「見すぎだろ」


「見える」


「便利だな」


「面倒でもある」


 親方が笑った。


「まあ、使えるなら持っていけ。捨てるよりいい」


 わたしは帳簿を開いた。


「桶職人の外し輪金を、川沿いの小鍛冶へ材料として回す。使えるものだけ。支払いは小口」


「また増えました」


 ロイが言った。


「増えましたね」


「でも、線がつながりました」


「言い方がクロードさんっぽい!」


「影響を受けました」


「戻ってきて!」


 夕方、ベルカ商会に戻ると、ロイが三つの帳簿を一つの紙にまとめた。


 鍛冶場別、規格別、納品日、支払い、材料の戻り。


「これは……」


「小口束ね表です」


「名前が強い」


「必要ですので」


 紙の上で、三つの鍛冶場が並んでいる。


 ニール、川沿い、西門。


 それぞれの数は少ない。


 でも、合わせると西区と南区の分が回る。


「ロイ」


「はい」


「足りますか」


「今週分は足ります」


「今週分!」


「来週は、また見ます」


「ですよね!」


 でも、今週分は足りる。


 その言葉だけで、十分だった。


 クロードさんが表を見た。


「悪くない」


「何割ですか」


「十割」


「また十割!」


「束になった」


「連合ではなく?」


「まだ束だ」


「そこは譲らないんですね」


「ああ」


 トマが荷台の縄を片づけながら言った。


「でも商会主、今日は止まりませんでしたね」


「止まりませんでした」


「三つ回るのは大変でしたけど、荷があると安心します」


 それは、まっすぐな言葉だった。


 荷がある。


 それだけで、運ぶ人は動ける。


 桶職人は直せる。


 施療院は使える。


 南区の炊事場も止まらない。


 一つの大きな注文ではない。


 一つの太い道でもない。


 小さな鍛冶場から、少しずつ集めた輪金だ。


 でも、それで仕事は回った。


 夜、最後の数字を見た。


 細輪金六、継ぎ輪金四、太輪金二、外し輪金の材料戻し。


 小さな数ばかりだ。


 でも、全部を合わせると、ちゃんと意味があった。


「一つでは細すぎる線も」


 わたしは小さく言った。


「何本か束ねれば、荷が通る」


 クロードさんがこちらを見た。


「悪くない」


「今のは?」


「十割半」


「増えた!」


「少しだけな」


 ロイがすぐ紙を出した。


「では、十割半記念に明日の確認です」


「余韻!」


「各鍛冶場の来週分、外し輪金の材料確認、規格票の写し、支払い予定です」


「多い!」


 でも、もう逃げる気にはならなかった。


 一つの炉だけでは足りない。


 三つの炉を使えば、数は来る。


 規格をそろえれば、使える。


 小口を束ねれば、仕事は回る。


 ベルカ商会は、太い道を作ったわけではない。


 細い道を束ねた。


 その束の上を、荷が通り始めていた。

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