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七件屋の悪魔  作者: 西季幽司
第一章「クマゼコの呪い」
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あなたのせい②

 ブログ主、塩市丸はクマゼコの妖怪伝説を紹介した後、「七軒屋の住人こそが悪魔の正体である」と断じている。

「何故、七軒屋の住人が悪魔なのか?」というコメントが残されていたが、塩市丸はその問いに対して答えていない。人里離れた僻遠の地にある七軒屋の住人が時折、人里に現れては畑を荒らし、子供を誘拐していたということなのかもしれない。

 説明が終わると、隈井さんは「屋号がひとつ足りない謎が解けたな」と言った。

 そうだ。七軒屋なのに屋号がひとつ足りないことが不思議だった。自分で説明していて、そのことに気がついていなかった。ダメだ。ダメだ。広大君の受け売りだと、知識として身に着いていない。七軒屋には宗家と呼ばれた塩市家があったのだ。

 塩市家はどうなったのだろう?

「ふむ」と隈井さんが考え込む。

――隈井さん、何か悩みがあるみたいだね。

「悩み。そうかい? そんな風には見えないけど」

 大丈夫だ。今度は声を出さなかった。頭の中で考えただけだ。

――毎日、一緒にいて気がついていないのかい? 無神経だな。こんな大事件なのに、隈井さん、考え込んでいることが多い。

「それは事件のことを考えているからだよ。滅多にない大事件だからね。隈井さんは優秀な刑事だから、色々、推理しているのさ」

――そうかもしれないね。

 広大君はあっさり、自説を取り下げた。彼は決して、僕と争ったりしない。

 長い沈黙の後で、隈井さんがぽつりと言った。「ブログの管理者が誰なのか、調べてみる必要があるな」


 時間が止まっているのかと思った。

 七軒屋は昨日、訪れた時のまま、何一つ変わっていないように見えた。蒸し暑い季節だが、まるで天然のクーラーが効いているかのような涼しさだ。頭上を流れる雲が時折、村に陰を落として行く。青空から降り注ぐ陽光がきらきらと輝いて見えた。

 診療所の前に車を停める。立ち番の警官は三苫巡査部長とは違う人だった。今朝がた、交代したのだろう。

 畑で作業をする芦刈喜則さんの姿が見えた。梅雨の合間で、晴天が続いている。絶好の作業日和だ。

「丁度良い。芦刈さんから話を聞いてみよう」隈井さんが言う。

「隈井さんは、芦刈さんが犯人だと思っているのですか?」

 何故かそんな気がした。

「何故、芦刈さんが犯人だと思うんだ?」

「村の男が三人、殺されて、後に残ったのは余所者の恵良家を除けば、芦刈さん以外、みんなお婆ちゃんです。あの殺し方はお婆ちゃんには無理でしょう。消去法で芦刈さんが犯人だということになりませんか? 村の人だし、三人に対し、恨みを抱いていたとしても不思議ではありません。過疎化の村で、これだけ関係者が少ないと、犯人は限られてきます」

「なるほど。だが、余所者が犯人の可能性だってあるぞ」

「えっ!? 恵良さんが犯人なのですか?」

「そうは言っていない。三人に、恨みを持っている人間が村にやって来て、犯行に及んだ可能性があるということだ。それに凶器の問題がある」

 遺体は五本爪の凶器により殺害されたことが分かっている。凶器は見つかっていないし、それが何なのか特定できていない。クマゼコという五本爪を持った妖怪でもいない限り、そんな変わった形状の凶器が存在するとは思えなかった。

「やっぱり妖怪の仕業なのでしょうか?」

「馬鹿なことを言うな」

 鑑識よると、五本の爪痕は等間隔で爪先の形状が同じであること、更に傷跡より生物由来の細菌が見つからなかったことより、生物によりつけられた傷跡ではないという見解だった。

 クマゼコ犯人説は否定された形となっている。

「凶器は人の手により準備されたものだ。例えば包丁を五本、並べたようなものが凶器なのかもしれない」

「そんな手の込んだ凶器をわざわざ作ったのでしょうか?」

「そうだろうな?」

「何故、そんなものを使って殺害したのでしょうか?」

「それは――」と言いかけて、隈井さんは言葉を飲み込んだ。

 隈井さんに代わって、広大君が教えてくれた。

――クマゼコの仕業に見せかけたかったのだろうな。何とも幼稚な発想だ。犯人はこの村の事情に詳しい人物だということになる。

「五本爪の傷跡とかけて、梅雨入りと解く」と隈井さんが妙なことを言い出した。

「えっ⁉」と思わず聞き直す。

「今日から雨季、きょう、うき、凶器」

 謎かけだ。無口で真面目な人だが、時折、ひょうきんなところを見せる。「ああ、なるほど~!」と大げさに感心してみせると、僕の反応に白けてしまったようで、「芦刈さんから話を聞いてみよう」と歩き出した。

 慌てて後を追う。

「やあ、芦刈さん。精が出ますね」

「刑事さんたちか。ご苦労様。早くクマゼコを捕まえてくれ」

 芦刈さんは摘粒作業の手を休めると、大きく背伸びをして腰を伸ばした。

「クマゼコのことはさておき、五本の刃を持った農具のようなものはありませんか?」

「あんな惨いことをするなんて、とても人間業とは思えん。あれはクマゼコの仕業だ。クマゼコの手は人間と一緒で、五本指だ」

「クマゼコの仕業だとすると、何故、服部さんや入田さんたちを襲ったのでしょうね?」

「それは・・・食べるためよ」

「頭部が損傷していた遺体はひとつだけでした。ああいう生き物は必要以上の無用な殺生はしないのではないですか? 食べもしないのに、人を襲うことはないように思います」

「まあ、そうだな・・・五本の刃をもった農具ねえ~」芦刈さんが考え込む。

「参考までに、お宅の農具とか、見せてもらえませんか?」

「うちにたんまり農具がある。探してみたら良い。五本爪の農具なんてないと思う。他に・・・・刑事さんたちが見て面白いものなんてない。親父が生きている頃は、河童のミイラがあったんだけど、親父が亡くなった後、気味が悪いとお袋が言うので捨ててしまった。はは」

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