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おっさん異世界でフグをさばいていたら伝説になる  作者: 北真っ暗
1つ目の伝説

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第43話 お金より大切なもの

 場内が少し落ち着きを取り戻した頃、司会役の男が次の品の紹介をはじめる。

「さて、次に紹介する品は……こちら。《日除けの指飾り》でございます!」


 布を取り払うと、小さな台座の上に銀色の指輪が置かれていた。表面には薄く蒼い宝石が埋め込まれ、そこから柔らかな光が漂っている。


「この指輪は、強烈な直射日光をやわらげる効果を持ちます。身につけた者は、強い日差しの中でも快適に活動できるようになるでしょう。砂漠の行軍に、長旅に、あるいは病を抱える者への贈り物にいかがでしょうか?」


 会場内での反応は両極端になった。必要ない人間にとってはあまり価値を見出さなれない物なのだろう。しかし、説明を聞くやいなや、ナカムラは隣のリンを見た。彼女は瞬きもせず指輪を見つめている。


 リンは、アルビノ種特有の脆さを持っていた。直射日光が肌を焼き、体力を急速に奪うため、普段は厚手の革ローブで身を覆わざるを得ない。だが戦闘や探索では、その装備は動きにくさの原因となり、疲労も増していた。


 (もし、この指輪があれば。)

 ナカムラの胸に、熱い衝動が込み上げる。

 (彼女の弱点を補い、もっと自由に動けるようにしてやれる。何より、リン自身が望んでいることだと分かった。)


「最低落札価格は――」

 司会者が数字を告げる。

 決して手の届かない額ではない。だが、それでも安くはない。


「……ナカムラさん」

 コリーが小声で囁く。

「行きましょうよ」


 ナカムラは小さく頷いた。

 入札が始まる。

 最初は商人らしき男たちが軽く競り合い、価格がじわじわと上がっていく。砂漠を行き来する商隊にとっても、この指輪は有用なのだろう。


「……っと、少し競り合ってるな」

「まだ様子見でいいんじゃないですかねぇ」

 二人で囁き合いながら額を計算する。

 やがて、一度場が落ち着いた隙を見て、ナカムラは手を上げた。


「こちら、追加!」

 場内の視線が一瞬だけナカムラに集まる。彼は息を殺すように席に腰を下ろした。

 そこからは、まさに神経戦だった。


 砂漠の民族衣装を纏った貴族風の女が挑み、商人がかぶせ、また別の商人が額を上乗せする。ナカムラも食らいつく。数字が一段階ずつ跳ね上がるたび、心臓の鼓動が早くなる。


「大丈夫ですか? ちょっと高いですよ」

「分かってる。でも、ここで引いたら後悔する」


 額はすでに当初の予定を超えていた。

 だがリンの表情がほんの少し、指輪を見つめる眼差しが揺らいだのを、ナカムラは見逃さなかった。彼女は普段、感情を表に出すことが少ない。けれど今だけは、ほんのわずかに「欲しい」という願いが滲んでいた。

 その瞬間、ナカムラは迷いを捨てた。


「さらに上乗せだ!」

 強く手を挙げる。その声に会場がざわめき、対抗していた商人が眉をひそめる。

 額はもう常識的な水準を越えているようだ。商売で利益を見込む者たちにとっては、これ以上追う理由はない。

 やがて、最後まで競っていた貴族風の女が小さく舌打ちし、手を引いた。


「――落札!」


 司会者の槌が打ち鳴らされる。

 一瞬、場内の喧噪が遠のいたように感じた。

 勝ち取ったのだ。リンの未来を変える品を。

 コリーが肩を叩いて笑う。


「やりましたね、ナカムラさん!」

 ナカムラは深呼吸をし、リンの方を見た。


 リンはこちらを見つめていた。だが、彼女の瞳の奥がわずかに潤んでいるように見えた。

「……ありがとう」

 その小さな声に、ナカムラはすべて報われた思いがした。


 品はその場で受け渡され、ナカムラは両手で慎重に指輪を差し出した。

「さ、つけてみろよ」

 リンは一瞬だけ考えたように動きを止める、そして指輪を薬指にはめた。

 宝石が微かに光り、彼女の肌を淡く包む。


 建物内では、よくわからないため、一旦外に出て、陽の光の下へ彼女を案内する。革のローブをコリーが手に持ち、彼女の背中を押す。少し不安そうに建物から外にでたリン。今までならば辛そうに目を細めていた彼女が、すっと顔を上げた。


「明るい、平気」


 短い言葉だが、その声は確かに喜びを帯びていた。

 その姿に、ナカムラとコリーは顔を見合わせ、笑い合った。

 今日の出費は大きい。だが、それ以上の価値があったと確信できた。


 もう用がなくなったとばかりに会場を後にしようとするとこに、ルカマーチに声をかけられる。

「やるじゃない、ムラちゃん。まさかあんな金額を叩きつけるとは思わなかったわ」

「……必要だったからな」


 気のない返事を返すナカムラに、彼女はリンを見つめながら意味ありげに微笑んだ。

「まぁ、嬉しそうだからよかったじゃない?私も欲しかったけど、ご遠慮しといたわ」


 その言葉に、ほっとした。おそらく彼女が参加していたらこうはならなかっただろう。

 安堵の表情とともに、帰路につく。


 オークションは終わった。だが、彼らの冒険はこれからさらに広がっていく。


 「まずは金策だな」

 「はいー!」

 「頑張るっ!」


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