表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮風の神守り  作者: 灯野 しおん
第一部 神話の帰る場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

第十四話 おのころ島上陸

船は静かに進む。


 誰も言葉を発しなかった。

 目の前にある島が。

 あまりにも現実離れしていたからだ。


 おのころ島。 


 日本で最初に生まれた島。

 神々が国を創った場所。 


 神話の舞台が。

 今、目の前にある。 


 ◇ 


 近づくにつれて島の姿がはっきり見えてきた。 


 島の中央には巨大な樹。

 山よりも高い。

 枝は雲の中へ伸びている。

 葉は青白く光り。

 風が吹くたび鈴のような音を鳴らしていた。 


「すごい……」 


 陸が呟く。 


「世界樹みたいだな」

「神樹」 


 潮が答えた。 


「国生みの時からある木」 


 蒼真は思わず見上げる。 


 圧倒される。

 まるで島全体が生きているようだった。 


 ◇ 


 やがて船が浅瀬へ入る。 


 白い砂浜。

 透明な海。


 波の音さえ神聖に聞こえる。 


 陸が船を止めた。 


「着いたぞ」


 蒼真は船を降りる。 


 足が砂に触れた瞬間。

 胸の勾玉が熱くなった。 


「っ!」 


 藍色の勾玉が光る。 


 すると。

 砂浜の先に道が現れた。 


 光の道。

 神樹へ続く一本道。 


「神守を迎えてる」 


 潮が言う。 


「おのころ島が」 


 蒼真は無意識に勾玉を握った。 


 父もここへ来たのだろうか。

 同じ景色を見たのだろうか。 


 ◇


 三人は歩き始める。 


 道の両側には古い石像が並んでいた。 


 狐。

 蛇。

 鹿。

 鳥。 


 どれも神の使いのようだった。


 だが。

 途中で蒼真は違和感に気づく。 


「壊れてる」


 石像の一部が欠けている。

 ひび割れているものもある。 

 黒い染みが広がっているものも。 


 潮の表情が曇った。 


「黄泉の影響だね」

「こんなところまで?」

「もうかなり侵食されてる」 


 その言葉に。


 誰も安心できなかった。


 ◇ 


 神樹の根元へ着いた時だった。 


 突然。 


 大地が震えた。 


 ゴゴゴゴ……。 


 島全体が揺れる。 


「なんだ!?」 


 陸が叫ぶ。 


 その瞬間。 


 神樹の根元から黒い霧が噴き出した。 


 嫌な気配。


 冷たい空気。 


 胸がざわつく。


 そして。

 霧の中から何かが現れた。 


 人影。


 いや。 


 人ではない。 


 黒い鎧。

 顔のない武者。


 その数。

 一体。

 二体。


 十体。 


 二十体。


 次々と現れる。 


「黄泉の兵だ!」

 潮が叫んだ。 


 蒼真の背筋が凍る。 


 死者の軍勢。

 神話の怪物。 


 それが現実として目の前にいる。 


 ◇ 


 先頭の武者が剣を抜く。 


 黒い刃。 

 そこから闇が滴っていた。 


「下がれ!」


 潮が前へ出る。 


 蒼い光が手の中に集まる。


 海水が渦を巻く。 


 そして。

 一本の槍へ変わった。 


「潮……!」 


 蒼真は目を見開く。 


 神としての姿。

 本気の力。

 潮は槍を構える。 


 その姿は美しく。

 そしてどこか悲しかった。 


「本当は戦いたくないんだけどね」

 そう呟く。 


 次の瞬間。

 潮は地面を蹴った。 


 蒼い閃光が走る。

 黄泉の兵が吹き飛ぶ。 


 だが。

 倒れない。

 霧となり。 


 再び形を取り戻す。 


「再生した!?」

 陸が叫ぶ。 


「まずい」

 潮の顔色が変わる。 


「普通じゃ倒せない」 


 その時だった。

 蒼真の勾玉が激しく輝く。 


 眩い光。

 そして。 


 父の声が聞こえた。 


 耳元で。

 はっきりと。


『蒼真』

『神樹へ行け』

『お前にしかできない』 


 蒼真は顔を上げる。 


 神樹の奥。

 巨大な幹の中心に。

 一つの扉が見えた。 


 白銀の扉。

 神代の紋様が刻まれている。 


 潮もそれに気づく。


「まさか……」 


 その表情が変わった。 


「創世の門」 


 蒼真は扉を見る。 


 胸が高鳴る。

 あの先に。

 父の答えがある。

 神々を救う方法がある。 


 そして。 


 黄泉を止める鍵が。 


 だが同時に。

 父が言った言葉が蘇る。 


 ――絶対に一人で黄泉の門へ近づくな。 


 創世の門。

 黄泉の門。 


 その二つはきっと繋がっている。 


 蒼真は拳を握った。


 運命の中心が。

 すぐそこまで迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ