表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第一部 神話の帰る場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/115

第二十話 忘却の終わり

光が世界を包んだ。


 何も見えない。

 何も聞こえない。


 ただ。 


 温かかった。

 まるで誰かに抱きしめられているような。 


 懐かしい光。

 優しい光。


 ◇ 


 蒼真は目を閉じる。 


 その光の中で。

 たくさんの声が聞こえた。


 祖母の声。

 陸の笑い声。

 潮の声。

 父の声。

 母の声。

 島の人たち。

 神々。 


 そして。

 名も知らない誰かたち。 


 みんなの想いが重なっていた。 


「ありがとう」 


 その声がどこから聞こえたのか。 


 蒼真には分からなかった。 


 でも。 


 確かに聞こえた。 


 ◇ 


 やがて光が収まる。 


 蒼真はゆっくり目を開いた。 


 空は青かった。

 裂け目はない。

 黒い亀裂も。

 黄泉の王も。 


 そこにはいなかった。 


 静かな空。

 穏やかな海。

 風が吹いている。 


 いつもの瀬戸内海の風。 


 ◇ 


「終わった……?」

 陸が呟く。


 誰も答えない。 


 だが。 


 みんな感じていた。 


 終わったのだと。 


 黄泉の王は消滅したわけではない。

 忘却そのものだから。 


 人の心から完全になくなることはない。 


 けれど。

 封じられた。 


 再び。

 人と神の繋がりによって。


 ◇ 


 イザナギが蒼真を見る。 


 優しく。

 誇らしそうに。


『よくやった』 


 蒼真は首を振る。 


「俺じゃない」

「みんなだ」 


 イザナギは笑った。 


『だから良いのだ』


 その言葉に。 


 蒼真は少しだけ笑った。 


 ◇ 


 その時。

 父の身体が光り始める。 


 蒼真の笑顔が消えた。 


「父さん」 


 拓海は困ったように笑う。 


「時間みたいだ」

「待って」

「まだ話したいことが――」

「あるだろうな」 


 父は頷く。 


「俺もある」

「じゃあ」

「でもな」 


 拓海は蒼真の肩へ手を伸ばす。 


 触れられないはずなのに。

 不思議と温もりを感じた。 


「もう大丈夫だろ」 


 蒼真は言葉を失う。 


 父は昔と同じ顔で笑う。


「お前は一人じゃない」 


 その視線が潮へ向く。

 陸へ向く。

 祖母へ向くように遠くを見る。 


「ちゃんと繋がった」 


 蒼真の目から涙が溢れる。


 今度は止めなかった。


 ◇ 


「父さん」

「ん?」


「ありがとう」


 拓海は少し驚いた顔をする。 


 そして。

 とても嬉しそうに笑った。 


「こちらこそ」 


 その言葉を最後に。

 父の姿は光となる。 


 海風に溶けるように。

 空へ昇っていく。 


 蒼真は見送った。


 泣きながら。

 笑いながら。


 最後まで。 


 ◇ 


 イザナギとイザナミもまた光へ変わっていく。 


『神話は終わらぬ』 


 イザナギが言う。 


『人が語る限り』

『想う限り』

『我らはそこにいる』 


 イザナミも微笑む。 


『生と死は別れではない』

『巡りだ』 


 そして二柱は消えた。


 創世の門も閉じる。 


 静かに。 


 長い役目を終えるように。


 ◇


 残されたのは三人。 


 蒼真。

 陸。

 潮。 


 しばらく誰も喋らなかった。 


 そして。

 最初に口を開いたのは陸だった。


「腹減った」 


 蒼真は吹き出した。

 潮も笑った。

 涙を拭きながら。 


「台無しだよ」

「いや限界なんだよ」

「世界救った後なんだから何かあるだろ」

「飯だ」 


 そのやり取りが可笑しくて。


 三人はしばらく笑い続けた。 


 青い空の下で。


 いつまでも。 


 ◇ 


 神話は終わった。

 けれど。

 物語は終わらない。 


 人と神が共に歩く未来。 


 それは今。

 ここから始まるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ