第45話 川のグルメと宝石箱
冒険者ギルドの掲示板を眺めたあと、ナカムラは受付に声をかけた。理由は、以前案内をお願いした老戦士のゲイルに岩山地帯の同行依頼をするためだった。
数日後、老戦士ゲイルは豪快に笑いながら顔を見せた。
「またわしに頼むか。まぁ、お前らと行くのは悪い気はせん」
今回は岩山地帯での採掘を目的とした探索だ。ナカムラたちは、洞窟内の鉱石が金になると見込んでいた。だが同時に、危険がともなう事は予想できた。だからこそ、戦闘回避の技術を持つゲイルの存在が必要と感じたのだろう。
ゲイルもそれを理解しており、にやりと笑った。
「競合の少ない場所に案内してやろう。難所だが、掘りつくされた場所に行くのもつまらないだろう」
こうして一行は再び山脈を目指した。今回は数日のキャンプを見据え、それぞれ荷物を増やしている。ゲイルも前回とは違い、斧のほかに背中に袋を背負い、腰にはいくつかの道具を下げていた。
下部の森林を抜け、赤い幹の太い樹木が並ぶ景色を歩く。
やがて緑は少なくなり、岩肌が剥き出しになった荒々しい地形が現れる。風は冷たく、空気は乾いてきた。
途中、河川沿いで休憩をとることにした。
ナカムラとコリーは野草を摘み取り、調理の下準備を進める。その間、ゲイルは川べりにしゃがみ込んだ。
「見とけ。こういうのも技術じゃ」
彼は川を挟むように立ち並ぶ岩の傍に立ち、斧の背を岩に叩きつけた。
――ッ。
衝撃で水中に振動が走り、魚が気絶してぷかりと浮かび上がる。
「餌がなくとも収穫できる。覚えておくといい」
リンが目を丸くし、その様子を眺めている。
「すごい」
ゲイルは笑いながら、リンにコツを教えていた。
採れた魚と山菜を前に、ナカムラの出番だ。
包丁で鮮やかに魚をさばいていく。だが内臓を取り除こうとすると、わずかに毒が見つかった。
(腹を下す程度だろうが……この世界でも川が汚れてるのか?)
疑問を胸にしまいながら、川魚を串に差し塩を振り、炭火の前に刺していく。
炭のはぜる音とともに、川魚の串焼きがゆっくりと焼き上がっていく。香ばしい匂いが辺りに漂い、川沿いの風と混じり合って鼻をくすぐる。串に刺さった魚は、じっくりと炭火で焼かれることで、皮はパリッと、身はふっくらと仕上がっていく。うっすらと焼き色がつき、脂がじわりと滲み出て炭に落ちるたび、香りが一段と濃くなる。
焼きたてを手に取ると、串の熱が掌に伝わり、思わず胸が高鳴る。パリッとした皮の食感が心地よく、ほろっと崩れる身からは淡白ながらも深い味が広がる。川魚特有の清らかな香りに、炭火の香ばしさが重なって、噛むたびに自然の恵みが舌に染み込んでいく。塩だけのシンプルな味付けだからこそ、魚の旨みがまっすぐに伝わる。皮目に残った脂の甘みが後を引き、もう一口、もう一口と自然に手が進む。
「やっぱり山で食う飯は格別じゃな」
「美味しい」
「ナカムラさん、鉱石よりお店やったてた方が儲かるんじゃないですかぁ」
「それだと、こうやって色々回れないしなぁ」
笑い声と温かいお茶が、ひとときの疲れを癒す。
食事を終え、再び歩き出す。
生態系は下部とはすでに違っていた。
崖を駆け上がる岩ヤギ。角で岩を傷つけて縄張りを示す。
近づくと帯電し、羽ばたきで稲妻を走らせる雷電鳥。
ゲイルは歩きながら、それらの特徴と避け方を教えてくれる。
「特にクマには気をつけろ。灰色のヤツはまだ話が分かるが、白い奴は駄目じゃ。狂暴で、見かけ次第襲ってくる」
その声音は冗談ではなく、本気の忠告だった。
やがて、ゲイルが立ち止まった。
「着いたぞ。ここだ」
指差した先には、一見ただの岩壁。しかし近づくと、人ひとりがやっと通れる狭い入口が隠れていた。
「入口が狭い分、他の連中は気づかん。だが中は広い。値の張る石もそれなりに出る」
身体をかがめて中へ入ると――。
そこは別世界だった。
天井や壁に無数の結晶が張り付き、淡い光を放っている。青や緑、紫の輝きが混ざり合い、闇を払う自然のシャンデリア。
「……きれい」
リンが足を止め、瞳を輝かせる。
「わぁ、宝石箱みたいですねぇ」
コリーも見惚れていた。
ゲイルは笑いながら、腰からピッケルを取り出した。
「眺めてるだけじゃ金にはならんぞ。さぁ、掘るか」
その声に我に返り、ナカムラたちも道具を手にする。
岩壁にピッケルを打ち込み、金属と石がぶつかる音が洞窟に反響する。
煌めきが散り、欠片が足元に落ちる。




