天文学的確率が起こった。
「またあそぼーぜ。」
「ええ。絶対よ!」
しまった。口が滑って、要らぬ約束を。
(まあ、いいか。どうせ口約束だ。)
今はただ、この状況を楽しんでいたい。
日も暮れ、辺りが暗くなってきた。街の灯りで明るいとはいえ、子供だけで過ごすのはやはり危険だ。
「よし、そろそろお開きにするか。」
「ええ。めいっぱい遊んで疲れたわ。」
彼女の手の震えは治っていた。いい気晴らしになったようだ。
「あ、お前家帰れるか?」
「うん。なんとなくだけど、方向はわかったわ。」
「おう、それは良かった。途中まで送ってやるよ。」
「ありがと。」
(結局、最後まで付き合っちまったなぁ…けど、楽しかったからいいか。)
しばらく歩き、見回り中の憲兵を見つけた。誰かを探しているようだった。おそらく、貴族令嬢のシアのことだろう。
(こいつ…本当に家出してきたんだな。このまま一緒に行くと、誘拐罪で即死刑だな。)
「多分、あいつお前のこと探してるっぽいし、事情話したらすぐ帰れるだろ。」
「そうね。」
近くの物陰で別れることにした。
(なんとか、面倒事は起きずに済みそうだな。)
どっと肩の力が抜ける。
今日は散々な1日だったが、怪我もせず無事だ。首も繋がっている。
きっと数年後には、良い思い出話になってるだろう。
「じゃあな、楽しかったぜ。気をつけて帰れよ。」
「私もよ!あなたも気をつけて帰ってね。」
「じゃあ、また1ヶ月後に行くわね!」
ん??
「え?いや、ちょ、」
「あの肉串のお店で待ち合わせよ!」
そう言って彼女は走り去ってしまった。最後に爆弾発言を残して。
追いかけて無理だと叫びたかったが、先に憲兵へ行ってしまった。
(うそ、だろ……?)
一瞬、憲兵の一人がこちらを見た気がした。
値踏みするような、冷たい視線だった。
「っていう夢を見たんだ。」
「ねえ、カルロそれ現実。」
ありえないことを、と前に座る親友を見る。自分の数少ない、というか、唯一の友人だ。
「いやいや、1日に何度も死にかけ、お貴族サマと仲良くなった?ないな。」
どんな天文学的確率だよ。非現実的すぎる。
「でも服ボロボロじゃんか、しかも肉のいい匂いもするし。いい加減認めなよ。」
そんな非現実的なことが起こったらしい。
「……終わった。」
「っく、くはっ」
この話がツボに入ったらしい。人の不幸話を笑いやがって。
一通り笑い転げたあと、目に涙を浮かべながら聞いてきた。
「あー、で、そのお貴族サマとの約束?どうするの?」
「…行くつもりだよ。」
「えー、無視したらいいじゃん。」
「不本意だが、心配だからな。」
「へぇ、やっぱカルロは世話焼きだねぇ。」
「うるせ。」
親友でもあり幼馴染である彼…エルネは性格が悪いが根はいい奴だった。母が出ていき、友人からハブられるようになった時も、彼は俺を嘲笑ったり野次を投げたりはしなかった。…助けもしなかったが。
「ま、いい時間だし帰って飯でも作るわ。話聞いてくれて、ありがとな。」
「いいよ、むしろこっちがありがとうって感じ。ふはっ」
「黙れ。」
今だに笑い転げているエルネを置いて、帰路についた。
「あら?カルロ君、もう帰るのかい?」
「エルネおばさん!父も待っているので。」
「そうかい、偉いね。最近、治安が悪いから早く帰りな。」
「はーい。」
1ヶ月後、カルロは悩んでいた。
改めて考えると、二度も貴族に会って良いのかだろうか。
でも、平民ごときが貴族との約束を破る訳にも行かない。
それに自分が行かないとまた変な輩に絡まれそうだ。
大人しく行くことにした。
店の前に着くと呼び止められた。
「あ、カルロー!!」
「待たせたか?」
「ううん。特には。」
(すげえ、馴染んでる…)
待ち合わせ場所に着くと、平民の少年の格好をしたシアがいた。小綺麗ではあるものの、街を歩けば溶け込めそうな姿だった。
「シア、その服って」
「そう!平民の子供と同じような物を用意したんだ。
どう?これなら浮かないでしょ。」
「ああ。めちゃくちゃ馴染んでる。すげえな…」
“貴族”と書いて歩いているような彼女が、今はただの少年に見えた。
(…お貴族様は本当に俺らを簡単に殺す存在なのか?
もしかしたら、こいつは違うのか。)
「早く肉串食べましょう!」
「あ、ああ。」
(まあ、今はこいつに付き合ってやろう。)
「そういえば、お金は持ってるのか?」
「もちろん!持ってきたわ。」
自信満々の彼女の手に握られていたのは“金貨”だった。
思わず、そっと天を見上げた。
金貨1枚は平民の年収1年分に相当すること。
屋台で出しても使えないこと。
それらをどうやって説明するか頭を抱えた。
カルロ父「…なんか、今日の晩飯は質素だな。」
カルロ「い、いや?いつもこれくらいだけど。」
シアは家から抜け出して、1人で待ち合わせ場所に行きました。
服や金貨は拾ったり、お小遣いだったりから…意外とたくましいシアちゃん




