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「今日、ツキ様はいらっしゃらないのですか?」
ヘローは僕の肩を見る。
「はい。今は上の方で休んでますね」
僕は自然と速足にある足をなるべく抑えて、横並びになりながら話す。
蜘蛛には待機する場所はない。というか、明らかに屋台の数が多すぎる。
「すごい、圧巻ですね」
この光景は彼らにとっても珍しいもののようで、隣から息を吸う音が聞こえた。
「ツキはこの先の小屋に居ます」
僕は開店準備中の屋台の間を抜けて、小屋まで向かう。小屋の中に入ると、とぐろを巻いたツキ、そのそばに寄り添うフウロに加え、一人の子供が座っていた。
白いフードを深く被り、顔は見えないがその服装には見覚えがあった。
「やぁ、おかえりなさい」
「君は、アバロンの」
「久しぶりだね、プレゼントがしっかり役に立ったみたいで良かったよ」
その子供は、僕の近くに歩みを進める。僕は色々な人に招待を送ったが、その子供には送っていなかった。
流石、情報の国というべきだろうか。
「お祭り、楽しみにしてるね」
フードの下から見える口元がふっと笑った。
「ツキは?」
「また眠っちゃった。ねぇ、さっきの子は?」
「アバロンで出会った子だよ。多分結構えらい?」
「アバロン。あの国ですか」
「フォンさん、知ってるの?」
「えぇ、元天使ですから。地上の事は大体。私が見たときは、相当腐っていましたが、あの子を見る感じ、改善されたんですかね」
「そうなの?」
「えぇ。あのフードは王にのみ着用が許される、完全隠ぺいのものなので」
「え、そんなえらいの?」
受付の人の反応から、多少はえらいと思っていたが、まさか王族だったなんて。
「僕、変な対応してなかったよね?」
「えぇ、大丈夫でしたよ」
「さて、ツキ様も今は挨拶出来なそうですし、私たちは時間までそこら辺を散策してきますね」
「あ、分かりました。案内とかは」
「いえ。タイヨウ様はツキ様と一緒に居てくだされ」
ヘローはそう言って、フォンさんと共に小屋を後にした。
祭りの開始まではあと数時間。完全に手が空いた僕は、フウロと共に、シンと静まり返った小屋の中で座っていた。




