第34話
目ん玉使い魔と一緒に花女は目を回して倒れているが……老婆教師から勝負ありの声は無い。
つまり、まだ勝負は終わってないってことだろう。
口角が上がりそうになるのを我慢して、俺は倒れている花女の頭……は死にそうだから、腹を軽く蹴り上げた。
「ッ、な、何をしているのですか!? ミス・チェントラッキオ! あなたの悪魔でしょう! 早くとめてください!」
俺は慌てている老婆教師を無視して、倒れている花女にもう一度蹴りを食らわせてやった。
まだ勝負ありの声が無いんだから、当たり前だ。
アリアナだって流石にそれを理解してるのか、何も言ってこないし。
「酷いですね。ご自分がまだ決着が着いたと明言しなかったからこそ起きた出来事だと言うのに……よりにもよってアリアナ様のせいにしようとするとは」
「ッ、勝負あり! この試合……ミス・チェントラッキオの勝利です!」
忌々しそうに俺を睨んできつつも、老婆教師はそう宣言していた。
あーあ。もう1発蹴ってやるつもりだったのに……雰囲気から察されたかね。
まぁいいけど。
「ラストっ!」
ちゃんと勝ってたわけだし、アリアナを褒めてやろうとでも思ったところで、アリアナが俺に向かって飛びついてきていた。
受け止めてやるか避けるかを少し考えて……俺はアリアナの体を避けた。
怪我をしないように、ちゃんと防御魔法を体に掛けてやりながら。
俺が避けたことでアリアナは地面とキスをしていた。防御魔法を体に張ってあるから、汚くは無い。その証拠に、怪我もなければ、汚れだってアリアナの体には一切ついてないんだから。
「な、なんで避けるのよ!」
そしてそのまま、顔だけを上げ、羞恥心と怒りが混ざったかのような顔をしながら、そう言ってきた。
「くっ……」
笑いそうなのを何とか口を抑え、我慢する。
「申し訳ありません。つい」
「な、何がついよ! …………せ、せっかく、す、少しくらいなら、さ、触るのを許可してあげようと思ったのに……」
ボソボソとそんなことを言ってくるアリアナ。
「アリアナ様。どうでも良いのですが……せっかく勝ったというのに、結局恥を晒していますよ。立たないのですか?」
俺は敢えて聞こえていないフリをして、そう言った。
「ッ〜〜〜、だ、誰のせいだと……!」
地面を叩くアリアナ。
面白いなぁ。
……とはいえ、これは割と本気でちょっと拗ねそうになってる気配を感じるから、起こしてやるか。
「どうぞ」
手を差し出してやる。
アリアナのことだから、仕返しとして俺の手を掴まずに1人で立ち上がってくる可能性も考えたんだけど……普通に俺の手を掴んできたから、そのまま軽く引っ張って立ち上がらせてやった。
「い、色々言いたいことはあるけれど……わ、私たち、勝ったのよ!」
「えぇ、あの方も、アリアナ様に負けてしまうとは……一生の恥ですね」
「も、もう〜〜〜! な、なんで素直に一緒に喜んでくれないのよ! このばか悪魔! も、もういいわよ! ふんっ!」
腕を組み、ぷいっ、と顔を俺から逸らしてくるアリアナ。
とはいえ、チラチラと視線を俺によこしてきてるのが丸分かりだった。
……こいつ、本当に面白いな。
気がつかないフリでもしておくか。
「ミミンっ!」
そうして、老婆教師が慌てた様子で回復魔法を使える者を呼びに行く様子を「試合をさせるんだから、事前に用意しとけよ」なんて思いながら眺めていると、青髪の男が生徒たちの中から出てきたかと思うと、花女のことを抱きしめるようにして、心配をしている様子だった。
そこまでは良いんだが、何故かアリアナを……というか、俺のことをキッ、と睨みつけてきやがった。
「お前っ! なんでっ! なんでっ! 勝負はもうついていただろ! なんであんな真似をした!」
「……?」
俺は首を傾げた。
馬鹿にする意図が無かったのか? と聞かれると首を横に振らざるを得ないが、本当に意味が分からなかったから。
だって、それはさっき説明したはずだろ?
「……なるほど。世の中下には下が存在する、という訳ですか」
「……なんで、私を見るのかしら?」
アリアナが唇をピクピクと痙攣させながら、そう聞いてくる。
「ご自分の胸にでもお聞きになってください」
「…………ふ、ふふ」
残念。
アリアナは怒りを抑えたようだった。
仕方ない。目の前の青髪の相手でもしてやるか。
アリアナと遊ぶ方が楽しいんだけど……向こうが俺と遊んでほしそうだし……仕方ないな。




