第50話
扉を開けながら口を開くアリアナ。
「誰かし──」
口と同時に扉がバタンと閉められた。
俺はそんな扉をアリアナの後ろからゆっくりと開けた。
「ッ、な、なんで開けるのよ!」
「先程アリアナ様ご自身が私に扉を開けなさいと言ってきていたではないですか」
「さ、さっきと今じゃ状況が違うでしょ!」
「……あの、一応私が目の前にいるんですけど」
アリアナにおずおずとした様子でゆっくりと笑みを浮かべながらそう言う来客者……花女。相変わらずこいつの名前は思い出せない。
「……ふんっ。私たちに負けた負け犬がなんの用よ」
噛み付くようにアリアナ犬が吠える。
「アリアナ様は使い魔を召喚できない負け犬ですよね」
つい口を挟んでしまう。
「も、もう〜〜〜! あんたは一体どっちの味方なのよ!」
「もちろん、アリアナ様ですよ。むしろそれ以外の可能性など考える余地すら無いでしょう」
「な、なら、余計な口を挟むんじゃないわよ!」
「…………私、今なら凄くアリアナ様の気持ちが分かります」
「あんたなんかに分かられたって嬉しくないわよ!」
ニコニコと笑顔を崩さない花女。
……この構図だけを見れば、花女が子供の癇癪を微笑ましそうに見ているお姉さんにしか見えない。
「……それで、なんの用よ。くだらない用件だったら許さないわよ。私たち、忙しいんだから」
「いえ、アリアナ様にご用件は残念ながらないんですよ。その、私は一応そちらの方……悪魔に用がありまして」
「……は?」
「おや、私ですか?」
「……は?」
「では、アリアナ様はお出かけになる準備を進めておいてください。私に用があるとのことなので、当然、私が対応させていただきますので」
「……は?」
「モテる男というものは辛いですね」
最後にアリアナの耳元で花女には聞こえないようにボソッとそう言ってから、俺はアリアナの横をスーッと抜け、外に出て扉を閉めた。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そこでそんな絶叫が聞こえてくると同時に、扉がガチャガチャとされるが……さり気なく俺が取っ手を掴んでいるから、当然扉が開くことは無い。
「……あなた、本当にいい趣味していますわね」
「ありがとうございます」
花女に負けないニコニコ顔で答える。
「……まぁいいですわ。心の底からアリアナ様に同情致しますが、いいですわ。さっさと用件を済ませてしまいましょう。……これをどうぞ」
そう言って花女は持っていた……菓子折り? を手渡してきた。
「昨日、助けて頂いたお礼です。……お腹はまだ痛いですけどね」
「まだトイレに行っていなかったのですか?」
「ッ〜……まぁ、いいです。それより、もうお礼はしたので、私は帰りますわ。では、御機嫌よう」
優雅さを醸し出しながら、帰っていく花女。
背中の扉からはまだ開けようとしている気配が伝わってきていた。
「ちょっと! ラスト! ラスト! いるんでしょ! 何やってるのよ! 開けなさいよ! へ、変なことしてるんじゃないでしょうね! あ、あんたは私の使い魔なんだから、わ、わ、わ、私以外に、へ、変なことしてたら、ゆ、許さないんだから!!!」
なんなら、そんな声まで出してきていた。
取り敢えず、この菓子折り、どうしようかな。
まずは中身を確認しておくか。
毒が入ってる可能性もあるしな。
俺に効果があるとは思えないけど。
そして、中身を確認したところ……中身はクッキーだった。
毒はおろか、変なものが入っている様子は一切無かった。
なら、素直に有難く後で食べさせてもらうか。
アリアナにも分けてやろう。
ただ、その前に……空間属性の魔法を使い、俺は菓子折を仕舞った。
アリアナを勘違いさせておく方が面白そうだしな。
「ッ〜! や、やっと開いた!」
取っ手から手を離すと同時に扉が開き、パァッとした笑顔を浮かべたアリアナと目が合った。
その瞬間、笑顔が無くなり、一気に怒ったような……それでいてどこか不安そうな顔で俺を見つめてきた。
「あ、あいつはどこに行ったのよ」
「もう用件は済んだようで、帰っていきましたよ。それより、アリアナ様も準備は終わったのですか?」
「あ、当たり前でしょ! ……そ、それより、あいつの用件ってなんだったのよ」
「それは……ふふっ。アリアナ様には関係の無いことですよ。気にしないでください」
花女はアリアナを殺しに来たであろう奴らから助けた礼をしに来たんだから、関係がないわけが無いが、俺は分かりやすく自分の唇に意識を向け、そう言ってやった。
「……は、は、は、はぁぁぁ!? そ、ぁ、は? ぇ……?」
そんなわけが無いんだが、アリアナは動揺で判断能力が鈍っているのか、元からなのか、勝手に変な勘違いをして何か焦っている様子だった。
「わ、わた、わた、私……は? ぁぇあぅ?」
幼児退行化でもしたのか?
「準備が出来たのなら、行きましょうか」
「…………ぅ、ん。……行く、行く、わよ。……別に私、あんたが誰と何をしていようが、ど、どうでもいいし。……どうでも、いいもん」
俯きながら小さくそう言うアリアナ。
ほんと、面白いなぁ。
てかこいつ、この反応……まぁいいか。面白いし。




