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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、市場を蹂躙するー  作者: 堀吉 蔵人


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第1話 売れ残りを買う男

初めまして!堀吉 蔵人と申します。

本作をご選択いただきまことにありがとうございます!

稚拙な物語かとは思いますが、楽しんでいただけると幸いです!

 ベルカ商会の倉庫には、豆が積まれていた。

 乾燥豆、三十二袋。

 袋の口はきちんと縛られている。湿気もない。虫も湧いていない。品としては悪くない。

 悪くないのに、売れない。

 理由は簡単だった。

 この街の人たちは、豆より白い小麦のパンが好きなのだ。


「……終わりました」


 わたしは倉庫の真ん中で、帳簿を抱えたままつぶやいた。

 父から継いだベルカ商会は、いまや立派な貧乏商会である。

 古い馬車が一台。従業員が二人。借金が銀貨十五枚。

 そして、売れ残りの豆が三十二袋。

 明日の夕方までに銀貨五枚を返せなければ、倉庫を差し押さえられる。


「商会主、豆を半値にしますか」


 番頭のロイが、申し訳なさそうに言った。


「もう半値です」

「では、その半値に」

「それはもう商売ではなく処分です」


 わたしは帳簿を閉じた。


 悔しかった。


 この豆は、北の農村から買ったものだ。雨で橋が落ち、村人たちが現金に困っていた。

 父ならきっと買った。

 だから、わたしも買った。

 でも、父なら売れたのだと思う。

 わたしには、売れなかった。


 その時、倉庫の入口で足音がした。


「この豆、全部でいくらだ」


 振り向くと、見知らぬ男が立っていた。

 旅装だった。年は二十歳を少し過ぎたくらい。剣はない。杖もない。大きな荷物も持っていない。

 ただ、目だけが妙に落ち着いていた。


「……全部、ですか?」

「ああ。三十二袋、全部」

「お客様。失礼ですが、豆商の方ですか?」

「違う」

「食堂の方?」

「違う」

「では、なぜこんなに」

「上がるから」


 わたしはロイと顔を見合わせた。


 上がる?

 豆が?

 この売れ残りが?


「お客様、この街では豆はあまり人気がありません。買っていただけるなら助かりますが、正直に申し上げると――」

「銀貨四枚」


 男はわたしの説明を途中で切った。


「全部で銀貨四枚。今すぐ払う」


 息が止まった。

 こちらの希望額は、銀貨三枚と銅貨五十枚だった。

 半値にしても買い手がつかないと思っていた。

 なのに、この男は銀貨四枚と言った。


「……本気ですか?」

「本気じゃない商談に金は出さない」

「でも、なぜ」

「聞きたいなら教える。売りたくないなら帰る」

「売ります!」


 思わず声が大きくなった。

 ロイが目を丸くしたが、仕方ない。

 明日までに銀貨五枚が必要なのだ。銀貨四枚は命綱だった。

 男は腰の革袋から銀貨を四枚出し、木箱の上に置いた。

 音が、やけに重く響いた。


「荷運びは?」

「うちで手配できます。ですが、三十二袋となると今日中には――」

「いや、いらない。すぐ買い手が来る」

「はい?」


 男は倉庫の外へ出ると、通りに向かって手を上げた。

 まるで、誰かを待っていたみたいに。

 それから半刻もしないうちに、街の食堂組合の荷馬車が三台やってきた。

 先頭にいた料理長は、顔を赤くして叫んだ。


「豆はあるか! 乾燥豆だ! 何袋でも買う!」


 わたしは固まった。

 ロイも固まった。

 男だけが、少しも驚いていなかった。


「三十二袋ある」

「全部もらう! いくらだ!」

「銀貨八枚」

「高い!」

「明日の朝なら銀貨十枚だ」

「くっ……! 積め!」


 料理長が部下に指示を飛ばす。

 わたしの目の前で、うちの豆が次々と荷馬車に積まれていった。

 うちの豆が。

 さっきまで、うちの倉庫で眠っていた豆が。


 銀貨八枚で。

 売れた。


 男は銀貨を受け取ると、そのうち一枚を指で弾いて確かめた。

 わたしは、ようやく声を出した。


「あの」

「ん?」

「今の、うちの豆ですよね」

「さっきまではな」

「さっきまではな、ではなく!」


 男は悪びれなかった。

 むしろ、少しだけ不思議そうに首をかしげた。


「君は売れない在庫を銀貨四枚にした。俺は買った豆を銀貨八枚にした。どちらも得をしただろ」

「理屈はそうですけど!」

「なら問題ない」

「問題あります! 気持ちの問題が!」


 ロイが横で小さくうなずいていた。

 ロイ、うなずくだけではなく何か言ってほしい。


 わたしは男に詰め寄った。


「なぜ、食堂組合が豆を欲しがるとわかったんですか」

「小麦が止まったから」

「小麦?」

「西門の粉挽き場に、小麦の馬車が一台も入っていなかった。なのに、広場では明日の王立劇場の祝宴準備をしていた。パンが足りない。なら、煮込み料理でかさを増す。豆が要る」


 男は淡々と言った。

 まるで、今日の天気を話すみたいに。


「それだけ、ですか?」

「それだけだ」

「それだけで、銀貨四枚分の豆を買ったんですか?」

「四枚で八枚になるなら買うだろ」

「普通はなりません!」

「今回はなった」


 頭が痛くなってきた。

 でも、わたしの胸は変に熱くなっていた。

 この人は、同じ豆を見ていた。

 わたしが「売れ残り」だと思った豆を、この人は「上がる商品」だと見た。

 品が悪かったわけじゃない。

 売る場所と、売る時間を間違えていただけ。

 そう思ったら、悔しさと一緒に、別の感情が湧いてきた。


 逃がしてはいけない。


 この人を、このまま市場の向こうへ行かせてはいけない。


「あの!」


 男が歩き出そうとしたので、わたしは慌てて呼び止めた。


「あなた、お名前は?」

「クロード」

「クロードさん。うちに来ませんか」

「もう来てる」

「そういう意味ではなく! ベルカ商会で働きませんか」

「働く気はない」


「即答!?」


 わたしは思わず叫んだ。

 男――クロードさんは、平然としている。


「商会に雇われるのは面倒だ」

「では、相談役で」

「面倒だ」

「臨時顧問!」

「もっと面倒そうだ」

「昼食付きです!」


 クロードさんの足が止まった。

 止まった。

 今、止まった。


「昼食?」


「はい。昼食付きです。あと、利益が出たら報酬も払います」


「利益の三割」

「二割で!」

「昼食付きなら二割でいい」

「そこは下がるんですか!?」


 ロイが後ろで小さく拍手した。

 やめてほしい。まだ契約はまとまっていない。

 けれど、これで少しは安心できるかもしれない。

 豆は売れた。

 銀貨四枚が手元にある。

 足りない分は、わたしの小さな貯金を崩せばなんとかなる。

 少なくとも、明日の差し押さえは避けられる。

 そう思った時だった。

 クロードさんは、空になった倉庫を見回して、当然のように言った。


「銀貨四枚、使えるな」

「……使える、とは?」


「次の仕入れだ」


 わたしは、初めてこの人を雇ったことを少しだけ後悔した。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️評価など頂けるととても嬉しいです。

作者のモチベーションに直結しております


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