第46話
「……生きてたんですの」
いきなり失礼な奴だな。
「まるで死んでいて欲しかったかのような口ぶりですね」
「……お腹が痛いのですけど」
「わざわざそんなことを仰らずとも、トイレに行きたいのでしたら、お好きにどうぞ。その方への説明は私が変わってあげますから」
「……今、初めて私はあの方に心の底から同情致しましたわ。今ならお友達になれるような気さえしてきます」
そりゃ相当だな。
まぁ、それはそれで面白そうだから、俺は応援するぞ?
「悪いんだけど、そろそろ何があったかの詳しい説明してくれないかな? そこに転がっている人たちを見れば君が言っていたことが嘘じゃないことは想像に容易いけれど、詳しいことを学園長にも早いところ伝えなくちゃだからさ」
俺は「どうぞ」という意思を込め、頭を下げ1歩下がった。
俺より前にこの場にいた花女の方が説明しやすいだろうしな。
ぶっちゃけ俺はそんなに状況を知ってるわけじゃないし。
「……えぇ、説明致しますわよ」
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何故か渋々な様子だった花女の説明が終わる。
ただ、どこまでが本当かは微妙なところだ。
特にアリアナを狙ってると思って守るために誰かが来てくれるまで足止めをしてた、とかいうところが怪しい。
まぁ、俺としては別にどっちでもいいんだけどさ。
仮に予測をするのなら、いきなり不審者が現れたことにでもビビって腰を抜かして逃げられなくなってしまったから、仕方なく戦っていた、とかそんなところだろう。
「……チェントラッキオさんの使い魔の悪魔が1人で居ることは本来なら問題なんだけど……今回は不法侵入者を出してしまった学園のミスであることは間違いの無い事実。それに加え、フラワタさんを助けてくれたことも事実だから、当然特例ということでその件については不問とさせてもらうんだけど……フラワタさんが見たという頭が3つあった悪魔に関しては別だよね。何か心当たりはないかな? 同じ悪魔としてさ」
「残念ながら、私はあまり悪魔と交流があった訳では無いので、心当たりは全くありませんね」
……まぁ、そりゃ見られてるよな。
学園が休みなんてことにならなかったらいいんだがな。……やっぱり、こういう所も含めてソールにしておくべきだったか。
「んー、そっか。……はぁ、取り敢えず、学園長に伝える前に人を呼んで……あぁ、後は僕が……僕たちが片付けておくから、君たちはもう部屋に戻ってくれていいよ。後でキチンとした謝罪が学園側からされるんじゃないかな?」
「ありがとうございます」
「では、お言葉に甘えて、私も戻らせていただきましょう。緊急事態だったみたいなので私は今ここに居ますが、本来はアリアナ様より外に出るなと言われておりますので」
「……? 命令されているのですか? だとしたら何故──」
「あぁ、いえ。アリアナ様は少し……いえ、かなりのお馬鹿さんですからね。命令として部屋にいるように命じられたのは最初の1日目だけであり、今日は特に何も命令などされていないのですよ。部屋にいるようには言われていますが、命令では無かったので、私はこうして外に出られたわけですね。本人としては命令したつもりなのかもしれませんが」
言い訳はちゃんと用意してある。
だからこその言葉だ。
命令が効かないということをこんなくだらない事でアリアナにバラす訳にはいかないからな。
バラすならもっと面白いところじゃないと。
そんな面白い場面があるかは分からないけどさ。
「……」
「おや? その目はなんでしょうか? まさか私のおかげで今のあなたがある、ということをもうお忘れで?」
「……本当に、アリアナ様に同情致しますわ」
「ふふっ。私という素晴らしい悪魔が使い魔となっているアリアナ様に同情とは……随分と目が曇っているお様子。もしや今日の試合で頭だけでなく、目までもを悪くしてしまったのでしょうか?」
「……私は賢い方ですよ。では、貴方と話をしていたら無限に時間が無くなってしまいそうなので、私はこの辺りで失礼致しますね」
……アリアナなら面白いくらいに反応してくれただろうに……花女は命の危険がある時じゃないと面白くないタイプなのかね。
いや、これはこれで面白いか? 表情はニコニコ顔だったけど、内心の苛立っている感情が割と透けてたし。
ま、仕方ない。今日は本当に大人しく寮に……アリアナの部屋に戻るか。
案の定と言うべきか、アリアナはグースカピーと布団をきっちりと被る……というか、布団に潜り込みながら眠っていた。
呑気なやつ。
一応狙われてたのはアリアナだっていうのに。
俺の魔法のせいもあるんだろうが……にしてもじゃないか? そんなに強く掛けては無いんだけどな。
「……」
まぁいい。それよりも、ケルベロスが眠れるってことは、実は俺も眠れたりするのかね。
昔無理だったことは検証済みだが……俺に無理なことを俺から生まれているはずの悪魔に出来るとは考えにくい。
普通の子供なら、そりゃ親より優秀になることはあるだろうが……別にあいつらは俺の子供って訳じゃないし、理論的に考えてありえない。
つまり、俺も寝ようと思えば寝られるはず。
……どうせ暇だし、もう一度試してみるか。
そう思い、アリアナの体を奥へと押し出し、俺もベッドの中に潜り込んだ。
アリアナの服でも脱がして、明日反応でも楽しんでやろうかな。
体を好きにしていいという契約な以上──
「……んぅ……ラストぉ……ばかぁ……」
──問題は無いんだが、成長してからでもいいか。
ベッドに侵入した俺に無邪気に小さい体で抱きついてくるアリアナを見て、昔飼ってたペットの犬を思い出してしまった俺はそう思い、目を閉じた。




