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魔女の初恋  作者:
3/10

無理矢理表現があります。ご注意ください。

王の射殺さんばかりの怒りが掴まれた場所から伝わる。

まるで刃のような怒りに魔女も王子たちも何も言えない。

和やかな庭に似合わない殺意にも似た怒りの気配に全員飲まれていた。


怒りを宿した冷たい瞳が強張った表情で己を見上げる魔女を一瞥して、そして王はそのまま魔女を引きずる。


痛いぐらいの力で掴まれた腕を振りほどくこともできずに魔女はただ王に引きずられるように歩くしかない。


外の景色が消え、風が遮断され、蝋燭の光が微かに揺れる薄暗い塔の長い長い石階段を上らされる間王は何も言わない。魔女を振り向くこともせずに険しい顔のままただ、前を睨みつけている。


階段を上りきり、荒々しくドアを開けると王はそのまま魔女をベットに突き飛ばした。


「きゃ!」


ベットに倒れこんだ魔女に王が覆いかぶさる。

魔女をみる王の瞳にはひとかけらの感情も感じられず、ただただ魔女を恐怖させた。

何をされるか長年の経験で悟った魔女の顔から血の気が引くのがわかっていたであろうに王は一切の容赦をせず、魔女の白い首筋に顔をうずめ、服のボタンを外していく。


ぞくりと背筋に走った感覚は恐怖だったのか植えつけられた快楽への予感だったのか。


凍りついた心なら何も感じないはずだった。だけど、氷が溶け掛けていた心は己の身体に伸ばされる王の手に耐え切れなかった。


「いやっ!」


長い間、出てこなかった拒絶の言葉。震える身体。歪む表情。怯え、恐怖する心。

つかの間の優しさでとけだした心は長い時間をかけて感じないようにしていたものたちをいとも簡単に魔女に取り戻させていた。


魔女の拒絶に王の動きが止まる。ゆっくりと顔を上げ、魔女を見る顔は全ての感情を削げ落としたようなのに瞳だけは何か、激しい感情を狂おしいほどまでに宿していた。


何もかもを焼き尽くすようなその赤い瞳に不意に焼き尽くされるように幻影を見た。


「お前は俺のものだ」


耳元で落とされたのはいつか聞いた言葉。泣き叫び、拒絶し、そしてあきらめた魔女の視界の端に萎れ、折れ曲がった花が見えた。

それはまるで今の己のようで魔女は静かに涙を流した。


「なぜ・・・」


全てが終わり、無言で離れていく背中に魔女はうつろな瞳のまま問いかけた。

ずっとずっと聞きたかったこと。

それを、問いかけた。


「なぜ、私を殺さないの?」


いらないのなら、殺してほしい。さいなむのなら、苦しめるのなら、無視しておいて、これからも戯れにこんな扱いをするのなら。


ころして。


魔女の問いに王は答えない。


だけど。


ベットに横たわる魔女の元に歩み寄るとうつろに己を見上げ、死を請う桜色の唇を静かに己のそれをでふさいだ。


それは今まで与えられていた奪いつくすような口付けではない。祈るような許しを請うような静かな口付け。


驚いたように目を見開いた魔女に何も言わず王は静かに魔女の前から姿を消した。


魔女は目を腕で覆った。そうでなければ無様に扉にすがりつき、叫びだしそうだった。


「どうして・・・・あんな口付けなどするの・・・・?」


心などくれないのに、見せてくれないのに。


「どう、して・・・・」


答えなど返してくれない。いつだって王は奪うだけ。魔女に何一つくれない。


この心にあるのは苦しく救いのないたった一つの気持ちだけ。


「どうして、私は貴方を愛してしまったの?」


家族を奪い、身体を奪い、自由を奪った男に心さえ奪われてしまった。出逢った遠いあの日。

あの日からこの心は王を愛していた。


ずっと見ないふり、気づかない振りをして目をそらし続けた気持ちが王のあの口付けでもろくも崩れ去ってしまった。


憎くて、苦しくてそれでも愛おしい男を想って魔女はただ、静かに泣くしかなかった。


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