表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/91

第44話 お買い物

 オークションで《日除けの指飾り》を落札してから数日。

 リンは革のローブを脱ぎ捨て、街中を軽やかに歩いていた。白銀の髪が陽光に揺れ、透き通る肌には、もう以前のような苦しげな影がない。


「せっかく外を歩くのが平気になったんですから、可愛い服を買いましょう!」

 そう宣言したのはコリーだった。

 いつもなら落ち着いている彼女だが、興奮すると口調が幼くなる。いまも「買いましょう!」の語尾が妙に跳ねていた。けれど長女らしい面倒見の良さで、妹を可愛がるようにリンを見ているのが分かる。


「私、気にしない」

 リンはいつもの調子でそっけなく答えたが、それが即ち「拒否」ではないことを、二人は理解していた。


「え~!?それなら私が選びまーす!」

 コリーの声が一段と弾む。


 ナカムラはといえば、胃のあたりを押さえていた。

 オークションで散財したばかり。資金繰りを考えると頭が痛い。けれどここで「稼いでからにしよう」などと水を差すのは野暮だろう。仲間の笑顔には、それだけの価値がある。


 そうして三人が向かったのは、大通りにある衣類専門店。外観は華やかで、色とりどりの布地がウィンドウを飾っていた。店内に足を踏み入れると、香水のような匂いと、滑らかな布が擦れ合う音が迎えてくれる。


「ここ、時々来てるんですよ~。私の荷物、多かったでしょ?」

 コリーが笑う。ナカムラは思い出す。

 引っ越しの時、コリーが運び込んだ衣装の山。あれほどの量をどこにしまっていたのか、不思議で仕方がなかった。


「……趣味があるのはいいことだな」

 ナカムラが苦笑すると、コリーは得意げに胸を張った。

 さっそく始まる着せ替え大会。

 リンは試着室と店内を行ったり来たりする。


「ナカムラさんはどんなのがいいと思いますかー?」

 コリーが両手に服を抱えながら振り返る。


 ナカムラは困りながらも、店先に掛かっていた派手なブラウスを指さした。

「そこの、カラフルなのとか女の子っぽくていいんじゃないか?」


「ダメでしゅ!」

 即座に却下された。


「パステル系は、リンちゃんの肌色と同化しやすくてぱっとしないんですよ!全然わかってない!」

 ぷくっと頬を膨らませ、子供のように抗議するコリー。


 ナカムラは頭をかきながらため息をついた。

(こういう時の正解はなんて言うのがいいんだろうなぁ)


 結局、全権はコリーに委ねることになった。

 選ばれたのは、黒や白を基調としたモノトーン系の服。無駄な装飾を排し、シルエットで魅せるデザインだ。特に黒のゴシックワンピースは、リンの雪のような肌と白銀の髪を引き立て、凛々しさと可愛さを同時に際立たせていた。


「……似合う」

 思わずナカムラが口にすると、リンは少しだけ頬を赤らめ、そっと視線を逸らした。


 コリーは両手を叩き、満足そうに笑った。

「ほら~! 私に任せて正解だったでしょ!」

 その後も数着を購入し、リンはその場でワンピースに着替えることにした。

 だが、慣れない買い物に緊張したのか、リンは試着を終える頃にはやや疲れた顔をしていた。


「なんか、疲れた」

 探索で獣と死闘を繰り広げても息が乱れない彼女が、今はすこし項垂れている。


 コリーは心配そうに覗き込み、「ごめんね~、ついテンション上がっちゃった」と肩をすくめた。


「うん、大丈夫。嬉しい。ありがとう」

 短い言葉。けれどその声音は、確かに喜びを含んでいた。


 その一言に、コリーは目を潤ませながら笑った。

「リンちゃん……っ、もう、可愛いんだから!」


 店を出てからは、都の大通りを三人で歩いた。

 露店では香ばしい串焼きや甘い菓子が売られ、行商人の声が響く。

 コリーが駆け寄り、焼きたてのパンを買ってきて三人で分け合った。

 以前、都に来たばかりの時に買ったはちみつパンだ。相変わらずたっぷりの蜂蜜がかかっており、以前と少し彩りの違うフルーツが添えられている。


 「これは、私達がここに来たばかりの時に食べたパンなんですよ、リンちゃんも一緒に食べましょう」

 コリーが手渡したパンを一口かじり、リンは、ふわりと微笑む。日差しの下で見せる笑顔は、銀色の髪と同じように輝いていた。


 きっと、こんな日をずっと見ていたくて人は働き続けるのだろう。

 そして、次に行く冒険のために、保存できる食材や調味料などを買い込み、街を存分に歩き回る。

 これまでローブに身を隠していたリンにとっては、すべてが新鮮な体験だった。


 最後に寄ったのは道具屋。

 並んでいたのは、武骨なピッケルや鎖、ランタンといった実用品ばかり。つい先ほどまでの華やかな服飾の世界とは正反対だ。


「少し雑。こっち丁寧」

 先ほどの服屋とうってかわって道具を見定めるリン。


「うわぁ、やっぱり実用品の目利きは外さないですねぇ」

 コリーが笑い、ナカムラも苦笑した。

 購入したピッケルを抱え、三人は夕暮れの街を帰路につく。


 リンの足取りは軽い。黒のワンピースに身を包み、白銀の髪を揺らして歩くその姿は、以前の彼女よりもずっと自由で、ずっと楽しそうだった。


(華やかになったもんだ、これからもこんな日々が続くといいな)

 ナカムラはそんな事を思いながら、二人の後ろ姿を見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ