第35話
仕方ない。
青髪と遊んでやるか、と思ったところで──
「そ、そうよ! あ、あんなの! や、やりすぎだわ!」
「そ、そうだ! 悪魔だからってふざけんな!」
──そんな低俗な声が何人かから聞こえてきた。
……学園ってのは貴族しか居ないんじゃないのかね。
まぁ、今声を上げてきたのは、家格が下な奴らばっかりなんだろうな。
やれやれ、という仕草をわざとらしくしてやりながら、俺は口を開いた。
「はぁ。1度で理解できないとんでもなく理解力の無い貴女方にもう1度説明をしてあげたところで、理解ができるのかは分かりませんが、仕方が無いので、もう1度だけ言ってあげますね? 正直、説明という程のことでもないのですがね」
言ってみれば、二言で終わるようなものだしな。
老婆教師が勝負ありの声を挙げなかった。だから俺は試合が終わってないと思って蹴った。……ほら? 二言で終わる。
「なんであんな真似をしたのか? でしたね。まず、貴方は勝負はもうついていただろう、と言っていますが、残念ながらあの時点で勝負はついておりませんでした。私だって本当は無抵抗な少女を蹴り上げるなど……したくなかったのですよ」
目元を押え、泣き真似をしながら、そう言う。
「っ、そんなわけが無いだろう!!!」
「ふむ。それはどちらに対してでしょうか? 私が無抵抗な少女を蹴り上げたくなど無かった、という話に対してでしょうか? それとも、勝負がついていなかった、という部分に対してでしょうか?」
「そんなの──」
「あぁ、言わなくても分かりますよ。まさか勝負がついていなかった、という部分に対して言ってきているわけが無いので、恐らくは前者に対してなのでしょう。酷いですね。いくら私が悪魔といえど……おや? そのお顔は……ま、まさかとは思いますが、こ、後者に対して言っていたのでしょうか? そ、そんな馬鹿な……それほどまでの馬鹿が存在しているなど……あ、有り得るのでしょうか!? も、もしや貴方は、ゴブリンの特殊個体か何かなのでは無いでしょうか? ……それならばその馬鹿さ加減も納得が出来ます。いえ、そうなのでしょう。そうじゃなければ、有り得ていい話ではありません。大丈夫ですよ。今なら、私とあなただけの秘密に致しますので、どうぞ正直にお答えください」
明らかにゴブリンだろ、という見た目の生物がこの世界にいることは悪魔の世界から昔に確認済みだが、名前がゴブリンなのかまでは知らない。……ただ、まぁ、多分馬鹿にしてることは伝わっただろ。
実際、青髪は花女を抱きしめるようにしながら、顔を真っ赤にして、羞恥心を抱きながら俺を睨みつけて怒ってるみたいだし。
……男にそんな表情されても気持ち悪いだけだがな。面白いとは思うが……やっぱり俺はアリアナの方がいい。
アリアナなら、涙を滲ませながら地団駄を踏みつつ、同じ表情をしてくれそうだし。
……想像するだけで面白いな。
「き、き、き、貴様! 俺のことを馬鹿にするのも大概にしろ!」
あら。お前から貴様に進化しちゃったよ。
「そ、そんな、滅相もありません。確かに、貴方が人間でその程度の知能レベルなのなら、馬鹿にしていたことは間違いのない事実でしょうが、人間ではなく、ゴブリンなのでしょう? むしろ私は凄いと思っていますよ。人間の世界で生きるのはいくら特殊個体とはいえ、ゴブリンにはお辛いでしょうから」
「ッッッ〜〜〜!」
「はぁ。私が説明してあげるわよ。ばか悪──ラストはちょっと黙ってなさい。あんたが喋るとややこしくなるわ」
面倒くさそうな声色の割には、アリアナの口角が上がってる気がするけど、気の所為かね?
「ラストが言っている通り、あの時点じゃ勝負はついてなかったわ。実際、審判しているルーナリア先生からは何の言葉も無かったでしょ。……お門違いな文句で私の使い魔にふざけた絡み方をするのはやめなさい。これは命令よ」
「ッ……」
「恨むのなら、ルーナリア先生の方を恨むべきね。行くわよ、ラスト」
? まだ俺たち以外の試合があるはずだが……まぁいいか。
俺は何事も初見で楽しみたいタイプだしな。
戦う時に相手の使い魔の使い魔特性を知ってたら、楽しさ半減だ。
「仰せのままに、お嬢様」
恭しく一礼をし、とてもさっきまで地面とキスをしていたとは思えない高貴な雰囲気を醸し出しているアリアナの後を追った。
背後からは確かな悪意を感じた。




