Ⅳ
短いですが投稿です。
それから更に時が流れた。あの日、魔女が己の心に生まれていた感情を認めたあの日を境に王が彼女の前に現れることはなく、他の誰も入れなくなった塔の中、魔女は一人生きていた。
気が狂いそうになる。果てのない憎しみと苦しみと悲しみが胸を満たし、暗い海の中を照らすように愛する気持ちが灯る。
相反する感情に折り合いをつけることもできずにただ、泣くことしかできない。
心を凍りつかせることも殺すこともできない魔女は憎くて愛おしい男の姿を思い浮かべながら涙を流した。
耳が痛いほどの静寂。誰も居ない。誰の声も聞こえない。いっそ、狂えたら楽なのに、魔女の心は現実から乖離することを許さなかった。
死にたいと思うこともあったが何故だか自らの命を絶つ気になれない。死のうと思えば首を括るなりなんなり方法はあるというのにどうしてだか死ぬ気になれなかった。
生に意味など見出していないはずなのに死に魅力を感じない。
ベットの上でうずくまりながら魔女はじっと開かない扉を見つめる。一日の大半はこうやって開かない扉を見つめ続けている。
翡翠の瞳は翳りを帯び、痩せこけた身体を守るように縮こまった。
もう、来ない。
来ないのだ。
あの人は。
王は。
二度と、来ない。逢えない。
憎しみと愛しさが胸を満たす。
もう魔女自身もどうしたいのかわからなかった。
ただ、逢えないという事実が、この場に王が来ないということが、ひどく胸を騒がす。
「なぜ、ころさ、ないのよ………」
久しぶりに出した声は擦れ、老婆のようだと思った。老いは緩やかなはずなのに心は酷く、老いたような気がする。
あの日、遠ざかる背中に縋り付けばこんな想いはしなかったのだろうか?それとも開くことのない扉を力の限り叩き、叫べば王は来るのだろうか?
煩わしいと私を殺してくれるだろうか?
養母を切り殺した剣で私の胸も切り裂いてくれるのだろうか?
そんなことを考えても魔女は結局なにもできない。時間を巻き戻す術はなく、扉に近づくことすら怖くてできない。
忘れられた存在だということを認識したくなかった。
変化もないただただ己の感情を持て余すだけの日々。その日々が終わりを告げたのは雲ひとつない晴れた日のことだった。




