01. 春の嵐は突然に!
★ 2025年6月投稿作品ですが、大幅に修正&話数変更しました。
(2026年7/29改稿投稿)
※ ざまあ作品シリーズ第三弾です。
※ 今回のヒロインはドアマット令嬢です。
※ プロローグはドアマットヒロインの虐げられた生活からスタートします。
※ 物語の中盤からヒロインが覚醒します。
※ 暴力的なシーンも少しあります。
※ 継母親子がザマアされて、ラストはおきまりのハッピーエンドです。
◇ ◇ ◇ ◇
ジリジリと照りつく暑い真夏の午後──。
ここは王都にあるベルチェ子爵邸。
「フロル、そこがすんだら農園にいって西瓜を採ってくんだよ!」
「はい、お義母様。」
「フロル、なるべく音が良くて大きいものを採ってくるのよ。」
「はい、お義姉さま」
フロルと言われた娘は、はしばみ色の虚ろな目で直ぐに返事をした。
何かとキツい継母と意地悪い義姉に指示されて、フロルは屋敷の裏口から、重い台車を持ちだして庭へ出た。
そのみじめな姿。
何年も命令され、なんでもいいなりに働く女中のようだった。
だが──この古びたメイド服を着たみすぼらしい娘こそ、この春まで子爵邸の一人娘だった、フローラ・ベルチェ子爵令嬢だった。
フローラとは“花と春の女神の如く”と、父親が名付けた美しい名前だった。
愛称は“フロル”という。
しかし彼女の現在の姿を見ると、その美しい名は見る影もない。
あれほど煌めいていた、はしばみ色の眼は膜がかかったように輝きを失っていた。
ふっくらとしていた糖蜜色の頬はすっかりと痩せこけている。
手足もガリガリに痩せていて、美しい銀色の長い髪もパサつき無造作に結っていた。
何故一人娘の子爵令嬢が、女中のようにこき使われているのか。
それはフロルの父親、ジョージ子爵がこの春から行方不明になったせいだ。
◇ ◇
フロルが『一人娘だった』と過去形なのは、現在ベルチェ家の屋敷にはフロルの他に、二人の子供が居住していたから。
一人は義兄のヤコブ。
もう一人は義姉のラーラ。
そして二人の実母ジャンヌ。
そう、フロルの継母である。
この義理母と義理兄姉は、まるで吹き荒れる春の嵐のように、突如としてベルチェ家の屋敷に現れた。
初めてジャンヌを見た時のフロルの第一印象はというと。
──少し薹が立っているけれど、顔立ちは派手めの美人。
だがそれ以上にフロルが、ゾッと全身で身震いした理由は、蛇のようにぬめりつく、妖しげな黒い瞳がとにかく恐ろしかった。
一言でいうとジャンヌは、貴婦人とは真逆な品性の無い毒々しい女を漂わせていた。
◇ ◇
「ジョージ、久しぶり、後ろにいるのは私の子供達よ。息子のヤコブは貴方の子供です。とても大きくなったでしょう!」
と来るやいなや、ジャンヌは爆弾を吐いた。
それも屋敷のエントランスに足を踏み入れた途端にだ。
フロルの父親であるジョージ子爵は呆気にとられる。
「はあ、ジャンヌ!君はいきなり突然やって来て、何を馬鹿げた事を言っているんだ?」
と最初、ジョージ子爵は苦笑した。
それもそのはずである。
ジャンヌはジョージ子爵と面識はあるものの、何十年も前の知り合いでしかない。
突如、異国の女が我が家に来て
『この子はあなたの息子よ』と言われたら一体、誰が信じるだろうか。
頭がいかれた馬鹿な女としか思えない戯言と一笑するだろう。
何せ証拠もない。
「いいえジョージ、証拠ならありますわ! どうか息子のヤコブを見て頂戴。もうすぐ二十一歳になりますのよ!」
ジャンヌはヤコブをジョージ子爵に紹介した。
「お分かりジョージ! ヤコブは紛れもなくあなたの子供。だって私とラーラは黒髪黒眼でしょう。けれどヤコブだけは違う色です。そう、あなたと同じ茶色の髪と茶色の瞳。父親の系統を色濃く継いでます」
「はあ? おいおいジャンヌ……」
余りにも荒唐無稽な話を聞いていたジョージ子爵はただ口をあんぐり開けた。
しかしジャンヌは平然と言った。
「去年、夫が病で亡くなりましてね。夫も黒髪でしたのよ。──オホホ。これは不味いと思って。なのでヤコブは曾祖父の隔世遺伝と当時夫に説明して、なんとか事なきを得ましたわ。それでも夫は訝しがってましたけど。オホホホ!」
とジョージ子爵が絶句しているのをいい事に、ジャンヌはさも当たり前のように高笑いをした。
「ねえ、そうよね〜ヤコブ」
「そうだね母様。亡くなった父上は最初から俺を不義の子だと疑っていたよ。だから亡くなる最期まで俺には冷たかった」
と、ヘラヘラとニヤケながら息子のヤコブが応えた。
「いい加減にしろジャンヌ!」
ジョージはカンカンになって叫びだした。
「君の言ってる事はメチャクチャだ。それだけでどうしてコイツが、俺の子だと証明できるんだ!」
「いいえあなたの子ですわ。何よりもお腹を痛めて産んだ私が、確信してるのだから間違いありません!」
「馬鹿な……君は……狂ってる!」
その後も二人は怒鳴り喚き合う、物凄い言い合いとなったが、急にジャンヌがすまし顔でいった。
「まあまあジョージ、もういい合いはよしましょうよ。私も長旅でとても疲れてるの。ね、立ち話もなんですから、中で話し合いましょう」
そういうなりジャンヌ親子は、当主のジョージ子爵が止めるのを無視して、我がもの顔で屋敷の中へと入っていく。
「おい待て! ジャンヌ待ちたまえ!」
慌てて、ジョージ子爵はジャンヌたちの後を追った。
◇
それは誰が見ても、あまりの横暴であった。
しかし──この有り様を終始見ていたフロルは違った。
──信じられない、愛するお父様に長子がいたなんて?
フロルは突然やってきた異国の親子を、ただただ茫然と凝視する他になかった。
※ 2026/7/31修正済
第1話お読み頂き大変ありがとうございました。
以前一読された方は、改稿作品なので申し訳ありません。
※それでもまた、よろしければ続きを一読頂ければ嬉しいです。
※本当にありがとうございました。




