22 「丸花蜂」の知らせ(エルキュール王)
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我が物顔で王城を闊歩していた黒衣の「鷲」たちが、いつの間にか本来の「影」の姿に戻っている。
私室を拡幅して執務室を作り、引きこもりながら職務に当たっていたエルキュール王が王城内の変異に気づいた頃。王家の影である「丸花蜂」(ブルドン)たちもまた、王城内と各地の異変をエルキュール王に伝え始めていた。
もともとそれほど大きな国ではないフㇽラージュ。特に大きな南のガルデニア公爵領と北のミルトゥ辺境伯領、東西の国境を縦長に守るシティス侯爵領とグリシーヌ侯爵領以外は、馬車で一日あれば通過できるほどの面積しかない。河川が氾濫すればそれが複数の領地に影響することもある。だから、フㇽラージュの領主たちは元々連携して動くことが多かった。
その領主たちが、頻繁に顔を合わせているという。
「もう一つ、御耳に入れたいことが」
「なんだ?」
「ヴィーゼルから、税として納める食糧を増やすようにという指示書が間もなく届きます」
「……皇帝は相変わらず戦闘狂か」
「ここの所、中央から離れた属国のあちらこちらから応援要請があるらしく、先月頭は東の果てに向かって鎮圧した後、月末には北の方で小競り合いがあったので応援要請に応じ……というような形で、都にいる暇も軍を休ませる間もなく、帝国内を飛び回っているようです」
「皇帝は全ての戦闘に参加したい方だからな」
「とはいえ、さすがに御年も六十を越えました。馬の移動がつらくなってきたようでして、最近では馬車移動に切り替えたことを確認しております」
「ほう」
エルキュール王の目が光った。
「『草原の輝星』にも陰りが見え始めたということか」
エルキュール王の頭の中で食糧が必要な理由が探られる。
「軍の派遣がこれまで以上に増えるとの予想。そして、あの騎馬隊が分割して各地に派遣されるようになる、か」
速さと数の双方を兼ね備えたヴィーゼル騎馬隊の強みが半減するということになる。親征でなくなれば将軍の力量がものを言うようになるが、これまでヴィーゼルの将軍たちは皇帝の指示通りに動かねば首を飛ばされるとあって、自分で作戦など立てたことのないような者ばかりだったはず。
己の力を過信して、後継を育てないとこうなる。これは自分自身への戒めでもあるとエルキュール王は思った。
「それで、鷲の動きはどうだ?」
「それがどうやら『かのお方』に心境の変化がおありの御様子でして」
「あれも人だ。さぞ余を恨んでいることだろう」
「これまでは、陛下への意趣返しとも思われるような言動が数多く見られましたが、最近、新しい法を提出なさっても、それが我が国の利益になるようにと考えられたものが増えております」
「鷲の情報が変わったのか?」
「いえ、鷲そのものが変化しております。これまでは隠密部隊でしたが、この一月ほど、『かのお方』の親衛隊のような形になりつつあります」
「裏の仕事をさせていないと言うのか?」
「そういう仕事もあるでしょうが、今はほとんどが護衛業務についております」
一体、クロティルド妃に何があったのか。
ふわりと風が動いたような気がした。
「至急お耳に入れたいことが」
もう一人、「丸花蜂」がやって来た。先に来ていた「丸花蜂」が姿を消すと、後からやって来た「丸花蜂」は周囲を確認し、防音魔法をかけてから口を開いた。よほどの内容らしい。
「ヴィーゼルの属国並びに周辺国において散発する暴動等ですが、どうやら周辺諸国と属国が連携して行っているようです」
「……反乱の首謀者が各国を説得したということか? わが国にはまだ接触がないはずだが、その者について何かつかんでいるのか?」
「恐れながら申し上げます。青毛の馬に乗り、銀髪にサファイアブルーの瞳を持った、未成年と思われる若い男であるとのことです」
「サファイアブルーの瞳だと?」
「複数の筋から確認いたしました。また、その者が国内の領主たちの元にも出入りした痕跡がございます」
先程の「丸花蜂」も、領主たちが頻繁に顔を合わせていると言っていた。彼らがもし「サファイアブルーの瞳」を持つことの意味を踏まえた上でそうしてるのであれば……
「まさか……」
エルキュール王は立ち上がった。体が震える。
「その若者の人相書きを手に入れました」
折りたたまれた紙を「丸花蜂」が恭しく差し出した。エルキュール王は震える手でその紙を丁寧に開いた。そして、描き出されていた若者の人相書きを見て大粒の涙をこぼした。
「アンジェ……!」
「はい、髪や瞳のお色は陛下と同じ、お顔はアンジェリーヌ様と瓜二つでございます」
「アルトゥールが……生きていたのか」
「はい。その若者の隣には、常にミルトゥ辺境伯家のレーニエ殿がついております。親子、兄弟などとからかう者もいるようです。5年前、鷲に襲撃されたことは間違いありません。『ガルデニア公爵家のアルベール』様は、死を偽装して逃げ延び、ミルトゥ辺境伯家の保護下にあったのでしょう」
叔母であるアンジェリーヌ妃と甥であるレーニエは、昔からよく似ていた。アンジェリーヌ妃が亡くなってから、レーニエは王都に来なくなった。辺境を守る騎士団長になるためという表向きの理由は嘘ではないが、レーニエを見るとエルキュール王の涙腺が緩み、それを不満に思うクロティルド妃からレーニエを守るためでもあった。
「アルトゥールが生きていた」
「はい」
「そうか、そうか」
目を閉じたエルキュール王は、しかし感慨に浸ることなく「丸花蜂」に命じた。
「ここから先、アルトゥールを守る者を5名選べ。また、クロティルド妃の耳に入れぬよう、最新の注意を払え」
「は」
防音魔法が解かれ、「丸花蜂」が姿を消した。
生まれた日に生き別れた息子。
一度ならず二度死んだことにされてしまった息子。
愛する妻との間に生まれたたった一人の子が生きている。そして、この国のために動いている。
「余もこの国の膿を出し切らねばならぬな」
願わくは、死ぬ前に、一度でいいから会いたいものだ.
そう思いながら、エルキュール王は、クロティルド妃から上がった「ヴィーゼルとの交易促進のための道路拡幅庵・舗装案」を「否決」の書類ケースに入れた。ヴィーゼルが攻めやすいようにするための道など、いらない。この国の民が必要とするものに税を使うべきだ。
クロティルド妃の怒りを買い、たとえこの首と胴体が離れてしまっても構わない。アルトゥールが動きやすいように遠くから支援しようと、エルキュール王は決意した。
読んでくださってありがとうございました。
本当は調略の場が書けたらいいのですが、「異世界恋愛」がテーマなので今回はカットしています。
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