表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、市場を蹂躙するー  作者: 堀吉 蔵人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/19

第2話 安心する前に仕入れろ

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


「駄目です」


 わたしは、商会主としてきっぱり言った。


「その銀貨四枚は返済用です。仕入れには使いません」

「全部は使わない」


 クロードさんは、空になった倉庫を見回しながら言った。


「そうですか」

「銀貨三枚使う」

「ほぼ全部です!」


 わたしの声が、倉庫に響いた。

 さっきまで豆袋でいっぱいだった倉庫は、今は空っぽになっている。

 豆は売れた。

 銀貨四枚も手に入った。

 なのに、目の前の男はそれをもう使おうとしている。


「クロードさん。うちは明日の夕方までに銀貨五枚を返さないと、倉庫を差し押さえられるんです」

「なら、明日の夕方までに銀貨五枚以上にすればいい」


「言い方が軽い!」

「重く言っても金は増えない」


 正論だった。

 正論なのが、たいへん腹立たしい。


 わたしは帳簿を抱え直した。


「せめて今日くらいは安心させてください。さっきまで商会が潰れかけていたんですよ」

「今も潰れかけている」

「言い方!」

「銀貨四枚を抱えて眠れば、明日は倉庫が残る。だが、それだけだ」

「それだけ、とは?」

「空になった倉庫は金を生まない。次に売るものがなければ、また同じことになる」


 言い返せなかった。


 この人は、借金の残りも知らない。

 馬車の修理代も、減ってしまった取引先のことも知らない。

 それなのに、言っていることは何ひとつ間違っていなかった。

 ベルカ商会は、今日助かっただけだ。

 明日も明後日も、その先も助かる保証はない。


 それでも、だからといって。


「危険すぎます」

「危険だな」

「認めるんですか!?」

「小さい商会が大きい商会に勝つには、止まらないことだ」


 クロードさんは、当然のように言った。


「商会は金を持っているだけでは大きくならない」

「では、どうするんですか」

「金を在庫に変える。在庫を、欲しがる相手のところへ持っていく。そこでまた金に戻す」


 聞いたことのない言い方だった。


 でも、少しだけわかる気もした。

 わたしは豆を倉庫に置いていた。

 クロードさんは、豆を食堂組合に売った。

 同じ豆なのに、売る相手と時間が変わっただけで値段が倍になった。


「それで、何を買うつもりなんですか」

「あれだ」


 クロードさんは、倉庫の奥を指差した。

 そこには、古い空樽が十二個ほど積まれている。

 父の代から残っているものだ。

 酒場に売ろうとして売れず、漬物屋に持ち込んでも断られ、今では完全に場所ふさぎになっている。


「あの空樽ですか?」

「全部押さえる」

「押さえるも何も、あれはうちの不良在庫です」

「なら都合がいい。隣の酒場裏にも空樽がある。南通りの宿屋にもある。全部買う」

「うちのお金で?」

「ああ」

「返済用のお金で?」

「ああ」

「さっき危険だと認めましたよね?」

「認めた」

「では、やめましょう!」

「やめたら増えない」


 わたしは深く息を吸った。


 落ち着くのだ。

 商会主として。

 この人はたぶん、普通ではない。

 普通ではない人に、普通の説得をしても効かない。


「理由を説明してください」

「夕方に上がる」

「何がですか」

「空樽の値段」

「なぜですか」

「小麦が止まった。祝宴の料理がパン中心から煮込み中心に変わる。食堂は仕込みを増やす。酒場は保存用の酒とスープを増やす。樽が要る」


 わたしは口を閉じた。


 理屈は、わかる。

 わかるけれど。


「でも、空樽ですよ?」

「だからいい」

「だから?」

「今は誰も欲しがっていない」


 クロードさんは、積まれた古樽を軽く叩いた。


「商品が悪いとは限らない。売る場所と時間を間違えているだけの場合もある」


 その言葉で、さっきの豆を思い出した。

 わたしが重荷だと思っていた豆を、この人は利益に変えた。

 同じことが、空樽でも起きるのだろうか。


「商会主」


 ロイが、隣で小さく言った。


「危ない橋です」

「わかっています」

「ですが、今のままでも危ないです」

「……それも、わかっています」


 ロイは反対している。

 でも、完全には止めない。

 たぶん、わたしと同じだ。


 危険だ。


 でも、危険でない選択肢はもうほとんど残っていない。

 わたしは帳簿を開いた。

 銀貨四枚。

 わたしの貯金を足せば、返済はできる。

 でも、そうしたところで、次の仕入れ資金はほとんど残らない。

 倉庫は守れる。

 商会は、守れないかもしれない。


「……銀貨三枚は多すぎます」

「では?」

「銀貨二枚までです」

「足りない」

「では、銀貨二枚と銅貨五十枚」

「足りない」

「なぜ交渉しているのに、そちらが動かないんですか!」

「必要な量がある」

「では、その必要な量を説明してください」

「空樽二十個」

「そんなに?」

「食堂組合だけで十個は欲しがる。酒場が六個。宿屋と劇場裏で残りを買う」

「全部売れる前提で話さないでください」

「売れ残るなら安く売るだけだ」


 安く売るだけ。

 それは、つまり失敗だ。


「失敗したら?」

「銀貨三枚が古樽になる」

「絶対に嫌です!」

「成功したら銀貨九枚以上になる」

「……九枚」


 その数字に、思わず黙った。


 銀貨九枚。

 返済しても、残る。

 馬車の修理代も出せる。

 次の仕入れ資金も残る。


 ベルカ商会が、本当に一息つける。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ