第40話
Side:ケルベロス
眠っていた。
あのお方より名前を頂いて以来(まだ数時間しか経っていないが)俺は悪魔に喧嘩を売られることが1人を除いて無くなったから、睡眠をとっていた。
同族と殺し合いをすることももちろん好きだが、眠ることも嫌いでは無いから。
そして、次の瞬間には、視界が切り替わっていた。
現世の生物に呼び出された……とは考えない。
そもそも、俺は門をくぐっていないのだから。
ただ、3つある頭全てをフルに回転させ、考える。
こんなことを出来るのが誰かということを。
「ッッッ!?」
それを理解した瞬間、全ての頭を下げ、目の前の存在に頭を垂れた。
その目であのお方をまだ見たわけではない。
ただ、こんなことを出来るお方は、1人しかいないのだから、当然の行為だ。
「なんだ? 寝てたのか?」
あのお方の声が聞こえてくる。
やっぱり、俺の行動は正しかった。
そのことを心の底から安堵しながら、我らが創造主の質問を答えた。
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我らの創造主が人間の小娘を俺に任せ、立ち去っていってしまった。
その事を理解しながらも、俺の頭は3つ共全て上がらなかった。
そこから更に少しして、俺はやっと頭を上げる。
あのお方が居ないことに安堵の息を吐き、改めて起こさないようにゆっくりとあのお方に任された小娘の姿を確認する。
……どう見ても、ただの人間の小娘にしか見えない。
……何故あのお方がこんな小娘のことを……い、いや、下手な詮索はやめよう。
身を滅ぼすことになるだけだ。
俺はただ、あのお方の命令に従うことだけを考えればいい。
その場の床に座り込み、目を閉じる。
当たり前だが、眠るわけではない。……もしもあの小娘に何かがあれば、俺の存在が終わることは目に見えているんだから、当然だ。
……いや、悪魔故に本当の意味で存在が終わることが無い以上、もっと悲惨なことになる。……絶対に守らなければ。
時間が経つ。
特に違和感は感じられない。
殺し合うことは好きだ。
ただ、今だけはこのまま何事もなく、時が過ぎ去って欲しかった。
更に時間が経った。
毛の先端がピリピリとする感覚を覚える。
……殺意か。……はぁ、最悪だ。
俺は嫌な気分になりつつ、ゆっくりとその場から立ち上がった。
属性魔法……は使えないな。
俺の属性魔法は周りを巻き込むし、小娘への被害が出ないようにすることくらいは当然できるが、音で小娘が目を覚ましてしまうかもしれない。
だからこそ……肉体だけで静かに敵対者を排除しなくてはならなかった。
……少し……いや、かなり癪だが、あのイカれ野郎……ソールに感謝だな。
あいつが無理やり「神により名を頂いた。そういう意味では、私とあなたは同格なのですよ。だというのに、あなたは弱すぎる。それはあまりにも、神に対して失礼です。なので、私があなたを鍛えてあげましょう」とか言って何度も殺してきやがった経験が早くも役に立つ時が来たのかもな。
気配を消し、他に敵対者の気配が無いかを何度も何度も確認をしてから、ゆっくりと部屋を出る。
そしてそのまま、敵対者の方に歩みを進めた。
相手は3人……問題ないな。
ただ──
「貴様ら、今なら見逃してやる。消えろ」
俺はそう言った。
あのお方より命令されたことはあの小娘を今、あのお方が帰るまで守ることであり、未来のことまでは命令されていないのだから、リスクを避けようとするのは当然だ。
属性魔法を縛っている以上、勝つことは簡単だろうが、全員を不意打ちで終わらせることなんて俺には残念なことに不可能だったからな。
「「「……」」」
誰も何も言ってこない。
さて、この反応はどっちだ……?
「……対象は悪魔を召喚していると聞く。作戦2で行く」
チッ。
大人しく引いてくれれば良いものを。
それより、悪魔がいることを相手は事前に知ってたのか。
……恐らく……いや、ほぼ確実にその悪魔は文字通り俺とは格が違う悪魔なんだろうが……こいつらがそのことに気がついている訳がないか。
もしもあのお方の力を知っていたのなら、喧嘩なんて売るはずがない。
死ぬことはあっても、直ぐに復活を果たす俺たち悪魔ですらそう判断するんだからな。復活のできない現世の生物たちがあのお方に喧嘩など……何度考えようが、ありえないな。
それより今の言葉、悪魔に対する対策を何か取っている、ということか。
昨日の件を除き、俺が最後に現世に召喚されたのは約800年程前だったはず。
確かその時はこの世界で権力のある貴族とかいう奴らが持っている使い魔という生物がとんでもない力を持っていたが……まさか、こいつらが持っているのか?
どう見ても貴族には見えないが……万が一は有り得る。……もしも800年前に俺を殺し、悪魔の世界に強制送還させてきた使い魔と同等の力を持っているのであれば……厄介だ。
もう負ける気は無いが……今の俺の最終的な目的は勝つことではなく、あの小娘を起こさずに守ること。
……静かに終わらせられる自信が無い。
チッ。
考えても仕方ない!
一刻も早く、作戦なんてものを実行させる暇もなく……殺す! ただ、それだけだ!
頭が3つある分、思考が早くて助かったな。
まだ相手は何も行動していない。
それを理解してから、俺は地面を強く蹴った。




